Professional CFO Interview
インフォコム株式会社
取締役 CTrO
1989年 一橋大学経済学部 卒業
1989年 大和証券株式会社
1999年 Tuck school of business at Dartmouth卒業(企業派遣)
1999年 大和証券SBキャピタル・マーケッツ株式会社
2000年 ボストン・コンサルティング・グループ
2002年 オリックス株式会社
2006年 パレス・キャピタル株式会社
2012年 株式会社地域経済活性化支援機構
2017年 大京 :執行役員 グループ経営企画部・グループ経理部管掌
2021年 全保連株式会社 :取締役常務執行役員
2022年 (アドバンテッジパートナーズ投資先)キューサイ株式会社 :上級執行役員 CFO
2024年 (ブラックストーン投資先)インフォコム株式会社 :取締役 CTrO
※2025年6月インタビュー実施時の内容となります。
―これまでのご経歴を簡単に教えてください。
大学卒業後、新卒から2000年まで大和証券にて勤務しておりました。支店での営業からデリバティブのトレーディング業務に従事、その後社内留学制度を活用して、アメリカに留学しました。留学から帰国後、社内PE部門の立ち上げに参画しました。実際に投資先の現場に行ってみると、これまでの金融知識のみではPE投資先での業務をこなすには十分ではないと痛感し、一念発起しコンサルティング会社(BCG)に転職しました。その後2002年からはオリックス・パレスキャピタル・REVICにてPE投資業務に従事し、中堅企業中心に10件投資責任者として実行しました。
2017年からは大京を経て複数ファンド投資先でのCxO業務に従事しております。
―1社目でPE部門に異動となったことが大きな転換点の一つである印象ですが、PE投資業務に興味を持たれたきっかけは何だったのでしょうか。
留学先のビジネススクールにて、外部講師を招聘したバイアウトに関する授業を受講したのが経緯です。当時のKKRの方が来て、セミナーをされたりだとか。スケールの大きさに感銘を受けましたし、日本では進んでいない領域だったので是非チャレンジしたいなと。そして戻ってきたら大和証券が、合同ファンドを作るというタイミングで、ヘッドが偶然旧知の間柄の方だったのでたまらず、異動希望を提出し、当領域に足を踏み入れました。
―そのような中で次のステップとしてBCGに足を踏み入れた理由を教えてください。
シンプルに当時の自分の事業に対する解像度の低さに辟易したからです。ビジネススクールも行きましたし、元々ファイナンスモデリングは得意にしていましたが、いざ現場に出るとうまくはまりきらなかった。もっと事業そのものに対する多面的視野/視座を高めたく、知人に相談してコンサル業界に入りました。BCGは知り合いの紹介で面接を受けましたが、スムーズに選考が進み入社を決めました。BCGでの学びは、数々の業界知見もありますが、仮説思考とその数値での検証になります。また投資先に入り込んで早く事業を理解する上では、コンサル時代のPJ初期での学習経験が最も活きていると感じます。
―これまでのキャリアの中で、CFOを目指すようになったきっかけはありますか。
2017年に大京に転じてからですね。それまではいわゆる投資業務をやっていたのですが、最低週3日は出張で家を空けており、年45週は出張に出ておりました。
そのような最中プライベートで大きな転機がありこの生活が続けられなくなったんです。そういった中で転職をしていて大京に入社をしました。
大京はオリックスが親会社として入っており、オリックスの不動産部門をやっている会社でした。入社した当時の社長は大京のプロパーの社長でしたが、その後親会社であるオリックスOBの方が社長になられました。その方は親会社に対して物申せる方で、大京は大京として動けるような状況がありました。その後また社長が変わり、次の方は親会社の方針を大事にされる方で、会社としての方針・やり方がガラッと変わりました。非常にCxOの方針に左右されるのだと改めて痛感しました。
そういうところを見てきて、PEファンド傘下でのやりやすさ、やりがいを感じましたね。PE業務に従事していた時から、基本投資先に滞在し、会社数値の見える化を実際にプログラム等を自ら行い実現していたことから、その経験を活かすにはCxO業務がvalueを出せると考えておりましたので、今後自身のキャリアを形成する際にはPEファンドの投資先でCFOだったり、経営企画領域等自身の経験が活かせる業務ができたらいいなと思うようになりました。
―インフォコム社でのCTrO業務を具体的に教えてください。
また、以前お勤めのPEファンド投資先CFOポジションとの違いをどのように捉えておられますか。
前回のCFO業務はファンドと共に中期計画(初年度予算含む)立案及びその蓋然性を高めるための複数PJのリードがメインの業務でした。インフォコムでの役回りとしてはCFO+CStOとなりますが、別途CFOの方がいらっしゃるのでその方との兼ね合いをみつつ以前の投資先で行っていたことと同じような業務となります。
―これまでに複数のPEファンド投資先でCxOとしてのご経験お持ちですが、各ファンドの印象や違いがあれば教えてください。
ファンド側の投資先への関与度に違いがあります。
ファンド側のチーム次第であると思いますが、若手の担当者が一部のみ関与し会社側へのグリップが弱いと感じたこともあれば、ファンド側の関与度が高く、週に複数回のMTGを実施されるケースもありました。現在のファンドは担当者の数は少ないものの(自身の担当事業では1名)、非常に優秀な担当者で入社前から適宜情報提供を頂いており、極めてスムーズに投資先に入り込めました。
また少し脱線するかもしれませんが、投資直後はファンド側と息が合わせやすいですが、2~3年経過するとどうしても当初の計画からズレが生じてきます。その際に当初の計画に固執したまま進めるファンドと、状況に応じて修正してくるファンドに分かれてくる。特に前者のようなファンド担当者のチームの場合、ギャップが生まれた際にそこを埋めていくのは非常に難しいと痛感しました。
―PE業務経験もお持ちですが、ファンド本体でのバリューアップ業務と投資先企業でのCxO業務、それぞれの魅力ならびにご自身で感じていたやりがいを教えてください。
業務改善はもちろんのことですが、Value up業務とCxO業務で変わりなく、投資先人財のスキル・メンタル面での成長を実感できる=自分の仕事が減ることにつきるかと思います。成長については年齢関係なく、むしろ経験を蓄積している40代以降の方々の変化を常に感じています。ケースバイケースですが、基本的に僕の考え方として前向きな思考をしている人の中で強みと弱みを自分なりに見極め、できるだけ弱いところを改善できるようにアドバイスをしています。それに応えて改善してくる方は何人かいますが、そのような人たちがリードポジションになって認められているのを見るとやはり嬉しいですね。ファンドがExitした後も成長できる組織を作る。ひいては人を作っていく…正しいことを言っている/前向き思考の人にはちゃんと目をかけてあげることも大事です。
―CFOとしてのスキルや視座を高めるために、日頃どのようなインプットや学びを大切にされていますか
CFOの最も重要な役割は、
・3年以降先の事業環境の変化シナリオを検討する
・その各シナリオに応じた打ち手を検討・準備する
・それらを予算等を通じ入れ込んでいく
ことだと認識しています。
そのためには一般的になりますが、事業・金融市場・政治等の動向及びエキスパートの見解等の情報収集が必要だと思っています。
ただできているかというと必ずしもできておらず、改善が必要なポイントだと思っています。
―PEファンド投資先企業で、カルチャーづくりや人材マネジメント面で特に意識されていることがあれば教えてください。
特に意識していることは、“本当の”キーパーソンの見極めです。外部から来た人間はとかく“プレゼンが上手い”とか“資料作成が上手い”人材を評価しがちですが、往々にして“それだけ”の人材であることが多いです。その方が主張していることを、主に数値でのfactで裏付けられるか?とか、どれだけのスタッフがその方に相談にきているか?を特に重視して見るようにしています。
併せて、こちらの主張をする前に相手に主張させるように意識しています。Approachとして”Yes, but …”が大切です。
―ご自身のキャリアを通じて「一貫してブレていない軸」は何か思い浮かびますか?
結果を出すことにこだわる、徹底的にfactを掘る、といったところかと思います。
人間どこまで行っても100%の成功はない。ベストを尽くしても失敗することはある。そういう時は一旦諦めて損切りして、次に進むようにしています。これは証券会社での為替ディーラーの経験が影響しているかもしれません。次やってもっと成功したらOKっていうようなポジティブシンキングは根底にあります。
―ご自身の思う、ファンド投資先CxOとして必要なスキルセットやマインドセットについて確認させてください。
CFOとしては以下の3つが基本のスキルセットかと思います。
①今起こっていることを適切に因数分解し、数値でその要因のインパクトをタイムリーに報告すること=分析力(希望的観測や主幹を持ち込むのはNGで事実を捉える)
②上記要因を踏まえた着地見込みを作成し計画とのGAPを正しくつかむこと=シミュレーション力
③上記着地見込みGAPを埋めるための打ち手及びそのインパクトをシミュレートし承認・実行させること=戦略立案・実行力
ちなみにこれらは「ゴール・オリエンテッド」に実行することが大前提です。CxOポジションって全員出来ないといけないと思いますが、意外とそれが出来ておらず「シナリオ・オリエンテッド」になっている人は多いかもしれないですね。未来から逆算しないと、ビジョンも見込みもないし、分析だって適当になってしまう、戦略だって描けない。みんなを巻き込んで実行力あげていけるわけないじゃないですか。
またマインドセットとしては以下の3つの癖を意識することが必要かと思います。
①常に先回りして打ち手を考えシミュレートしておく事前準備の癖をつける
②ファンドの要求は常に無理を言ってくるものと理解しつつも、同時に適切な落しどころを見極める癖をつける
③現場、特に営業は、できない数値を言う生き物なので、相手毎の癖を見極め修正率を感覚的に理解する
これらは日々の頭の体操の積み重ねだと思います。頭の体操なんて、通勤時間でも休憩時間にタバコ吸いながらでもできますよ。事前準備って、作業とか資料の用意じゃないですからね。こういうことが起きそうだ、だから何をしたらいい、それを考えるだけです。どんなに考えても分からないんだったら考えるのをやめる、上手く見切りをつけていく。その積み重ねです。
―最後に、今後ファンド投資先CFOを目指されている方へ何かメッセージをお願い致します。
自分なりの解釈を言えば、「ファンド投資先CFO=ファンド投資先担当者―ディール実行」かな?と思います。基本としては「Financial planning and analysis」ですが、「事実=数値に基づいた打ち手の構築」が応用スキルとしてあると業績悪化時に助けになるものと思います。
こういうと難易度が高いように思えますが、一番の学び方が座学ではなく実地学習しかないのも事実であり、その意味では「まずやってみること」と「そこで如何に学ぶか」が重要になるはずです。偉そうに言ってますが、自分も未だ学習途上です。お互いに学び成長して行きましょう。
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