・各業務のフローをただ覚えるのではなく、理由・背景を把握し、必ず押さえるべきポイントを理解すること
・インハウスのプロフェッショナル人材として、自身の担当しているビジネスについての構造や収益を生み出すポイントなどを確りと理解すること
・(会計分野が専門外の方など向けに)専門分野の説明をする際には、なるべく平易な分かり易い説明とすべく、ポイントを整理すること
元々、特別に会計やファイナンス関連の知識知見があったわけではなく、住友商事での業務にて初めて触れたので、学生の時代からCFOというものを意識していたわけではありませんが、家業などの関係で会社経営というものは少し身近に存在しており、漠然と会社経営に関する仕事に関わりたいとは思っていたと思います。
その中で財務経理のキャリアを経たことでCFOとしてのキャリアを意識するようになったと思います。特に入社6~8年目の海外にいたときですかね。本社にいた際は専門性を高めようと思っていた部分が、海外に行くとポジションが1個上になりました。
個別論点でゴリゴリやるというよりマネージする側になったのもちょうどその時ぐらいかもしれないです。
CFOを意識してからも特別な準備などはしていないのですが、自身のキャリアでの経験を棚卸し、自身がCFOとして働くことを想定した上で不足すると思われるスキルや経験は何か、それを補うためには何をすべきかということを整理しました。私の場合はそれが管理会計面(特にFP&A)だったため、自身で書籍を読み漁り、先輩や同業他社の方に確認しながら関連する情報収集や勝手に想定する会社ではこういう分析が必要かもしれないみたいなイメージをしていました。
- 良くファンド側と投資先との間で経営陣が板挟みになるケースが有ると伺いますが、どのように対応されてきたのでしょうか。
初期の段階でいうと数値目標でどうしても折り合いがつかない部分も有り、その際、現実感のない数字を作ってしまうと、現場のやる気もなくなってしまう。そこの落としどころはどこかというコミュニケーションは丁寧に行うようにしていました。
To株主という観点では、現実的に積み上げてロジカルに説明していくしかないというところで、納得させるようなコミュニケーションは取る必要がありました。
私が所属した期間を通して考えると、株主さんに対して会社として抱えている問題などの事実はしっかりお伝えする。どういう人がどういうことを思っているかなど、会社は人が動かしてるので、もう少し人間模様じゃないですが、そういった部分もご理解いただくように心がけていました。特に私みたいな外部採用の人間と内部でマネジメントになってる方もいるので、その関係性ですね。その関係性で摩擦が起きたりはしがちだとは思うんですが、その辺りも含めてどういう状況か結構つまびらかに伝えるようにしていました。
逆方向の話で言うと、プロパーの方に対してはファイナンス関連、契約や知識等のハードスキル面などについては、かいつまんでわかりやすく説明をするように心がけていました。
- 現職に着任された際、投資先社員の方たちと関係を築く際にどういった事を心がけてこられたのでしょうか。
教えてくださいというスタンスで取り組んでいました。特にホテル業は私も経験が無かったですし、初めてで不明点も多かったので、そこは素直に分からないので教えてくださいというスタンスでいきます。一方で、こちらから専門性やハードスキルの部分で提供できることはします。ある程度、この人はスキルセットが伴っていてなんか会社の事業を分かってくれそうというのは感じてもらわなきゃいけないと思う。ハードスキルとソフトスキルの使い分けな気がします。私の専門分野である一般的な会計・財務面で判断が出来る話もありますが、もう少しビジネスに突っ込んで行くと理解が出来ていない部分がやはりありました。そういった私が不明瞭な部分に関して投資先の社員の方々は感覚的に理解しているので、その感覚の部分をしっかり教えてもらって、それを実際の数字に落とし込むとこんな感じだよねみたいな、そういうコミュニケーションは最初のうちにしっかりやっておかないといけない。
最初は教えてくださいというスタンスで関係性を構築しつつも、早めにのタイミングでこの人ってビジネスに対する理解があるなというのも感じてもらわないといけないと思い、キャッチアップに対してはかなりスピード感をもって取り組んでいたと思います。
さらに次のステップにいくためには汗をかくことも大事かと思っています。特に私が入ってから予算の制度をガラッと変える機会が有りました。ファクトベースでしっかり経営推進していきましょうという体制に社長以下で方針として出している中で、予算も過去のファクトベースで作りましょうと言うのは簡単なんですが、実際やってみるとやはりやり方がわからない部分はある。ここはそういう方針を出した手前自分も頑張ろうということで、それこそ各部署と一日中、朝から晩までずっと会議室にいるのが1週間2週間続くみたいなことをひたすらやりました。そうすると、翌年度になると、一緒に手を動かしながら社員の方も学び、精度が向上していく。会社のメンバーの成長が見れるのは自身の仕事の成果が目に見えますし、やっていて凄くよかったなと感じますし、会社のメンバーも自身の成長を感じることができ、そこまで一緒に汗をかくことで信頼を勝ち取れた部分もあるかなと思います。一方で、あの人はすごく数字に細かいしうるさいから怖いなと思われることも多分あったと思います。
- 日本企業成長投資(NIC)様については注目されているファンドの一つかと思うのですが投資先でやり取りをされてどういった印象を持たれましたか。
会社マネジメントの意見を尊重しつつ、会社の経営改善、業績向上に資する取組であれば尊重、賛同、支援頂けるという印象を持ちました。ファンド投資期間における会社成長のみに縛られることなく、会社として長期の成長に向けた取り組みについてもご理解いただき、支援して頂いたと感じています。例えば、現職ではブランディングの部分になると思います。短期的には収益貢献があるかは定かではないですが、会社の長期的成長というところをサポート頂いたと感じます。
加えて、投資先マネジメント陣とのコミュニケーションについては重要視されていると感じており、個々の成長についても後押し頂き私個人としては凄く成長できる機会を頂いたと思っています。具体的には、入社後2週間に1回CEO、ファンドのパートナーと担当の方3名で私のフォローアップも兼ねて機会を作っていただいた。またCEOも年に1回ファンド側から私のフィードバックを取って頂き、良かった点、要改善点を頂けとても有難く感じました。
最初の出会いは通信ベンチャーに転職した時です。同社の副社長のネットワークに多くの大手金融、ファンドの方がおり、M&Aを含む各種資本政策検討の折、PEファンドとのコミュニケーションが始まりました。
その後、転職検討時にエージェントより紹介された会社が、以前接点のあった大手PEファンドの投資先だったのです。ファンド側の責任者(MD)とも既に面識があったので、とんとん拍子に同社採用となったことが、PEファンドとのかかわりを深くするきっかけとなりました。一方、同社は事業で不調の部分も有り、その際の株主とマネジメントとのコミュニケーションは非常に難しいものだと感じました。案件も大きく、非常にタイトな時間軸の中でのプレッシャーは想像以上でした。
PEファンド傘下企業の営みは、一般事業会社のそれとは大きく異なります。
会社はあくまで投資対象であり、PEファンドは一定期間後、自らの持分を何らかの方法で譲渡し利益を得ることを使命とされた主体です。彼らは投資実行以後、対象会社と様々な取り組みを実践し、対象会社の企業価値を高めることで、自身の利益を獲得するとともに、対象会社のゴーイングコンサーン要件を整え、雇用、取引先、債権者、納税を守ることに繋げています。
この意義深い大事業を進めるためには、資本家の論理だけでは成しえません。誰かが投資家と対象会社の間に立ち、オペレーションの現場を動かしていく必要があります。この役割の一端を担う能力を有するものがPEファンド傘下企業の営みに求められています。そんな一人にたまたま選ばれたということです。
(アドバンテッジパートナーズ投資先・2023年7月グロース市場上場)
㈱ナレルグループ
取締役コーポレート本部長
野尻悠太様
2006年4月 みずほ証券入社(インベストメントバンキングプロダクツグループ)
2009年11月 ㈱アクセルスペース入社(取締役COO)
2019年4月 ㈱JDSC入社(CFO)
2020年5月 ㈱ナレルグループ入社(取締役コーポレート本部長)
-スタートアップとファンド投資先の違いという部分についてもお話頂きましたが、特にどういう方がファンド投資先にフィットしやすいと感じますでしょうか
結構スタートアップって、ジョインするには個人的な感想として熱狂というか、そういったようなものがないと、とても飛び込めないっていうのはあるような気もしていて、それよりかはどちらかというと、自分のスキルとか能力がどういう場で活かせるのかとか、必要としてもらえるのかっていう、職人気質的なところがある方の方が向いてるかもしれないです。
もちろん対象会社のビジネスに対して興味を持つっていうのは必要ですが、スタートアップほどの熱狂的な共感は求められはしないので、自分の能力がどう生かせるかというところに興味があるとフィットしやすいかもしれないです。
-現職の主な業務内容について確認させてください。
コーポレート本部長として、経理・財務のみならず、人事総務、法務、IT等幅広い管理部門を管掌しています。
-現職で上場準備を行う中で、最も困難だったことは何だったのでしょうか
また、どのように乗り越えたのでしょうか
正直なところ非常に辛かったということはありませんでした。社内も上場準備に協力的でしたし、プロジェクトメンバーにも恵まれ、主幹事証券も会社に寄り添って対応いただけました。そのおかげで、一つ一つ課題を着実にこなすことができ、非常にスムーズに上場準備を行うことができ、当初のスケジュールから全く遅れることなく、上場することができました。
ただ各部門間との連携が必要なタイミングや、各部門に負担をかけなくてはいけない際は、しっかり根回しを意識していました。こちら側から一方的に落とすというのはご法度で、関連部署のキーパーソンと会話をして、理解を得つつ進めるという部分に気を遣っていました。
また、主幹事証券会社・監査法人ともコミュニケーションをする際は、バットニュースは先に伝えるようにし、また風通しもよく情報をオープンにして積極的に協力してもらえるように心がけていました。
-上場準備を進める中でファンド側からはサポートは有ったのでしょうか。また有ればどういったサポートだったのでしょうか
実務については会社側にかなり任せていただいていましたので、人材採用のサポートやファンド内に蓄積した過去のIPO案件等の経験を踏まえたエクイティストーリー構築、バリュエーション決定、ロードショー運営等のプロセスにおいて、アドバイス・サポートいただきました。
-上場を志向する場合、ファンド傘下でのCFOという選択肢はどういった魅力があると感じますでしょうか
PEファンドの投資対象となるということは一定規模かつ少なくとも安定的な売上・利益があるケースが多いと思います。それでもなお、収益拡大は重要な課題ですが、業績によって上場の見通しが全く立たないということはないので、ある程度、それ以外の上場準備に集中できるという魅力があると思います。そういった意味で上場を本気で目指されたい方にはファンド傘下の企業は有力な選択肢の一つとなるのではないかと思います。
-現職では、創業者さんも在籍されてきたと存じますが、創業者さんとファンドさんとの間を取り持つ部分にご苦労は無かったのでしょうか?
創業者である代表取締役からファンドとしてはどういうことを考えているのか等は聞かれることもありますし、こうしたら良いんじゃないですか、という事も伝えていました。ファンド側としてどういう出方が出来るのか予想しつつある程度の着地点は見据えて予期しながらもうまく調整していくという部分はやっていたかもしれないです。
-アドバンテッジパートナーズについては投資先側で勤務する中でどういった印象を持たれましたでしょうか
APの投資チームの方々は、合理的かつサポーティブでしたので、仕事は進めやすかったと思います。大株主としてのAPと会社の間で必ずしも利害が一致しないこともあったかと思いますが、会社側の意思も尊重いただき、上場に向けて非常に良い関係の中で進めることができたことに感謝しています。
-最後にPE投資先CFO目指されている方・関心を持たれている方にメッセージをお願いします
前に述べたとおり、PE投資先のCFOはスタートアップとはまた違った魅力があると思います。どういったキャリアを歩むかはそれぞれの価値判断かと思いますし、PE投資先はスタートアップに比べると知名度の低いキャリアパスであるのが現状かと思いますが、少しでも魅力を感じられたのであれば是非ともチャレンジしてみてはいかがでしょうか。
特にプロ経営者的なキャリアの最初の登竜門として、PE投資先は適しているのではないか、またそうあってほしいなと感じています。まがりなりにも私も上場企業の取締役CFOを務めているわけですが、日本に上場企業は数千社ありますが役員の方は内部昇格というケースがほとんどではないかと思います。外部の人材がチャンスを得られたのは非常に興味深い部分なのではないかと思ったりしています。