Professional CFO Interview
テクノプロ・ホールディングス株式会社
執行役員CFO
≪経歴≫
2001年 国際投信投資顧問株式会社(現・三菱UFJアセットマネジメント株式会社)
2003年 Integration Management Co. Ltd.
2005年 CFA Corporate Finance Co. Ltd.
2007年 Kingsoft 執行役員CFO
2008年 リクルートホールディングス
2015年 野村證券 Executive Director
2018年 Viibar(現VideoTouch) 取締役CFO
2021年 GO株式会社 執行役員CFO/経営戦略本部長(旧・株式会社Mobility Technologies)
2026年 テクノプロ・ホールディングス株式会社 執行役員CFO
-CFOを目指すようになった原点について教えてください。
大学時代は、もともと官僚を目指していました。産業を育成したり、産業誘致に関わったりする仕事に興味があったからです。ただ、就職浪人をしていた時期に、今でいうスタートアップ企業でアルバイトをしたことが転機になりました。
データ入力の仕事で入ったのですが、人が少ないので営業資料を作ったり、コーポレート周りを手伝ったり、何でもやりました。経営者は面白いアイデアや技術、営業力を持っている一方で、会社としての基盤は十分に整っていなかった。
そこで、「こういう人たちがやりたいことを実現するために支える存在になれないか」と考えるようになりました。自分はカリスマ的なナンバーワンというより、右腕や左腕として経営者を支える方が性格にも合っている。そこでCFOという仕事を知り、この道を目指そうと思いました。
-新卒では資産運用会社で株式リサーチアナリストとしてキャリアをスタートされています。
CFOになるには、資本市場を知ることと、会社や業界を分析する力が必要だと考え、まずアナリストを選びました。
バイサイドのアナリストなので、若手でもすぐ担当セクターを持ち、ファンドマネージャーに情報を提供したり、推奨したりします。早い段階から実践とプレッシャーにさらされたことは良い経験でした。
一方、2年ほど経験すると、第三者として企業を見るだけではなく、もっと深く経営に関わりたいと思うようになりました。また同時に会社には良い時だけでなく悪い時もあります。そうした局面までマネージできる経営者になりたいと考え、企業再生の世界へ移りました。
-2003年に企業再生ファームへ移られました。そこでの経験は、ご自身のキャリアでも特に大きかったそうですね。
ここで得た最大のものは「胆力」です。
僕が入ったのは、ダイエーの経営中枢にいた方々が立ち上げたハンズオン型の企業再生ファームでした。年齢に関係なく一人のプロフェッショナルとして責任を負い、若手だから困ったら誰かが助けてくれる、という環境ではありません。
自分で判断して進めた結果、大きなクレームになり、フィーの減額や損害賠償の話にまで発展したこともあります。25歳くらいでそうした責任にさらされる経験は、なかなかないと思います。
再生の現場では、表向きには「何とかなる」と社員の方々を励ましながら、裏では法的手続きを準備していることもあります。手続きが表に出た瞬間に泣き崩れる方がいたり、債権者が押しかけてきたりする。その中でも冷静に立ち続けなければいけません。
こうした経験から、「ここまで行くと本当に危ない」というラインを体感値で持てるようになりました。CFOも経営の一角を担う以上、本当に厳しい時に最後まで逃げない胆力が必要です。同時に、そこまで行かないように水際で予防線を張る。この感覚は今でも大きな財産です。
-その後、M&Aアドバイザリーを経てKingsoftのCFOに就任されています。
僕の中ではキャリアの軸は一貫していました。20代はプロフェッショナルとして個別の「技」を磨き、30歳くらいから、それらを組み合わせてCFOとして実践したいと考えていたんです。
アナリストとして分析を学び、企業再生で守りを経験した。その次に必要だと思ったのがM&Aです。守りだけでは企業価値は上がらないので、攻めの力も身につけようと考えました。
ただ、Kingsoftで実際にCFOをやってみると、自分の無力さも感じました。分析、再生、M&Aという技があっても、それだけで経営ができるわけではない。今振り返れば、当時の自分には周囲を説得し、動かす力も足りなかった。そこで、改めて自分を再構築する必要があると感じました。
-2008年にリクルートへ入社され、M&Aを中心にIPOや企業再生等々幅広い経験をされています。
最初はひたすらM&A案件を経験しました。ただ、数十件を手掛けていくと、「何件やったか」自体にはあまり意味を感じなくなってきます。
むしろ面白くなったのは、M&Aを経営のツールとしてどう進化させるかというテーマです。
M&Aは買うまでで終わりではなく、買った後こそが重要です。事業、市場環境、組織マネジメント、ガバナンスなど、何でも触らなければいけない。ファイナンスやバリュエーションの技術だけでは完結しません。M&Aは「全身運動」であり、経営そのものだと感じるようになりました。
-ご自身の経営観の7~8割をリクルートで培ったとおっしゃっています。何が最も大きかったのでしょうか。
一番大きいのは、「組織で戦うとはどういうことか」を学んだことです。
僕が入社した頃のM&Aは、非常に優秀な個人がクローズドに案件を進め、買収後に事業側へ渡すような面がありました。でも、それではうまくいかない。
そこで過去の案件を振り返り、なぜ成功したのか、なぜ失敗したのかを分析する。後工程で起きた問題を前工程へフィードバックし、プロセスやルールを磨いていく。「あいつだからできた」「こいつだから失敗した」ではなく、組織としてM&Aを使えるようにするわけです。
リクルートは、一人ひとりが「自分が主役だ」と思える会社でありながら、実際には個人に依存しない仕組みがある。それが再現され、さらに進化していく。個人芸だったものが組織能力へ変わっていく過程を中枢で経験できたことは非常に大きかったですね。
-M&Aの投資判断で、特に大切にしていたことはありますか。
一番重要なのは、「なぜやるのか」という意義と目的です。
買えるから買う、安いから買うではなく、そのM&Aが企業価値向上という目的に本当に資するのか。目的に合わないのであれば、安くても買うべきではない。
成功にはいろいろなパターンがありますが、失敗には共通項があります。過去の案件を振り返って失敗要因を潰し、「買わない判断をする勇気」も含めて投資規律を磨いていきました。
リクルートは外から見ると非常にチャレンジングな会社ですが、思い切った挑戦ができるのは土台がしっかりしているからです。攻めるために守りを固める。この考え方も、現在のCFOとしての仕事につながっています。
-リクルートの後は野村證券、Viibar、GOとキャリアを移されています。
僕は自分でも「刺激ジャンキー」だと思っています。
リクルートでは非常に高い密度で仕事をし、ある程度やり切ったところで、次の刺激を求めるようになりました。野村證券では、投資銀行側から企業を見る経験を積みました。その一方で、リクルートで当事者として経営に関わった経験から、次第に自ら経営を担う立場に戻りたいという思いが強くなりました。
その後、Viibarで再びCFOとなり、GOへ参画しました。
-GOでは、どのような課題に取り組まれたのでしょうか。
事業が大きく成長する中で、それに合わせてコーポレート機能を強化していく必要がありました。また、IPOが1つの大きなテーマではありましたので、その道筋・準備の大半を実行してきました。
資本政策では、トヨタグループやNTTドコモなど事業会社を中心とした株主構成から、将来の資本市場を意識した形へどう進化させるかを考えました。その一環として、ゴールドマン・サックスから100億円規模の資金調達も行っています。
一方、華やかなファイナンスだけではありません。統合後に複雑になっていた会計やシステムを整理し、上場に耐えられる基盤へ作り直す仕事にも長い時間をかけました。
成長スピードを少し落としてでも、土台を整えなければいけない局面があります。攻めと守りの両方を理解し、経営レベルでリソースを配分することがCFOには必要だと思っています。
-GOの次に、Blackstone投資先であるテクノプロ・ホールディングスを選んだ理由を教えてください。
転機の一つは、長年付き合いのある方から、「リクルートで得た経験や知見を社会に還元し、次の世代へ承継すべきだ」と言われたことです。そのタイミングで、リクルート時代の知人からテクノプロのCFOについて声をかけてもらいました。
これまでPEファンドと協業する機会はありましたが、Blackstoneの方々と実際に話をする中で、品格があり、非常にリーズナブルな印象を受けました。そうした点も、テクノプロへの参画を決めた理由の一つです。
加えて、テクノプロには規模があり、歴史があり、複雑さがあります。これから構造改革を進める難易度も高い。スタートアップやメガベンチャーでは、自分がリクルート時代に蓄積した引き出しを十分に開ける機会はそれほど多くありませんでしたが、テクノプロなら相当数の引き出しを使う必要がある。そこに面白さを感じました。
-急成長企業のCFOと、既に大きな組織を変革するCFOでは、どのような違いがありますか。
スタートアップには市場を切り開く難しさがありますが、一度成長の波に乗れば前へ進みやすい面もあります。
一方、歴史のある会社には、歴史の数だけ組織や人の思いがあります。しかもテクノプロは、足元でも収益性を維持・向上しながら成長を続けています。「今うまくいっているのに、なぜ変わらなければならないのか」という中で、将来の姿を共有し、変革への一歩を踏み出してもらう必要があります。
CEOがビジョンを示し、CFOがそこに「そろばん」を当てて実現可能な形にする。簡単には動かない組織をどう動かしていくか。そこに難しさとやりがいを感じています。
-現在、CFOとして最も重要だと考えているミッションは何でしょうか。
M&Aやファイナンスといったテクニカルな領域は、僕にとってはあくまで手段です。
一番重要なのは、会社がどこへ向かうのかを皆が腹落ちし、同じ方向を向いて、それを推進力に変えていくことです。
9月からは、従来のCFO業務に加えてグループ内連携やシナジー創出(共創推進)や全社AI戦略推進機能も担うことになりました。実態としてはCFOの域を超えた役割です。グループ内のさまざまな機能をつなぎ、全体を束ねていくことにより企業価値を直接的に向上させていく事が大きなミッションに加わっています。
Blackstoneとも、企業価値向上という共通の目的に向けては常々率直に議論しています。僕がコミットするのも、あくまでそこです。会社にとってプラスになると思えば進めますし、そうでないと思えば明確にその意見を伝える。株主やCEOと向き合いながら、会社にとって最善の判断をすることが重要だと思っています。
-宮坂様が考える、企業価値を高められるCFOに最も必要なものは何でしょうか。
僕の場合は非常にシンプルで、「企業価値向上にコミットすること」です。究極的にはこれだけです。
CFOには一般的な担当領域がありますが、企業価値向上に必要なのであれば、そのテリトリーを越えてでも自分が拾う。逆に、企業価値を毀損するものがあれば止める。そういう存在であるべきだと思っています。
もう一つは、CEOと「運命共同体」になれるかどうかです。
ただし、CEOとすべて同じ意見になるという意味ではありません。CEOがやりたいことは全力で支える。しかし、それが会社にとって正しくないと思えば、きちんと「ノー」と言い、軌道修正する。それもCFOの重要な役割です。
-これからCFOを目指すファイナンス・会計人材に、どのような経験を勧めますか。
テクニカルな能力を磨くことは当然必要です。ただ、それだけではテクノクラートの域を出られません。CFOがCEOのバディとして経営の根幹を担うのであれば、「経営者としての目線」を持つ必要があります。
まず、自分が何者になりたいのかを決めることです。そのゴールから逆算し、どんな経験が必要なのかを考える。
スペシャリストとして技を磨く道もあります。一方で、経営者の側へ一線を越えたいのであれば、大企業の中枢にいるだけでは得られない経験もある。小さな会社でも構わないので、自ら経営責任を負う経験をすることには大きな意味があります。
僕自身も、若い頃から「CFOになるために何が必要か」を逆算し、その時々で必要だと思う経験を選んできました。これからCFOを目指す方にも、まず「自分は何者になりたいのか」を考え、自分なりのキャリアをつくってほしいと思います。

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