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【第3回】IPO準備と管理体制の構築、IPOストラクチャー  


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  • 2025.04.29

IPOは依然としてスタートアップにとって有力な資本政策の1つであります。IPOに向けては2~3年程度、あるいはそれ以上の準備期間が必要であり、社内外の関係者をチームアップしながら、数々の困難に向き合いながら実現していく、一大プロジェクトであることに間違いありません。上場準備そのものは、スタートアップであろうがなかろうが、大きくやることは変わらないものの、準備を進めていくうえで取り巻く環境やリソースは、スタートアップとそれ以外で異なる側面もあるため、特にスタートアップがIPOを目指していくうえで留意すべき事項について、今回は触れていきたいと思います。

― 1. 社内外の体制整備

IPOを目指していくうえでは、社内のバックオフィスチームの構築が必須となりますが、特に経理チームについては、若干のバッファを持った採用を行っていくことをオススメしています。というのも、経理チームを最少人数で対応していると、1人でも辞めてしまった場合や、体調不良などによりメンバーが離脱してしまったことにより、IPOが延期になったというケースを何度も聞いたことがあります。
上場準備は、推薦証券となる主幹事証券会社の公開引受チームと連携しながら進めていくことになり、一定の勘所を分かったIPO経験のある人材がいるのであればそれに越したことはありませんが、仮にそういった人材がいない場合には、IPOコンサルの活用もオススメしたいです。上場準備そのものは一過性の事務負担であり、いつストップするかも分からない非常に不安定なものであるから、正社員で全てを賄おうとするのは、採用そのものが大変であることも勘案すると、必ずしも合理的な選択とは言えません。最近ではIPOコンサルも増えてきており、実際にIPOしたスタートアップの支援実績も積み上がっていることから、こうしたコンサルに相談してみるのも一案であります。
その他、IPOプロセスにおいて欠かせない関係者として、監査法人及び主幹事証券会社のリテインが必要となります。ここ数年は、スタートアップ各社がIPOに向けて準備を行っているものの、グロース市場の市況感が引き続き厳しいことと、過去に高い評価額で資金調達を行ってしまったために、IPOを延期し続けているスタートアップも少なくありません。それに伴い、監査法人や証券会社としても、対応しなければいけない顧客数が増える一方であることから、スタートアップ企業がアプローチしても、お断りされてしまうケースも数多くあります。監査法人や主幹事証券会社をリテインするためには、自身の会社がいかに優良企業であるかについて、投資家にプレゼンするのと同様の熱量で説明していく必要があります。
なお、監査法人については所謂Big4以外の監査法人をリテインし、IPOを実現しているスタートアップも増えていることから、大手だけに固執せずに、中堅監査法人をリテインすることも検討可能であります。

― 2. 上場準備上の主要な論点

① 決算の体制

IPO後は、毎四半期末後45日以内に決算を開示する必要があり、よっぽどのことがない限りこのスケジュールは絶対守らなければならないことから、上場審査において決算開示の体制が整っているかどうかは、最重要論点の1つとなります。
前述の通り、経理チームについては、やや人員に余裕を持たせるとともに、場合によっては外部のアドバイザーも一部活用しながら、体制を整える必要があります。

② 予実の精度・予算管理体制

予算に対して、実績がどれだけ差異があるかについては、審査期間中にしっかりとモニタリングされます。基本的には、上振れすぎても下振れすぎても、指摘を受けるが、そうは言っても下振れの方が問題視されることから、基本的には売上は保守的に、コストも若干のバッファを持ちながら、予算を策定しておくべきであります。とはいえ、あまりにも保守的すぎると、バリュエーションの水準にも影響を与えるため、ここは両睨みのバランスで最終的な水準を決定していく必要があります。
また特に赤字上場を目指す場合には、黒字化の蓋然性について、可能な限り定量的に示していく必要があることから、予算のロジックや根拠となる各種数字について、より厳しく審査で見られます。ここはアートとサイエンスの世界ではあるが、いかに目指したい水準感とロジックをうまく組み合わせていけるかが、CFOの腕の見せ所になります。

③ 労務管理

勤怠管理(36協定の違反有無)、未払い残業の有無は、特に上場審査で見られるポイントとなります。よく聞く話としては、親会社はしっかりと対応できていたものの、子会社で重大な違反があるということが、審査のプロセスで判明することも少なくないので、子会社も含めてできるだけ現場への浸透に時間をかけながら行っていく必要があります。

④ M&Aを直前に実施した場合

上場審査中にM&Aを実施し、特に子会社化した場合にはその子会社の内部管理体制についても審査対象になるのと、業績にどういった影響を与えるのかについても精査する必要があることから、対象会社の事業規模やM&Aストラクチャーにもよりますが、上場審査プロセスの長期化も含めて、一定の影響を与える可能性があります。
M&Aを行う際には、主幹事証券会社と密に連携を取って、上場審査プロセスへの影響を極力少なくする方法を検討すべきですが、1つのやり方として、株式譲渡ではなく、事業譲渡によって対象事業を買収することも一案であります。それにより子会社管理体制の論点を1つ消すことができ、かつ、株式譲渡と比して買収後のリスクを低減することも可能であることから、事業譲渡でも対応可能なケースにおいては選択肢の1つとして頭の片隅に入れておいたほうがよいと思われます。

※参考:経済産業省「スタートアップのM&Aに関する調査」(2024年6月24日)

https://www.meti.go.jp/policy/newbusiness/r5reportforstartupgrowth/r5reportforstartupgrowth_MA.pdf

― 3. IPOのストラクチャー

IPOの話となると、IPO準備にフォーカスされがちですが、どのようなストラクチャーでIPOを行っていくのかに関するファイナンス戦略も、当然のことながら極めて重要になります。以下に、いくつかの主要論点について、紹介していきます。

①国内オファリングとグローバルオファリング

IPO時のオファリングサイズ(売出し+公募)が大きい場合や、IPO時はそこまで大きくないものの、IPO後を見据えた上で、海外投資家を入れたいケースにおいては、旧臨報方式(国内オファリング)かグローバルオファリング(144A and/or Reg S)の2つの選択肢が存在します。旧臨報方式は目論見書の英訳が不要であり、グローバルオファリングと比べてもコストを大きく抑えられる、かつ、旧臨報方式であってもかなりの数の海外投資家にアプローチ可能であることから、旧臨報方式を選択するケースも非常に多くなっています。想定時価総額が最低でも1千億円前後の水準であり、オファリングサイズもそれなりに大きいケースにおいては、グローバルオファリングも選択肢になってきます。

②親引け・IOI

IPOにおいては、上場前後のモメンタムの形成が、その後の株価形成において極めて重要となります。端的にいうと、需要と供給のバランスを見ながら、需要の方が高い状態を作り出すことと、「人気銘柄である」という印象を植え付ける必要があります。
親引けのように、IPOのタイミングで一部の投資家に一定割合の株式を割り当てることが確約されている形や、ロードショーのタイミングで有力な機関投資家から株式の買付に高い関心があることを公表するIOI (Indication of Interest)などを活用することで、上場前後のモメンタムを形成していくことも有効な手段である。

③投資家とのコミュニケーション(インフォメーションミーティング、ロードショー)

東証の上場承認がおりた後、ロードショーが始まりますが、わずか2週間程度しか期間がなく、かつ、1投資家あたりに1時間程度しかアポイントはセットされないのが通常であります。つまり、ロードショーだけで全ての有力な投資家にアプローチするのは現実的ではないことから、上場前のインフォメーションミーティングや、さらにそれ以前より有力な投資家には定期的にアプローチし、事業の状況等について情報を入れておくことが重要となります。
その際に、ただ闇雲にアポイントを入れてしまうと、「ついこの前話しを聞いたから、今はいいや」といった感じで肝心な時にアポイントが取れないこともあり得るため、特に有力な投資家とはコンタクトするタイミングにも気をつける必要があります。

④オファリングサイズ

売出と公募の合計金額であるオファリングサイズをどの程度の水準にするのかは、極めて難しい問題であります。基本的にはオファリングサイズを大きくした方が、流動性が高まり、機関投資家も投資しやすいので、大きいに越したことはないが、大きすぎると需給のバランスが崩れ、IPO後の株価形成に苦戦することもあります。
またこれはなかなか対処が難しいところではありますが、同じような時期に大型のIPOがあると、投資家がIPO銘柄に振り分けられる配分がそちらに吸収されてしまい、自社のIPOにおいて投資家が入りづらくなるといったことも起こりえます。
既存株主の意向やその時々のマーケットの状況、投資家の”appetite”などを総合的に勘案し、オファリングサイズを決定していく必要があります。
なお、既存株主にPEファンドがいる場合は、事前譲渡により、PEファンドの持ち分比率をIPO前に下げておくことも一案であります。PEファンドが株主であるIPO案件は、上場後のパフォーマンスが不調であるケースも多いのですが、その1つの要因として、IPO時にPEファンドが売却する持ち分が大きく、需給のバランスが悪くなることが挙げられます。そうした事態を避けるために、IPO前にPEファンドの持ち分比率を下げ、IPO時点の需給バランスを整えることで、IPO後のパフォーマンスを良くする狙いがあります。

― 4. その他Tips

東証の上場承認がおりローンチした後に、IPOのプロセスを取りやめるケースが年に数件発生しています。基本的にはロードショーを通じて、バリュエーションの目線が合わないことから取りやめるケースが多いという認識ではあるものの、少なからず東証への通報(いわゆるタレコミ)があり、そちらの重要度が高く、確認に時間を要するような事象である場合には、IPOを延期するという判断となるケースも散見されます。
こうした形でIPOを延期する事態を避けるために、事前に通報される可能性のある事象を洗い出し(元従業員や競合企業、取引先とのトラブル etc.)、それぞれの事象が問題ない旨の書面を弁護士事務所から一筆を入れてもらったうえで、証券会社や東証に事前に説明し、サプライズにならないように工夫をしている企業もあるようです。

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