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【第5回】スタートアップのExitについて


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  • 2025.05.28
  • |2025-05-29更新

従来は、スタートアップのExitといえばIPOが主流であったものの、グロース市場のマーケット環境が引き続き厳しい状況の中で、非常に小さい時価総額でのIPOが数としては多くなっているのが現状であります。時価総額が小さいと、機関投資家から投資を受けるのが難しくなるため、アフターマーケットにおいて株価を上げていくのが極めて難しくなります。また、流動性が少ないのでエクイティによる資金調達の難易度が高く、デットによる調達か自社が生み出すキャッシュフローの範囲内でしか投資ができず、IPO後に成長が減速してしまうケースも散見されます。こうした「スモールIPO」の問題について指摘されている一方で、それ以外の手法でExit(厳密にいうと完全なExitとは限らないが)する事例が国内のスタートアップシーンにおいても増えてきており、具体的な事例も交えながら紹介していきます。

 

― 1. 事業会社へのM&A

 

事業シナジーのある事業会社へM&Aで株式を売却するというExit手段であり、ここ数年で最も大きな事例としては、PayPalによるPaidyの大型買収が挙げられます。

事業会社へのM&Aにおいて留意すべき点としては、「のれん」の問題が挙げられます。スタートアップは往々として純資産が非常に薄いケースが多く、その場合、買収金額が大きくなればなるほど、のれんの金額が大きくなります。JGAAPではのれんは定額償却されることから、買い手となる事業会社がのれん償却負担を嫌い、買収に及び腰となることが十分に考えられます。日本において数百億円規模のスタートアップのM&Aがほとんど行われていないことの一因であると考えられます。

 

― 2. スイングバイIPO

 

上記の事業会社へのM&Aからの進化形として、事業会社に持ち分の全部または一部を売却し、事業会社との事業シナジーを創出した上で、IPOを目指していく「スイングバイIPO」というものが、最近のスタートアップ界隈では注目されています。直近の事例としては、KDDIとソラコム、ZOZOyutori、ヤフーとdelyなどが挙げられます。

シナジーを創出し、業績が拡大した上でIPOするということで、これ自体は非常に素晴らしい座組ではありますが、実際のところ、スタートアップサイドの意向通りにIPOできるかは不透明な部分が大きいと言えます。大企業に株式を売却する際に、Exitの時期や方法についても一定は規定することになるとは思われますが、IPO100%確約させるような文言にするのはなかなかハードルが高く、現実的には大企業の意向によってIPOが実現しないケースも十分にあり得る点については、留意する必要があります。

 

― 3. PEファンドへのM&A

 

こちらも最近のスタートアップ業界で注目されている座組として、PEファンドがスタートアップに過半数の出資を行う事例が出始めています。少し前でいうと、アドバンテージ・パートナーズによるネットプロテクションズの買収、直近でいうと、EQTによるHRブレインの買収やPotentiaJ-STARによるjinjerの買収などが挙げられます。

 PEファンドが株主になるメリットとしては、PEファンドの各種リソースを有効活用できる点や株主集約による意思決定スピーディの向上などが期待されます。また、必ずどこかでPEファンドはExitする必要があり(通常は3~5年程度)、創業者や経営陣がIPOを目指したいケースにおいては、IPOを引き続き目指すことが可能であります。

一方で、過半数の持ち分をPEファンドに持たれることにはなるので、従前ほど自由に経営の意思決定を行っていくことは難しくなるので、いかに信頼関係を構築するのかと、株主間契約書で経営方針や意思決定基準、Exitの考え方などについて、細かく規定していくことが必要となります。

 

― 4. M&AによるExitにおいて留意すべき事項

 

資金調達の時と同様、M&Aにおいて譲れない点・譲れる点は、創業者と事前に明確に合意しておくべきであります。特に譲れない点については、RFPを作成する際にきちんと盛り込み、買い手候補先に事前に伝えたうえで、プロセスが後半まで進んだ後にハードな交渉とならないようにすることが重要であります。また株主間契約書などの契約書にも、譲れないポイントを明確に盛り込む必要があります。

特に下記のような点については、事前に整理し、できるだけ具体的に買い手候補先と認識を合わせておきたいポイントとなります。

 

1)ガバナンス体制(取締役会の構成や意思決定プロセスなど)

2)経営方針(何にどれだけ投資するか、具体的な経営戦略の内容など)

3)役職員が保有するストックオプションや株式の取り扱い

4)投資後の役職員向けのインセンティブ設計

5)Exit方針(Exit手段やタイミングの考え方)

 

― 5. デュアルトラックのプロセス

 

 IPOをメインシナリオとしつつも、デュアルトラックでM&AによるExitの可能性についても模索することをぜひオススメしたいです。IPOは自社の業績だけでなく、マーケット環境にも大きく左右されることから、自分たちが理想とするような形でIPOできるとは限らないですし(逆にそうしたケースの方が少ないと思われます)、IPOよりも高い評価で買収を検討してくれる事業会社や投資家がいる可能性も十分にあります。また仮にそういった先にいったん売却したとしても、もう一度IPOを目指すことも可能であります。

デュアルトラックを行っていくうえでは、IPOの上場審査を対応しつつ、M&ADD対応もセットで対応する必要があることから、対応メンバーは多忙を極めることになります。少しでも対応を省力化するためには、管理メンバーを充実させるだけでなく、IPOの外部コンサルを活用することや、内部の各種資料を定期的に整理しておくことで、上場審査とDD対応をほぼ同じ資料で対応するといった工夫も行うべきであります。

いずれにせよIPOありきで物事を進めるのではなく、それ以外の可能性についても常に模索しながら、最適な資本政策を追求していくことが必要となります。