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【第6回】内部統制整備を含む上場準備、M&AによるExit準備


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  • 2025.04.29

― 1. Exitについて

PEファンドの投資先である以上、Exit(株主変更)は必ずやってきます。想定通りいかないことは往々にしてありますが、ファンドがある意味、信用商売(トラックレコードを残さないと、次のファンドレイズができない)である以上、投資損益は別にして、必ず次の株主へバトンを渡すことになります。
Exit先は大別して下記の2種類(相手先の種類まで考えると3種類)となります。

(ア) 上場(IPO(Initial Public Offering)による公開化(IPO:機関投資家を含む不特定多数の株主へのExit)

(イ) M&AによるExit
① Strategic Buyerと呼ばれる事業会社への売却
② Financial Buyerと呼ばれるファンドへの売却(業界的にはsecondary )
Exit先が変わればExitの際のDD(Due Diligence)や社内対応も変わってくることはご想像いただけると思います。それぞれについて特徴を簡単にお示ししたいと思います。

(ウ) IPOの場合
上場によるExitではM&Aと大きく異なる点があります。上場する市場によって違いはありますが、私は次の点が大きく異なると思っています。
①「市場が要求する上場基準」を満たさなければならないこと
基準については広く公開されているものがありますので詳細は避けますが、非公開会社では優先度が低い、「内部統制制度の整備・運用」が単純ではあるものの、社内理解を得にくい領域だと感じています。なぜなら関係する部署が多い一方、さじ加減が難しい領域だからです。
②証券会社(公開引受部や販売チーム)や証券代行等、外部専門業者との連携が必要であること
IPOとは広く世の中に株式を買ってもらう必要がある、ということです。そのためには社内体制の整備(公開引受チーム)や、株価形成のためにエクイティストーリー(将来計画:後述)をもって機関投資家とのミーティング(販売チーム)、上場後の株主名簿管理(信託銀行)の整備等、多方面と協調しながら準備を進める必要があります。
③エクイティストーリーの蓋然性を作っていく必要があること
投資家はこのエクイティストーリーをもって、適正な株価や購入数を決定するわけですが、この計画が夢物語ではないか直近の実績を踏まえながら検証します。また、上場後はこの数値が公開された情報となり、毎期株主から追っかけられることになります。このため、株価をできるだけ高くするためのチャレンジングな数値である一方、蓋然性が高い数値である必要があるのです。

(エ) 事業会社が買い手となる場合
事業会社でも買い手が上場企業なのか、非上場企業なのかで若干力点が変わるため、補足したいと思います。
① 上場企業の場合
相手先が上場企業の場合は、連結対象となるのか持分法適用会社になるのかで多少の違いはあるものの、上場企業の適時開示に耐えうる決算体制(例:実働5日程度での月次決算締め)や、コンプライアンス体制が求められます。
一方、上場企業が買収する(相応の資金力が必要)ということは被買収先であるCFOの所属企業は一定程度の事業規模を持っているのが通例です。
そのため、直接取引(例:被買収企業が買収企業の取引先である)がない場合は、ある程度の自主性を担保しながら、シナジーを追求していくことになります。
そのため事業運営は当面変えず、という方針が取られることが多いように思います。ただ、CFOは経理・資金を押さえているポジションであることから、ファンドのExitと同時に退任し、買収先から新たなCFOが派遣される場合がほとんどかと思います。
② 非上場企業が買い手となる場合
相手先が非上場企業の場合は(一部の巨大非公開会社を除き)買収の目的は千差万別と言ってよいでしょう。私の卑近な例でいうと、オーナー企業が上場を目指すために事業の成長と領域を広げるために買収した例や、同業他社が、被買収企業の主要顧客の購買窓口を買うために買収した例、上場企業の子会社が、自らのバリューチェーンの一部を買収した例など様々でした
目的が様々ですので、買収後の向き合い方も異なり、上場企業の買収と同様に自主運営を認められる場合がある一方、トップから派遣し事業運営そのものを大きく変えていく場合の両方があります。

(オ) ファンドの場合
ファンドからファンドへの株主変更(直近例:アリナミン製薬株式がブラックストーンからMBKパートナーズへ譲渡)の場合はExit時のDD対応の負担 は大きいですが、Exitにおける体制整備負担はあまりない、というのが個人的な印象です。

― 2.そもそも内部統制とは

一言で内部統制と言ってもいくつかの面があります。特に上場する場合は、広く一般に株主を募ることになるため、そのための法律(金融商品取引法等)があることはご承知のとおりです。

(ア) 企業として必要な統制
この領域も大きく二つの領域があります。会社法など法律で必要とされる統制と業績を上げるもしくはコンプライアンス違反を起こさないための統制です。
① 法令による統制
この領域は主に会社法で定められている領域です。株主総会による取締役の選任、取締役同士による相互牽制、債権者保護の手続きや決算公告等々、定められている手続がたくさんあります。余談となりますが、私の友人の弁護士(上場企業の監査役経験や、総会において法務顧問としての議事進行アドバイスなどに従事)曰く、「会社法は本当にややこしく、総会時期になると改めて事務所内で勉強会・復習会をやる」と言っています。丁寧に作られた法律ではあるものの、解釈の幅も一定程度あるということと理解しています。
企業によっては会社法での統制が後回しになっており、総会議事録や決算公告もやれていない企業がたくさん存在しますし、法令違反の指摘は(私の狭い経験ですが)30年で一件しか見たことはありません。ただ、Exitにおける法務DDで「法令違反」を発見、報告することが目的となるため、当然にこれら会社法での手続きは行う必要があります。
② 業績管理・コンプライアンス対応のための統制
この領域はいわゆる「社内規程」で定めた手続きに基づいて、対応がなされているかという分野になります。規程をどの程度整備するかは会社によってまちまちですが、少なくとも取締役会規程(取締役会で決議・報告すべきことを規定)や就業規則(労基署への提出が必要)、文書管理規程、経理規程、決裁権限規定等は必要と思われます。前回までお話をしてきた経営計画、予実管理も規程の中で定められた手続きで作られるものです。
世の中にたくさん規程のひな形は出回っていますが、実際の運用まで意識して作られたひな形はほとんどない、というのが私の印象です。具体的な例は後述いたします。

(イ) 上場時に必要とされる統制
上場では上記の企業として必要な統制があることはもちろん、ルール通り運用されているか、ということが求められます。加えて上場企業として追加的に必要な統制がいくつかあります。
① 企業として必要な統制の水準について
上場企業ではルールがあり、そのルール通り運用されているかを審査にて確認されます。いかに「ルール違反ではないか」と言われない規程にするか、というのは些末な話ではありますが、重要な準備と考えています。ここで先ほどのひな形の具体的な不足部分を職務分掌規程の例をつかってご説明しましょう。
出回っている規程ひながたでは「総務部」「経理部」「営業部」というように「名称」で職掌範囲が記述されている例がほとんどです。一方、「組織は戦略に従う」というように、「組織名」は変更となることが多々あります。私の卑近な例では、やっている業務(予算立案)は変わらないまま、「総合企画部」「経営企画室」「予算管理部」「経営計画室」と2年の間にコロコロと名称が変わったことがありました。規程に「組織名」で記述されていると、組織変更のたびに「規程の修正」が必要となります。当該会社では規程上は「経営計画立案担当部署」という表記とし、組織変更決議の際に「当該部署は経営計画立案を担当する」という説明書きで、規程と組織を紐づける運用を行っていました。
この場合、文書管理規程で職務分掌規程を変更する場合は取締役会決議とする、と規定していた場合は追随しなければ規程違反になりますし、追随するためには事業運営の意思決定に使う時間を、規程の議論に回すことになり、本末転倒となることは容易に想像いただけるかと思います。
② 上場企業として追加的に必要な統制
追加的に必要な統制は次のようなものがあります。
1. 会計監査人の設置と監査
厳密には会社法上の大会社(資本金5億円以上、または負債の部の合計が200億円以上)は会計監査人の設置義務があるのですが、ファンドでは大会社でなくとも「任意」での会計監査を投資先に求めるのが通例ですので、この部分の詳細なご説明は省きます。
一点だけ手続について補足をすると、会計監査人の設置は定款の変更を伴いますので、総会の決議が必要となります。
2. 内部監査体制
2000年の金融商品取引法、2006年の新会社法の制定によって大会社と上場企業には「内部統制」が求められるようになりました。しかし、「内部監査体制」を明確に規定する法律はなく、先行している欧米の体制(外部監査人と内部監査人を明確に区分)を参考に、組織化されてきたという歴史的経緯があります。このため組織の位置づけが国際社会のもの(独立取締役を中心とした取締役会もしくは監査委員会の指揮命令下の内部監査)と日本のもの(経営者の直下の内部監査)で微妙に異なるというのが現状です。
いずれにしても内部監査は管理部門を含む事業執行組織とは完全に独立した組織として設置し、内部監査の責任者は兼務が許されません。このため内部監査体制については次のような困難があり、立上げに比較的時間がかかることが多いように思います。
(ア) ある程度事業のことが分かり、経営者に直接報告できる責任者を選任すること
(イ) 審査前までに、「全ての部署」に対して監査を実施した実績が必要
(ウ) 内部監査基準や監査項目の選定の落としどころが難しいこと
そもそもの背景より、CFOが直接指揮して内部監査部門を立ち上げることは矛盾があるところですが、制度立ち上げ時にはCFOの補佐は必須です。世の中には内部監査部門の立上げを上場支援として行う会社はいくつもありますが、これら企業の出してきた内部監査基準や項目は、現場実態にそぐいません。
私の経験では、多店舗展開(数百店舗)を行っている企業において、店舗部門だけでも30を超えるチェック項目があり、当該企業では全く関係のない項目も残っていた例がありました。内部監査は指摘をすることが目的ではなく、現場レベルへ統制に必要な内容を伝達・徹底すること(ひいては現場力の向上による企業価値の増大)が目的である、ということが真の意味で理解されていない例かと思います。
3. J-SOX対応
アメリカでのエンロン事件(粉飾決算)をきっかけに成立した米国のサーベンス・オクスリー法(通称SOX法)をフォローする形でJ-SOXは立ちあがっています。
よってJ-SOXでは内部統制のなかで「財務報告の信頼性に係る内部統制を重点的に」評価することになります。J-SOXそのもので必要な書式等は巷間、枚挙にいとまがないので省略しますが、準備にあたっての注意点をご説明します。
財務報告に特化した領域となるため、監査法人との連携は必須となります。逆に監査法人はJ-SOXにおいて適切に内部統制が効いていることが確認できれば、監査サンプルの減少や重要性の閾値のUPを行うことができるため、対象会社・監査法人双方にメリットがあります。一方で、統制の証跡が必要となるため、記帳を行う経理だけでなく、売上を計上する営業部等、実務部隊の作業内容・検証方法まで変更する必要がでてくるため、「監査法人が許容できる」レベルと「現場が対応できる」レベルの確認・調整が必要となり、この部分でCFOの業務理解・監査法人との交渉力が試されることになります。
4. corporate governance code (CGコード)対応
CGコードは東京証券取引所が要求する上場企業が行う企業統治においてガイドラインとして参照すべき原則・指針を示したものです。よって法的拘束力はないものの、83もの開示項目が決められており、内容によっては(例:経営者の後継育成方針)ファンドが抜けた後、どのように対応していくかをあらかじめ議論しておく必要があります。
上場市場や企業規模によって、上場時から適用にならない場合もありますが、いずれ対応しなければならないものであり、項目数が多いことにくわえてコードの要求する事項の説明があいまいであることもあるため、CFOとしてははやめに他社開示事例等を眺めておくとよいでしょう。

― 3.実際の準備期間

上場する場合は体制整備等もあることから、目標時期の2から3年前には外部専門家を含むチーム組成がなされ、対応していくことになります。
一方で、M&Aの場合はファンド主導で相手先や売却価格が検討・交渉され、DD対応を行うCEO、CFOに加えて経営企画・経理のごく限られたメンバー以外の現場には契約締結・クロージング(資金決済)の当日まで発表されません。 社内での情報管理は経験上、いろいろなパターンがありますが、対応チームをプロジェクト化したうえで、①一定程度信頼がおける実務メンバーでDD対応をクローズできそうであれば、社名は伏せて売却交渉のためのDDであることを伝達、②難しい場合は、ファンドからの要請での対応(例:グローバル本部からの税務対応や、さらなる業務改善のための調査等)と伝達、の二パターンになるかと思います。
CFOはDD対応の陣頭指揮(質問の内容によってはCFO自らが回答素案を作る必要があります)を取ることになるため、比較的早めに知ることにはなるとはいえ、DDが始まる直前というのが私の経験則で、そのため短期間でハードワークが必要となります。 私自身の例でいくと、休日であっても定期的にメールを確認できる体制を整え、担当に確認しないと詳細が分からない質問であっても、必ずその日のうちに何らかの返信を返す(会社側でボールを持たない)ことを2か月程度続けたことがあります。実際に作業する時間は細切れでも、DD対応のことが常に頭を離れず、体力よりも精神的にハードだった記憶があります。それもよい思い出ですが。
ファンドとも連携を取りながら、スピーディに買主候補に「不安を与えることのなく、かつ、背伸びしすぎない回答」(例:管理部門に人は不足しているが、ノックアウトになるような統制不備はない)を開示していく必要があり、バランス感覚が求められます。

次回はExit後のCFOの業務・キャリアについて触れたいと思います。

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