・各業務のフローをただ覚えるのではなく、理由・背景を把握し、必ず押さえるべきポイントを理解すること
・インハウスのプロフェッショナル人材として、自身の担当しているビジネスについての構造や収益を生み出すポイントなどを確りと理解すること
・(会計分野が専門外の方など向けに)専門分野の説明をする際には、なるべく平易な分かり易い説明とすべく、ポイントを整理すること
元々、特別に会計やファイナンス関連の知識知見があったわけではなく、住友商事での業務にて初めて触れたので、学生の時代からCFOというものを意識していたわけではありませんが、家業などの関係で会社経営というものは少し身近に存在しており、漠然と会社経営に関する仕事に関わりたいとは思っていたと思います。
その中で財務経理のキャリアを経たことでCFOとしてのキャリアを意識するようになったと思います。特に入社6~8年目の海外にいたときですかね。本社にいた際は専門性を高めようと思っていた部分が、海外に行くとポジションが1個上になりました。
個別論点でゴリゴリやるというよりマネージする側になったのもちょうどその時ぐらいかもしれないです。
CFOを意識してからも特別な準備などはしていないのですが、自身のキャリアでの経験を棚卸し、自身がCFOとして働くことを想定した上で不足すると思われるスキルや経験は何か、それを補うためには何をすべきかということを整理しました。私の場合はそれが管理会計面(特にFP&A)だったため、自身で書籍を読み漁り、先輩や同業他社の方に確認しながら関連する情報収集や勝手に想定する会社ではこういう分析が必要かもしれないみたいなイメージをしていました。
- 良くファンド側と投資先との間で経営陣が板挟みになるケースが有ると伺いますが、どのように対応されてきたのでしょうか。
初期の段階でいうと数値目標でどうしても折り合いがつかない部分も有り、その際、現実感のない数字を作ってしまうと、現場のやる気もなくなってしまう。そこの落としどころはどこかというコミュニケーションは丁寧に行うようにしていました。
To株主という観点では、現実的に積み上げてロジカルに説明していくしかないというところで、納得させるようなコミュニケーションは取る必要がありました。
私が所属した期間を通して考えると、株主さんに対して会社として抱えている問題などの事実はしっかりお伝えする。どういう人がどういうことを思っているかなど、会社は人が動かしてるので、もう少し人間模様じゃないですが、そういった部分もご理解いただくように心がけていました。特に私みたいな外部採用の人間と内部でマネジメントになってる方もいるので、その関係性ですね。その関係性で摩擦が起きたりはしがちだとは思うんですが、その辺りも含めてどういう状況か結構つまびらかに伝えるようにしていました。
逆方向の話で言うと、プロパーの方に対してはファイナンス関連、契約や知識等のハードスキル面などについては、かいつまんでわかりやすく説明をするように心がけていました。
- 現職に着任された際、投資先社員の方たちと関係を築く際にどういった事を心がけてこられたのでしょうか。
教えてくださいというスタンスで取り組んでいました。特にホテル業は私も経験が無かったですし、初めてで不明点も多かったので、そこは素直に分からないので教えてくださいというスタンスでいきます。一方で、こちらから専門性やハードスキルの部分で提供できることはします。ある程度、この人はスキルセットが伴っていてなんか会社の事業を分かってくれそうというのは感じてもらわなきゃいけないと思う。ハードスキルとソフトスキルの使い分けな気がします。私の専門分野である一般的な会計・財務面で判断が出来る話もありますが、もう少しビジネスに突っ込んで行くと理解が出来ていない部分がやはりありました。そういった私が不明瞭な部分に関して投資先の社員の方々は感覚的に理解しているので、その感覚の部分をしっかり教えてもらって、それを実際の数字に落とし込むとこんな感じだよねみたいな、そういうコミュニケーションは最初のうちにしっかりやっておかないといけない。
最初は教えてくださいというスタンスで関係性を構築しつつも、早めにのタイミングでこの人ってビジネスに対する理解があるなというのも感じてもらわないといけないと思い、キャッチアップに対してはかなりスピード感をもって取り組んでいたと思います。
さらに次のステップにいくためには汗をかくことも大事かと思っています。特に私が入ってから予算の制度をガラッと変える機会が有りました。ファクトベースでしっかり経営推進していきましょうという体制に社長以下で方針として出している中で、予算も過去のファクトベースで作りましょうと言うのは簡単なんですが、実際やってみるとやはりやり方がわからない部分はある。ここはそういう方針を出した手前自分も頑張ろうということで、それこそ各部署と一日中、朝から晩までずっと会議室にいるのが1週間2週間続くみたいなことをひたすらやりました。そうすると、翌年度になると、一緒に手を動かしながら社員の方も学び、精度が向上していく。会社のメンバーの成長が見れるのは自身の仕事の成果が目に見えますし、やっていて凄くよかったなと感じますし、会社のメンバーも自身の成長を感じることができ、そこまで一緒に汗をかくことで信頼を勝ち取れた部分もあるかなと思います。一方で、あの人はすごく数字に細かいしうるさいから怖いなと思われることも多分あったと思います。
- 日本企業成長投資(NIC)様については注目されているファンドの一つかと思うのですが投資先でやり取りをされてどういった印象を持たれましたか。
会社マネジメントの意見を尊重しつつ、会社の経営改善、業績向上に資する取組であれば尊重、賛同、支援頂けるという印象を持ちました。ファンド投資期間における会社成長のみに縛られることなく、会社として長期の成長に向けた取り組みについてもご理解いただき、支援して頂いたと感じています。例えば、現職ではブランディングの部分になると思います。短期的には収益貢献があるかは定かではないですが、会社の長期的成長というところをサポート頂いたと感じます。
加えて、投資先マネジメント陣とのコミュニケーションについては重要視されていると感じており、個々の成長についても後押し頂き私個人としては凄く成長できる機会を頂いたと思っています。具体的には、入社後2週間に1回CEO、ファンドのパートナーと担当の方3名で私のフォローアップも兼ねて機会を作っていただいた。またCEOも年に1回ファンド側から私のフィードバックを取って頂き、良かった点、要改善点を頂けとても有難く感じました。
最初の出会いは通信ベンチャーに転職した時です。同社の副社長のネットワークに多くの大手金融、ファンドの方がおり、M&Aを含む各種資本政策検討の折、PEファンドとのコミュニケーションが始まりました。
その後、転職検討時にエージェントより紹介された会社が、以前接点のあった大手PEファンドの投資先だったのです。ファンド側の責任者(MD)とも既に面識があったので、とんとん拍子に同社採用となったことが、PEファンドとのかかわりを深くするきっかけとなりました。一方、同社は事業で不調の部分も有り、その際の株主とマネジメントとのコミュニケーションは非常に難しいものだと感じました。案件も大きく、非常にタイトな時間軸の中でのプレッシャーは想像以上でした。
PEファンド傘下企業の営みは、一般事業会社のそれとは大きく異なります。
会社はあくまで投資対象であり、PEファンドは一定期間後、自らの持分を何らかの方法で譲渡し利益を得ることを使命とされた主体です。彼らは投資実行以後、対象会社と様々な取り組みを実践し、対象会社の企業価値を高めることで、自身の利益を獲得するとともに、対象会社のゴーイングコンサーン要件を整え、雇用、取引先、債権者、納税を守ることに繋げています。
この意義深い大事業を進めるためには、資本家の論理だけでは成しえません。誰かが投資家と対象会社の間に立ち、オペレーションの現場を動かしていく必要があります。この役割の一端を担う能力を有するものがPEファンド傘下企業の営みに求められています。そんな一人にたまたま選ばれたということです。
(アドバンテッジパートナーズ投資先・2023年7月グロース市場上場)株式会社ナレルグループ
取締役コーポレート本部長
野尻悠太様
2006年4月 みずほ証券入社(インベストメントバンキングプロダクツグループ)
2009年11月 株式会社アクセルスペース入社(取締役COO)
2019年4月 株式会社JDSC入社(CFO)
2020年5月 株式会社ナレルグループ入社(取締役コーポレート本部長)
-スタートアップとファンド投資先の違いという部分についてもお話頂きましたが、特にどういう方がファンド投資先にフィットしやすいと感じますでしょうか
結構スタートアップって、ジョインするには個人的な感想として熱狂というか、そういったようなものがないと、とても飛び込めないっていうのはあるような気もしていて、それよりかはどちらかというと、自分のスキルとか能力がどういう場で活かせるのかとか、必要としてもらえるのかっていう、職人気質的なところがある方の方が向いてるかもしれないです。
もちろん対象会社のビジネスに対して興味を持つっていうのは必要ですが、スタートアップほどの熱狂的な共感は求められはしないので、自分の能力がどう生かせるかというところに興味があるとフィットしやすいかもしれないです。
-現職の主な業務内容について確認させてください。
コーポレート本部長として、経理・財務のみならず、人事総務、法務、IT等幅広い管理部門を管掌しています。
-現職で上場準備を行う中で、最も困難だったことは何だったのでしょうか
また、どのように乗り越えたのでしょうか
正直なところ非常に辛かったということはありませんでした。社内も上場準備に協力的でしたし、プロジェクトメンバーにも恵まれ、主幹事証券も会社に寄り添って対応いただけました。そのおかげで、一つ一つ課題を着実にこなすことができ、非常にスムーズに上場準備を行うことができ、当初のスケジュールから全く遅れることなく、上場することができました。
ただ各部門間との連携が必要なタイミングや、各部門に負担をかけなくてはいけない際は、しっかり根回しを意識していました。こちら側から一方的に落とすというのはご法度で、関連部署のキーパーソンと会話をして、理解を得つつ進めるという部分に気を遣っていました。
また、主幹事証券会社・監査法人ともコミュニケーションをする際は、バットニュースは先に伝えるようにし、また風通しもよく情報をオープンにして積極的に協力してもらえるように心がけていました。
-上場準備を進める中でファンド側からはサポートは有ったのでしょうか。また有ればどういったサポートだったのでしょうか
実務については会社側にかなり任せていただいていましたので、人材採用のサポートやファンド内に蓄積した過去のIPO案件等の経験を踏まえたエクイティストーリー構築、バリュエーション決定、ロードショー運営等のプロセスにおいて、アドバイス・サポートいただきました。
-上場を志向する場合、ファンド傘下でのCFOという選択肢はどういった魅力があると感じますでしょうか
PEファンドの投資対象となるということは一定規模かつ少なくとも安定的な売上・利益があるケースが多いと思います。それでもなお、収益拡大は重要な課題ですが、業績によって上場の見通しが全く立たないということはないので、ある程度、それ以外の上場準備に集中できるという魅力があると思います。そういった意味で上場を本気で目指されたい方にはファンド傘下の企業は有力な選択肢の一つとなるのではないかと思います。
-現職では、創業者さんも在籍されてきたと存じますが、創業者さんとファンドさんとの間を取り持つ部分にご苦労は無かったのでしょうか?
創業者である代表取締役からファンドとしてはどういうことを考えているのか等は聞かれることもありますし、こうしたら良いんじゃないですか、という事も伝えていました。ファンド側としてどういう出方が出来るのか予想しつつある程度の着地点は見据えて予期しながらもうまく調整していくという部分はやっていたかもしれないです。
-アドバンテッジパートナーズについては投資先側で勤務する中でどういった印象を持たれましたでしょうか
APの投資チームの方々は、合理的かつサポーティブでしたので、仕事は進めやすかったと思います。大株主としてのAPと会社の間で必ずしも利害が一致しないこともあったかと思いますが、会社側の意思も尊重いただき、上場に向けて非常に良い関係の中で進めることができたことに感謝しています。
-最後にPE投資先CFO目指されている方・関心を持たれている方にメッセージをお願いします
前に述べたとおり、PE投資先のCFOはスタートアップとはまた違った魅力があると思います。どういったキャリアを歩むかはそれぞれの価値判断かと思いますし、PE投資先はスタートアップに比べると知名度の低いキャリアパスであるのが現状かと思いますが、少しでも魅力を感じられたのであれば是非ともチャレンジしてみてはいかがでしょうか。
特にプロ経営者的なキャリアの最初の登竜門として、PE投資先は適しているのではないか、またそうあってほしいなと感じています。まがりなりにも私も上場企業の取締役CFOを務めているわけですが、日本に上場企業は数千社ありますが役員の方は内部昇格というケースがほとんどではないかと思います。外部の人材がチャンスを得られたのは非常に興味深い部分なのではないかと思ったりしています。
株式会社キャスター
取締役CSO
川村尚弘様
2002年12月 University of Oklahoma経済学部卒業
2003年4月 株式会社トーマツコンサルティング入社(現デロイトトーマツコンサルティング合同会社)
2006年6月 株式会社NTTデータ経営研究所入社
2008年4月 フロンティア・マネジメント株式会社入社
2013年6月 株式会社ベルシステム24入社(ベインキャピタル投資先)
2015年6月 同社営業企画部部長就任
2016年3月 同社事業企画部部長就任
2016年11月 株式会社ICI石井スポーツ入社(アドバンテッジパートナーズ投資先) 同社執行役員就任
2019年9月 株式会社キャスター入社
2020年1月 同社執行役員就任
2020年11月 同社取締役就任(CSO/CFO兼務、2022年9月よりCSO)
アメリカの大学では1-2年生のときは英語での授業についていくために必死で勉強しましたが、3-4年生のときには慣れもあって、またあまり勉強しない学生に戻ってしまいました。ただ、この時に会計学を専攻していた(最終的に経済学で卒業していますが、会計学、MIS、経済学を専攻していました)ことから、ビッグ5(当時)会計ファームに入社したいという思いが強くなり、今のキャリアにつながったのかもしれません。コンサルタントになりたい方はマッキンゼーやボスコンを第一志望にする方が多いかもしれませんが、私はこの2社は受けておらずトーマツコンサルティング(現デロイト)が第一志望で、ほかの志望企業も会計系ファームが中心でした。
-ご自身の若手時代(20代)で特に印象的だった経験、意識されてきた点はどういった事だったのでしょうか。
トーマツコンサルティングに入社した初日に、パートナーからの入社祝辞があったんですが、その時の言葉は常に意識していますね。若干記憶の改ざんがあるかもしれないですが、
1.拙速は巧緻に勝る
2.まず全部作る
3.自分を個人事業主だと思うこと
と言われまして、今でもずっと守るようにしてます。
トーマツでは新卒の同期が15人ほどいたのですが、基礎知識や能力などで私はビハインドしていて入社後の研修はきつかったですね。その後クライアント配属になったあとも最初の1年は、自分の出来が悪すぎたから思い出したくないのか、仕事の記憶がほとんどありません。2年目の途中からは苦手なことはなるべく手を出さず、得意なプロジェクト全体のストーリー作り、分析、ロジックづくりなどにフォーカスするようになって少しコンサルらしくなった気がします。
-PEファンド投資先とスタートアップベンチャーでのマネジメント経験が有られますがマネジメントを務める際どういった違い、魅力があると感じますか
PEファンドは事業仮説がしっかりしているため遠くにあるゴールを目指すマラソンのような競技、スタートアップベンチャーは日々変わる環境に適応するので短距離走、またはリレー(バトンを渡すのも受け取るのも自分の場合がありますが)のような競技のイメージですね。PEファンドは、事業仮説もイグジットもわかりやすいので達成感を得やすいのと、ファンドのメンバーと壁打ちできるなど、環境面が整っている良さがあります。成果が出しやすい環境が整えられている一方で、時間軸が定められていたり、高いレベルでの論理的・定量的な裏付けを求められたりするので、ポストコンサルの方にとっては普通かもしれませんが、そうでない方にとってはストレスになりうるかもしれません。
スタートアップベンチャーは、何をおいても成長性の高さと、それによる課題の変化への対応力が問われるところが特徴です。これらをしっかり対応していくことによって、自分の考え方や原理原則を会社に浸透させることができるのが魅力かもしれません。創業メンバーにはかないませんが、少なからず自分のDNAのようなものを会社に残していっている実感はありますね。
-ファンド投資先企業を経験されて、現職スタートアップベンチャーを選ばれたご理由と、現職の主な業務内容について確認させてください。
ファンド投資先はちょっと慣れてきたかなという雰囲気も有ったのと、当時周りも結構スタートアップにいく人も多くなってきたので興味を持ちました。またある種スタートアップに行くというよりもキャスターに行きたいという気持ちが強かったかもしれないです。私は石井スポーツ時代にずっとキャスターのサービスを使っておりサービスとしてすごく付加価値が高いと思っていました。シンプルなんですが、生産性を高めるためにしっかりしたサービスだと感じており、ポテンシャルを感じていました。そこで周囲のポストコンサルの友人に、私がスタートアップに行くことについてどう思うか聞いてみたところ全然合っていると思う、という言葉をもらったのが後押しとなって決めました。
入社直後は経営企画室長として、KPI管理の土台づくりと、経営課題の発見と解決をしていました。その後CSO/CFOとして管理本部を管掌するようになって、予算策定・管理、資金調達、人事制度の改正などを行い、上場準備の責任者も務めました。私は上場準備に専門性があるわけではなかったため、方針を定めたり、スムーズに進むようなきっかけを作ったりしただけで、あとはメンバーが責任をもって進めてくれました。2022年からはCSO専任となり海外事業、新規事業、M&Aを担っています。
-現職で上場準備を行う中で、最も困難だったことは何だったのでしょうかまた、どのように乗り越えたのでしょうか。
前述の通り、私が上場準備で果たした役割はさほど大きくはなく、他のメンバー、特に私の後任として管理本部を担ってくれた執行役員陣によって成し遂げられたものだと前置きしたうえでお答えします。
ひとつは、フルリモートワーク企業での上場ということで前例のない論点がいくつも出てしまったことです。例えば、出退勤管理は通常の会社であればタイムカードとドアの開錠履歴を突合することでダブルチェックできますが、リモートワーカーに開錠履歴は当然ありませんから同じプロセスは作れません。結果として、Slackなどを使って解決したのですが、このような論点が継続的に発生しました。
ふたつめは、形式と本質の切り分けです。上場の要件として求められるものは、どれも本質的な目的があると認識しています。しかし、それを業務に落とし込むときには、形式的なルールに置き換えなければいけません。例えば、モノを買うときに購買稟議を通す本質的な理由は、しかるべき責任者が、支払先、目的、支払額を承認することで統制を利かせることにあります。ただ、それをルールに落とし込むと「このワークフローシステムを使って、〇〇部が事前にチェックし、最終的に責任者が承認する」という形式に変わります。すると、「ワークフローシステムが止まってしまったらどうする?」「急ぎの場合に〇〇部の担当がいなかったらどうする?」といった話がでたりします。答えは、「メールなどを使って責任者が承認する」で十分本質的な目的は達成できます。
逆に、責任者が休みなどでいないからと言って、責任者のIDをつかってワークフローに入り別の人が承認してしまったら大問題です。形式的には確かにあってるようにみえますが。このように、本質を理解して、形式にはまらないように議論をコントロールし、そのリズムを作り出すまでは形式に若干振り回されてしまう傾向がありました。
最後は、やはりステークホルダーとの合意形成です。ここは個別具体論点になりすぎてしまうため詳細なお話はしませんが、コンサルやファンド投資先の経験だけでは補完しきれない部分でした。
-2013年~2019年までベインキャピタル、アドバンテッジパートナーズ投資先で勤務されていますがファンドについてはどういった違いがあると感じましたでしょうか。
統計的な違いで分かるほどの数ではないので、私が関与した案件や他の投資先メンバーの話などを総合して回答します(狭い世界なので、元同僚だけでも6人ほどがベイン、アドバンテッジの投資先で勤務しています)。
投資先の企業規模の違いから、PEファンドを通じて採用される経営・マネジメント層の人数が大きく異なりました。念のためお伝えするとPEファンドは、投資したあとで投資先の企業に経営者やマネジメントを新規に採用します。これはよく勘違いされますが、PEファンドに在籍して投資先に出向するのではなく、ほとんどのケースでは投資先に直接雇用されます。そのため、採用プロセスとしてはまずPEファンドで複数回の面談、次に投資先の社長や幹部の方と面談、入社という流れになります。
ベルシステム24では10名以上このようなプロセスで入社されたマネジメント層がいらっしゃったと思います。一方で、石井スポーツでは私を含めて2名(管理サイド1名、事業サイド1名)だけでした。
前者では、施策の実施に際して、ガバナンス面でもプロジェクト推進の慣れの面でも、盤石かつスピーディーに進められる利点があります。もちろんプロパーの方々が変革の主役ではあるものの、このような体制は投資時の初期仮説を徹底して進めるのに適したやり方だったと感じます。
後者では、マネジメント層の大半がプロパー社員となりますので、その方々との合意形成や、施策を推進もその方々が中心になって進めていただく必要がありました。投資時の事業初期仮説も、投資期間中で補正をかけながらすすめましたし、私自身のウィルを反映させる機会が多かったです。またファンド側もかなり業務の細かいところまで入り込んで、現場の人と一緒になって実行していったイメージです。
前者では、ストラクチャーがしっかりしており仮説をしっかり決めてそれに向かって大きいプロジェクトを3~4年走らせるという印象で、後者の方がスタートアップとまでいかないにしても、より流動的だった印象を持ちます。随時確認しながら仮説を変えていくというところでしょうか。
-ファンド投資先で培われた能力はどういったものだったのでしょうか。またもし現職で発揮出来ている点があれば確認させてください
一歩目を作る能力ですね。コンサルのときは、すでにプロジェクトがクライアントからオーダーされているので、プロジェクトを「やる」ということ自体は決まっていて、スマートに組み立てさえできれば、一歩目の苦労はそこまで大きくないんです。むしろプロジェクトをクロージングすることのほうが難しかったりします。一方で、ファンド投資先ではかなりの量のプロジェクトを走らせないといけないが、そもそも「やる」ということに必ずしも社内合意が取れていなかったりします。一歩目を踏み出す前に時間がどんどん過ぎてってしまうんです。私が好んで使う方法は、まずデータを握ってしまう事。例えばキャスターでは基幹システムのアクセス権をくださいと伝え、拾える数字はすべて拾って、なんだったら1か月ぐらいで誰よりも解像度が高い状態にまでもっていく。最初にシステム担当者と仲良くなり、それによってシステム担当者の人がどういうデータを持っているかがわかるようになり、次にそれを使ってプレゼンする感じです。
次に、いったん1人でやってしまってある程度の成果を出してしまうやり方です。例えば石井スポーツでは、CRMの導入に向けた最初の一歩は、1店舗のごくごく一部の顧客を使ってエクセルをベースとした仮想CRMの施策をサンプルで走らせたことでした。顧客の整理、DMのデザイン、ギフト券の準備発送、結果の分析などをすべて行って成果が出ることを検証し、次に5店舗、半年後に全店、そしてそれを仕組み化するためにCRMの導入といったところまで進めました。現職でも同様ですね。まずは経営を見える化するために計数を整理するところから始めたのですが、その土台となるDWHを作って全社計数を出せるようにするところまでは外部協力者と社内のIT担当に手伝ってもらったものの、入社後3-4か月で設計、ツール選定、導入、運営開始までほぼ1人プロジェクトとして完結させました。こういう早さはスタートアップベンチャーでは重宝されますし、小さい成果ではあるものの社内での信頼を得るために私にとっては重要なプロジェクトだったと認識しています。
-川村様の今後の展望についてはどういった事を想定されておりますでしょうか。
あまりキャリアに長期的な展望は持っていません。いまは現職のキャスターで海外事業、新規事業、M&Aの責任を担っていますので、これらが組織的に回るような体制を築き上げることに注力したいと考えています。
-最後にCXO目指されている方・関心を持たれている方にメッセージをお願いします
すみません、インタビューの意図に沿えてないかもしれませんが、CXOという役職自体にあまり意味はないです。象徴的に使っているのだと思いますが、最近は「CXOになりたい、役職がほしい」という方が増えていて違和感を覚えています。ある領域において、誰よりも成果を出すことができれば社内ではCXOの役職がなくてもリーダー・責任者として見られますし、そのような状態になればCXOという役職名を欲しいとも思わなくなります。
では、どうしたら経営レベルで成果が出せるか?という質問に答えるとすると「自分なりの原理原則を持って、それを徹底できるか」ということかと思います。すごく抽象的に聞こえるかもしれませんが、わりと地道・地味な話で、例えば私の場合は、「制度設計をするときは長期的に耐えうる形になっているかどうかを判断基準にする」、「体制づくりはレポートラインをいかにシンプルにするかを重視する」、「業績が良くなったり悪くなったりしたときは、構造的な理由なのか、一過性の理由なのかを切り分けて対応する(つまり一喜一憂しない)」「100点を目指して進まないくらいなら、60点でも前に進んだほうがマシ」などです。これらを持つことによって、瞬間的な判断が可能になりますし、ブレがなくなります。2-3年前に意思決定したことで、すでに記憶にないような話でも、同じ条件を与えられると全く同じプロセスをたどって同じ結論に至ります。
このような原理原則は、一つ一つの事象に真剣に向き合って必ず自分なりのスタンスを持つことでしか醸成できないので、小さい課題や仕事でも適当に判断しないこと、選択肢を出したり報告するだけでなく常にリスクを取って結論を出すスタンスで仕事をすること、など日々の積み重ねかと思います。そのような小さな積み重ねや、自分なりのスタンスがない状態で「とりあえずCXOのポジションが欲しいんです」というのは少し違う気がしています。
株式会社Blueship
CFO
東貴志様
1996年 名古屋市立大学経済学部卒
同年 個人にてハウスクリーニング業開始
2003年 株式会社リーガルマインド入社 経営企画室
2005年 EY新日本有限責任監査法人入所
2020年 C Channel株式会社入社 CFOを務める
2023年 ジャパンシステム株式会社入社(ロングリーチ投資先)
2024年 株式会社Blueship CFO就任(2024年2月時点)
(直近ロングリーチ社が資本業務提携を行った企業)
-監査法人から様々な企業がある中でC Channel社を選ばれたご理由について
私の人生の選択はいつもタイミングとご縁で、流れに身を任せています。自分の選択を正解とするための努力をすれば良いと割り切っているので、思いがけない経験をできることも多いです。
C Channelを選択した理由は、圧倒的なスピード感のある会社であったと実感したからです。当時、複数の会社のオファーを頂いておりましたが、面談から採用までのスピード感が桁外れで会社の意思決定スピードも早くてダイナミックな動きを期待して入社しました。具体的なエピソードとして、私の採用決定まで4時間程でした。15時にCFOの方と会って気に入って頂いたらしく、他の執行役員の方、社長と面談し当日中にオファーが出ました。急に社長と面談っていうのもなかなかないのでエージェントの方もビックリされていました。
その場にいると自然に受け入れてしまって早さを実感することもなかったですが、今振り返ってみると実際にその意思決定スピードは早かったですね。私自身も、入社時の役割は経理部長でしたが、その半年後には経営企画本部全体に関する取締役になり、1年後にCFOになり、2年経ったころには常務取締役CFOにまでなっていました。
様々な方との出会いも刺激的で、入社時のCFOは外国籍の方で、彼の考え方の影響を結構受けました。とことん合理的で情熱と冷静さを併せ持った素晴らしい方でした。
私は比較的冷静さが際立っているところがあるので、必要に応じて情熱を前面に出すなど求められる役割を全うすることを今でも心がけています。
もちろん、C Channelの森川社長ともかけがえのない時間を共有させてもらいましたので、感謝しかないです。挑戦にかける情熱は圧倒的で、私も挑戦か見送るか悩んだときは、まず挑戦するためにはどうすべきかといった視点で物事を見るように意識するようにしています。
まさに運命の巡り合わせで入った会社でしたが、多くの出会い、幅広な経験をさせてもらって一気に成長できた数年間でした。
-C Channel社でのスピード昇格された要因・評価されたポイントはどういったところだったのでしょうか
社長との相性の部分もあったのではないかと思います。話す中で何かひらめくものがあったというか、事業ビジョンがうまくはまり、それに向けて明確に役割分担が出来たという事でしょうか。また早さと結果・実行という部分も評価されたのではないかと思います。
-現在Blueship社のCFOを務められていますが、主な業務内容についてお聞かせください
入社タイミングが、9月で決算期変更も実施したこともあり、12月までの4か月間でPMIの遂行とレポートラインの円滑な運用が主な業務となります。今までオーナー企業として素晴らしい成長を遂げている会社ではありますが、ここから組織の力を結集することで、非連続な成長を実現することが求められています。PMIは一旦区切りがついたので、さらなる成長実現のための組織体制の構築や管理の高度化、グループ会社であるジャパンシステムとのシナジーの発揮が現在の業務内容となります。
お陰様で必要条件はそろっています。ファンドからの出資の少し後にServiceNow社からアメリカ以外で初出資を受けた会社となり、世界でも指折りの企業から評価されているBlueshipには成長しか似合わないです。
関係者の期待をエネルギーに変えて、走り続けたいですね。
-投資先に入られてからの社員の方との関係構築やコミュニケーションを取る際に工夫された点はありますか
自分から積極的に動くことを心がけています。実際、社員は良くわらかない人が急に来たなと思うでしょう。社内の空気を把握するために、少なくとも情報が集まっているキーマンの方を見つけて、こちらから自然にコンタクトを取っていくというのはあったのかなと思います。
-現在業務を進める中で特に心がけている事はどういったことでしょうか
全ては会社成長のために、しっかりと経営者としての役割を果たすことです。今までがオーナー企業であったこともあり、社長一任に近いところも少なからずありました。これはスピード感という点では最大のメリットを生みますが、ガバナンスという観点からは懸念も生じます。外部株主からの出資を受けた会社として適切なレベルでのガバナンスを利かせることは必須ですし、私の業務としてもこの意識を常に持ち続ける必要があります。その際のガバナンスの利かせ方ひとつとっても、経営として会社の成長に寄与するためにはどのような要素が必要かという考え方を常にしています。
メンバーに丁寧に伝達することも意識しています。せっかく素晴らしい仕組みを構築できたとしても運用が不十分だと効果は限定的となってしまうので、デリバリは伝えきるまでやるということもこだわり続けています。
-PMIについて意識されていることはどんなことでしょうか
また、ロングリーチビジネスパートナーズ社(LBP)※1について感じられた事はありますか
PMIで一番意識することは、一体感と納得感です。
私自身は会計士としての立場からPMI業務を実施することが多々ありますが、当事者としてPMIを実施する機会は多くありませんでした。しかも今回のPMIは、ゆるやかな企業体として機能させることが区切りになるので、通り一辺倒ではいけないし、グループ会社とあまりに相違するレベルでもいけないという目線を意識して構築することが求められましたので、難度高めだったなと感じます。最終的には個社ごとの特性を生かしつつも、一体感を持たせつつという点がポイントでした。
あとは、ルール変更することで、どのような変化があるのか、なぜ実施する必要があるのかという点をメンバーにきっちりと説明することが必要だなと感じています。納得しないとメンバーも動き出せないので、丁寧にやっています。
LBPについて、彼らはほんとに痒い所に手が届くというか、非常に戦力になって頂いています。気になったらすぐにサポートしてくれ、オペレーション寄りの事も含め一緒に課題解決するので、1週間に2~3回はお話する感じです。
-PMIでの個社ごとの個性を生かしつつも、一体感を持たせる際の落としどころはどのように決められていたのでしょうか
ゴールとして何をやりたいか、それを会社に当てはめるとどうかという議論を絶えずメンバーとするようにしています。当初のイメージと相違していた点として、要件定義し、メンバーが納得すると走り切れるところは当社の強みであると感じています。
-PEファンド投資先とスタートアップベンチャーでのマネジメント経験が有られますがマネジメントを務める際どういった違い、魅力があると感じますか
事前に想定していたよりも大きな違いがありました。PEファンド投資先では、一定のルールはすでにあり、そのルールの中でいかに効率よく事業成長させていくかという視点での会話が多くあるかなと感じています。
一方で、スタートアップベンチャーではルールを変更させることも厭わず、会社を効率というより最大限成長させるという力点の置かれ方があるかなと感じました。
CFOとしての役割もその特徴に応じて使い分けが必要です。投資ファンド傘下では、事業の整理も含め与えられた資源をいかに有効に活用していくかというところに力点が置かれています。スタートアップベンチャーでは不足あれば自ら調達してきて充足させるという発想になります。ここだけ取り上げるとダイナミックな動きを求められるのがスタートアップで、精緻な動きを求められるのが、ファンド投資先といった感じになります。ただ、私がジョインしているBlueshipが面白いのは、ファンド投資先であるのですが、スタートアップとしての要素を色濃く残すところです。なので、効率も考慮しつつも、爆発的な成長をするための仕掛けを常に考える必要があります。この絶妙なバランスを舵取っていくことは実に刺激的ですし、楽しいです。
あとは、株主であるファンドメンバーとのコミュニケーション量に圧倒的に相違があります。ガバナンス機能自体はファンドメンバーがにらみを利かせてくれ、自分の感覚と違うアクセル、ブレーキを体感でき、その軸も取り入れることも勉強にもなります。
-初めてのPEファンド(ロングリーチ社)投資先企業となりますが、苦労された点とどのようにそれを乗り越えられようとされていますか
正直苦労したなと思う所はないですね。といってしまうと終わってしまうので掘り下げなければいけませんが、私の感覚と合う会社であったことが、ストレスなく入れた要員です。特に、ジャパンシステムとBlueshipの両社長との距離感をすぐに詰められたことが大きいですね。「会社のためにやるべきことをやります」宣言を受け止めてもらっています。
業務自体は当然不慣れなことが多いですが、それをいかに楽しめるかは重要な要素だと思います。私はよく採用面談で候補者の方に、この環境を楽しんでねと結びの言葉を伝えることが多いですが、私自身も楽しむための努力は怠りません。まずは、自分の意見をしっかり伝え、相手の意見もしっかり聞くところから始めます。事実と希望・考えを明確に区分し、正しく状況を理解して、そこから最善の打ち手を考えていくことで乗り越えました。当然、短期的な対処と中長期的な抜本的改善は異なりますので、そのあたりも意識して、過度に最初からこだわり過ぎないのも大事ではないかと思います。
前年までは、会社の現状を生かして対応してきましたが、これからは会社のさらなる成長のための仕組み作りや組織作りは、困難なことも多いでしょうし、やりがいもそれ以上にありそうなので楽しみにしています。
-率直にロングリーチ社についてはどういった印象を持たれましたか
非常に紳士的なファンドであり、一緒に投資先企業を成長させようという強い意志を感じました。彼らの投資スタンスが比較的長期であることも背景にはあると思いますが、大きな成長を実現するためのパートナーとしては良い組み合わせだと確信しています。
担当されているファンドメンバーのいずれとコミュニケーションをとっても合理的な反応が返ってくるので、業務も進めやすいです。
-ファンド側からはどのような支援を受けられており、どういったメリットがあると感じられますか
私自身がファンド傘下の投資先への関与が初めてでしたので、お作法すべて支援を受けています。彼らの後ろにいるLPの存在であったり、彼らの立ち位置であったりなどは、実際に触れ合わなければ正直知ることはなかったなと思います。当然の話になりますが、単独株主のため彼らとの期待値擦り合わせはやりやすいです。
-東様の今後の展望についてはどういった事を想定されていらっしゃいますか
まずは、今の案件を無事エグジットまで導くことが最低限の責務ですので、そこをしっかりやり切ることを意識しています。当然ですが、会社はファンドのエグジットというイベントはあるものの、それとは関係なく成長し続けることが必要ですので、そのための基礎をどれだけ植えつけられるかを意識しています。私自身も新規事業の立ち上げと成長というミッションを持っているので、注力して楽しんでいきたいですね。稼ぐCFOは自分の理想像の一側面なので、実現させていきます。
別軸ですと、私自身の個人事業として、スタートアップを中心にCFO業務をパートタイムで提供するサービスを展開していますので、そちらも積極的に活動していきたいと考えています。お陰様でEYでの経験や経営者としての経験を自分なりに棚卸してみると、組織運営に必要なことはすべて網羅できていますので、多くの会社に価値を還元できると自負しています。社長の壁打ち相手、右腕として組織成長にコミットして機能する役割を多くの会社と実現したいです。
日本パートナーCFO協会※2という団体に属しており、同期の仲間のネットワークを駆使すれば全国のあらゆる会社の課題解決ができるので、「なんだそれ?」と思った方は是非、SNSでご連絡ください!
-CFOになるにはどういったキャリア・スキルを身に着けておく必要があると感じられますか
あまり偉そうに言えませんが、少なくともスタートアップで言うところのCFOに求められているのは、なんでも拾う人かと思っています。組織を作ることが非常に大事な役割なので、何事も積極的に拾える人はぜひスタートアップで経験を積んで、CFOを目指して頂くと相性良いと思っています。
また足りないものを補える・勉強したりすることの好奇心であったり、ネットワークですかね。ちょうど一昨日くらいに知り合いのCFOが横のつながり作りましょうとSlackが立ち上がって今20名くらい集まっています。領域が広く難しくなっていくので、一人でわかるなんて言えないんですよね。そうやって相談できる環境を築ければ成功間違いなしかと思います。
-最後にCFO目指されている方やファンド投資先に関心を持たれている方にメッセージをお願いします
私自身は経歴のところでお話しした通り、気づいたらCFOというキャリアに到達したという感覚です。日々の業務で一生懸命にやり続けることで、最短距離で経営者の一人としての経験を得ることができました。これは私にとっては大きな転機で、皆さんにもぜひ実感してもらいたいです。
経験する前後では、視座の持ち方など大きく変わりました。何よりも勉強する領域、割く時間の意識が全く変わりました。人生で一番書物を読んだり、交流を図ったりなど貪欲に色々なことを吸収したいと思える自分にも出会えました。
そういう意味では、まだまだ勉強中のCFOという段階ではありますが、皆さんに一言申し上げるとすると、自身のCFO像はどのようなものかを具現化しておくとよいかと思います。
CFOの方と話す機会も増えてきましたが、いろいろなCFOがいるなと感じます。CFOの役割は一定の型があるものの、自分の意識次第で大きく変化します。私自身は比較的幅広にやりたい性格なので、数字だけにこだわらず課題解消責任者として企業成長を推進できれば非常に達成感を持っています。この記事を読んでくれた方は是非、ご自身の理想とするCFO像を描いてもらって、それに向けての自分なりの経験を着実に積んでいただければと思います。色々な道があってよいですし、どの道でも経験値はたまります。
※1.LBP(ロングリーチビジネスパートナーズ)
2023年に設立されたロングリーチグループ内の常駐型バリューアップ実行支援コンサルティング会社。
投資案件のPMIの効率性及びクオリティーの向上やバリュークリエーションの再現性を高める。
※2.日本パートナーCFO協会
中小ベンチャー企業での社外No.2、パートナーCFOを広く一般に普及することを目的として、認定・教育・普及・紹介活動を行う一般社団法人。
https://p-cfo.or.jp/
株式会社ライズ・コンサルティング・グループ
財務部部長
古屋佑樹様
2012年04月 株式会社エイチ・アイ・エス
2015年02月 株式会社ネクソン
2018年10月 株式会社アドベンチャー
2019年09月 株式会社BAKE
(2017年8月にポラリス・キャピタル・グループと資本提携)
2020年02月 株式会社ライズ・コンサルティング・グループ
(2020年12月にCLSAと資本提携、2023年9月12日グロース市場上場達成)
※インタビュー時点(2024年3月時点)での内容となります。
-今後のキャリアのご志向をしっかりと持たれていた印象ですが、いつぐらいから意識し始めていたのですか
株式会社ネクソンに在籍していたころからキャリアについてより具体的に志向を持つようになりました。
これまで在籍した会社すべてにおいて尊敬できる諸先輩方はもちろんおりますが、特に株式会社ネクソンでお世話になった諸先輩及びCFOはキャリアの志向性を考える必要性があると気づかせてくださいました。
また26歳頃に結婚をしましたので、家族のことを考えたらもっとキャリアを確実に醸成しなければと考えたのも志向性をもつことに影響を及ぼしているかと思います。
-ネクソン時代上司の方のどんなところが魅力でしたか
例えば、ネクソンの考え方は、資料作成に関してもワンシートで全部説明が伝わるということです。それは値張りではなく全部関数を組んで説明できるということが凄く重要なのだとはっきり教わったことです。今の私の仕事の礎はこの時の経験で出来上がったのかなと思っています。
またネクソンでは、会計士、税理士の方やそうでない方々まで皆が、次はこういう仕事がくるだろうとか、予め他の人が欲しいものを想定して準備をされているんですね。自分だけのものじゃないゴールをしっかりとイメージされて準備ができる方々がほとんどでした。どのようなロジックや整合性があってこれを使ったのかを説明できないものは一切ないような状況で作られています。ですから、担当がまとめて休んでいても、他の人間がすぐに対応出来る状況下を常に作り上げている環境でした。
また当時のCFOは、限られた時間で資料を渡された中でも、あらゆる確度で議論・分析が出来る方でした。例えば、経理とか労務は職位毎の縦串・横串になると思うのですが、彼は斜め串で考えられる方でした。それも定型的な斜め串だけでなく、状況に応じた斜め串が出来、情報を整理できる方だったのでとても参考になっていました。
この時ぐらいから、漠然とプロCFOになっていたいという思いが芽生えてきました。
当時の先輩方とは今でも付き合いがあるのですが、まだまだ今の私にはたどり着けないなと感じています。
-ご自身の若手時代(20代)で特に印象的だった経験、意識されてきた点はどういった事だったのでしょうか
これもネクソン時代なのですが、自分の集計・成形した資料を上席に提出した際に、この資料をみて何をもって適切である事を証明し、何を示唆しようとしているか分からないと言われたことです。
経理として一定慣れてきた頃であり、漠然と与えられた業務をこなしているだけになっているところがあったため、本質的になぜこの業務を行っているのか、次のステップを考えたときにどのようなことをすべきかが漏れていたと思います。
その指摘をいただいて以降は、どのような思考をもって対応したのか、何を示唆したいのかを最大限伝えられるように試行錯誤をするように意識的にしております。
-これまでPEファンド投資先を2社ご経験されていると思いますが、ファンド投資先で働く魅力は何だと思いわれますか。また苦労された点はどんなことだったでしょうか
PEファンドの方々は、数多くの会社をみられていることによる成功・失敗を惜しみなく共有してくださるため、一事業会社にいるだけでは得られなかったことを知ることができるのは魅力的だと考えております。
一方で海千山千の猛者の方々なので、しっかり考えをもって接しないと一瞬で考えの甘いポイントを指摘されてしまいますので、事前の検証と相手とお話ししているときも相手の回答によってどのような対応が次に必要かをずっと検討および準備をする必要がある点はとても苦労しました。
-事業会社にいるだけでは得られなかったこととして、具体的に何がありましたか
まず、時間を掛ければ得られるものが、短期間で得られる事かと思います。
また、数字を良くするために本当に追うべきものの基準値は上がると感じました。
それは、事業会社では内輪の議論ですので、厳しい言及だったりとか検討を逃げたりすることもありますが、ファンドが入ることによって、これまでの投資ポートフォリオ内の成功事例や他社の生々しい情報も踏まえてより定量的に分析することができ、物事を細分化できることで、より深い議論が出来ることはメリットと感じます。
これまで創造の中だけで、業界の慣行ということもあったりだとか、これぐらいは仕方ないよねと曖昧にしていた部分が、より細かい分析であったり志向性を持つことで、更に深い検討ができたかなと思います。
-以降の質問の回答にもありますが、非常に合理的で経験豊富なファンドの方々と現場の間に入っている中で、難しい曲面やハレーションのようなものはありましたか。また立ち回りとして工夫していたことなどありましたら教えて下さい
結構ありました。それは、合理的には説明が付くのですが、感情的には困難な状況は多々あります。
例えば、イグジットで上場を目指す中で、N-3期でどれだけ整備できるかでその後のランニングが変わってきます。ただ、やるべきことを是々非々で進めてしまうと、上場準備前からいた社員の方は受け入れられなくなってしまいます。
そういった難しい場面を経験しながら、特に2年目くらいからは意識を変えていきました。
それは、必ず『過程は何か』の説明をすることと、資料作成は『誰でも分かるような内容』にするように心がけていきました。
また何をするにしても、検討段階からお伝えするように心がけていました。そして、結果はこのようになりますよと、今の会社の現状に合わせながら示してあげることで、現場から見た時に、妥協させた、検討させたと感じてもらうことで、納得感得られるような伝え方を意識していました。
-現在の主な業務内容についてお聞かせください
上場を果たした後は、取締役会で報告する月次報告のとりまとめ・開示関連・財務戦略の立案と各種会議体の事務局などでのサポートなどになります。
-現在業務を進める中で心がけている事はどういったことでしょうか
上述させていただいていることとかぶってしまいますが、次のStepや異なる立ち位置の方々へどのような影響があるのか、その影響が短期・中長朝でどのように会社に現れてくるのかなどを想定することを心がけております。
-現職PEファンド投資先で上場達成されていますが、苦労された点や工夫された点はありますか
PEファンドという観点ですと上場タイミングやバリュエーションに際して、ファンドとの調整などがある点でしょうか。
上場達成という点ですと、非公開会社が公開会社になるのにあたって絶対できていないといけないポイントに関して是々非々で修正や導入などを実施すると内部でハレーションが起きてしまうので段階を踏んで取り組むなどの調整が必要だった点だと思います。
会社をより安定して成長させていくための一歩であることをしっかりご説明していくことにより、円満に進めることができたと考えています。
-PEファンド投資先とベンチャーでの経験が有られますがどういった違い、魅力があると感じますか
どちらも魅力だと思います。
違いは、バリュエーションを上げるためにこれまでの投資先での検証結果をもとに多くの手を打とうとしてくださるのがPEファンド、事業者の熱い思いや知見をもとに手を打ってくるのがベンチャーだと思います
シードの段階ではベンチャー企業のほうがより成長及びチャレンジできるところが多いと思いますし面白いのかなと思います。
一方でラージやIPOといったフェーズになるとPEファンドなどのサポートしてくださる方がいたほうが確度は高まると思います。
-率直にCLSA社のプロフェッショナルの方々についてはどういった印象を持たれていますか
CxOとしてどの領域でも投資先企業を成長させることができる方々が集まっていると感じています。
-CLSA社からは上場準備やバリューアップについてどのような支援を受けられており、どういったメリットがあると感じられますか
そうですね。どのファンドもみなさん優秀でありながら、キャラクターの違いは感じています。
投資内容や規模感の違い、情に熱いファンドもあったり、対象会社への関与度合いの違いなど、それぞれ特色が出ていると思います。
-今回の転職活動を通して様々なファンドともやり取りがありましたがそれぞれの違いはありましたか
そうですね。どのファンドもみなさん優秀でありながら、キャラクターの違いは感じています。
投資内容や規模感の違い、情に熱いファンドもあったり、対象会社への関与度合いの違いなど、それぞれ特色が出ていると思います。
-現職では、直接ファンドにレポーティングする機会はありましたか。またどのくらいの頻度でどのようなやり取りをされていたのでしょうか
ありました。投資実行間もない頃は週に1回程度ありましたが、3ヶ月後には月に1回程度、上場前は月に2~3回でした。
-古屋様の今後の展望についてはどういった事を想定されていらっしゃいますか
CFOは、会社成長を財務のプロフェッショナルという視点から企業の資金調達、財務戦略の立案・執行、企業内の財務マネジメント全般をするものだと考えています。
将来的には、成長していきたいと考えている企業の方々から相談されるような人材になりたいと考えています。
-財務以外の面での経験として、今後身に付けていきたいスキル・経験はどんなものがありますか
そうですね。次の環境でM&AやPMIは学んでいきたいですね。
また、マーケティングの勉強をしようと思っています。そうすることによって、市場分析する際にその業界や業態、規定概念にとらわれない派生した発想や施策が打てるようになると思うので今後磨いていきたいと思います。
-今後、想定通りいった場合、イグジットの際は40歳ぐらいになっていると思いますが、次のステップはどのように考えられていますか
特に会社のステージには拘りはありません。
どちらかと言うと、自身のCFOのFをEにすることが重要なポイントだと思っています。
だからこそマーケティングの勉強をしようと思っています。
それは、CEOになりたいという目標があるというより、CEOの気質を持ったCFOであればどのステージの会社でも活躍できると思っています。
-CFOになるために、どういった経験・能力が必要だと思いますか
情報を点でつなげる方が多いですが、点と点をつないで線にすることが大事だと思っています。またその線をロジカルに整合性持って説明ができるとのかいうところが重要なポイントかなと思っています。それが、どのように次の分岐点であったりだとか、他のところにつなぐことができる可能性があるのかというところを検証すること、それが正しいものであるのかというのをもう1度振り返ることができ、その覚悟があるのかを問うことが大事かと思います。
-最後にCFO目指されている方やファンド投資先に関心を持たれている方にメッセージをお願いします
CFOというポジションは、肩書でしかないと思います。自身が得意とする分野において自身の理念に則り誠実に業務を行うことをしていれば、気づいたらなっているものだと思います。
その理念や取り組み方について不安に感じることも多いと思いますが、PEファンドの方々を壁打ち相手とすることで間違っていないことの革新や間違っていたとしたらどう軌道修正するかなどを検討できます。
そういった面でもPEファンドの方々は魅力的だと思います。
Mattrz株式会社
CFO
湯瀬幾磨様
2005年 早稲田大学政治経済学部卒
同年 公認会計士2次試験合格
同年 株式会社エスネットワークス入社
2014年 リノベる株式会社入社 取締役CFO就任
2016年 ジャパンアセットマネジメント株式会社 社外取締役就任
2018年 株式会社人材開発グループ 代表取締役就任
2019年 アトモフ株式会社 監査役就任
2022年 株式会社Auditech 社外取締役就任
2024年 J-STARが資本業務提携を行ったMattrz株式会社のCFOを務める
-ご自身の若手時代で特に印象的だった経験、意識されてきた点はどういった事でしたか
USENやライブドアといった新興のIT企業をクライアントに持ち、会計コンサルの仕事をし、そこでの人との出会いや裁量権のある仕事のお蔭でとても成長をさせてもらったと思っております。会計とかファイナンスの知識を持ちながらも事業会社の中でアグレッシブに冒険心を持って取り組まれている方々と一緒に仕事をするというところは、個人的にとても刺激になったかなと思っています。
業務の専門性も大切ですがクライアントとの人間関係の構築が、コンサルティングサービスを提供する上で最も大切なことであると認識しました。
-財務会計コンサル(エスネットワークス社)での経験はPE投資先である現職や、ベンチャーであるリノベるでどのように活きたと感じますか
投資家のみる目線や温度感と事業内部の考える日々の熱量を同時に感じ考えることができることを身につけられたことがとてもよかったです。ライブドアの金融部門をアドバンテッジパートナーズが買収したタイミングがあり、そこでPEファンド側の担当者の方と業務を進めることができました。彼らの思う投資をしたときの成長戦略のロジックと現状の足元からの数値をどう合わせていくのかというところで、非常に綿密にコミュニケーションをとる機会がありました。また、USENのCFOをやっていた佐藤英治さんという方が、その数年後に太陽HDで社長をやりまして、私も一緒に帯同していくタイミングがありました。2年ほどそこでM&AやIRの担当を務めさせていただきましたので、資本市場となる証券アナリストの方々とやり取りをさせていただきました。そういったところで、比較的温度感とか目線みたいところは養われたと思います。このように、プライム市場上場会社でIR担当として、国内・国外の投資家に対面でじっくりと業務で向き合えた時間(1年ほど)はとても有意義であったと思います。
-現在J-star投資先Mattrz社のCFOを務められていますが、主な業務内容についてお聞かせください
一般的なCFO業務がメインになります。
IPO準備・資金調達(銀行対応)・中期経営計画・株主コミュニケーション取締役会運営等
人事、組織構築のための人事評価制度の構築に直近特に時間をかけました。
-Mattrz社は、元々CRAFTA社、暮らしーの社、1k社、FreeSpark社、ベトナムPioneer Soft Vietnam社という異なるカルチャーの5社が一つになって構成されているとのことですが、マネジメントをされる際に苦労された点や工夫された点があればお聞かせください
創業メンバーと中途の経営陣との融合を過去から進める中で、創業メンバーがいなくなりました。
その過程で組織風土が異なるところから文化の統合に係る業務、特に人事評価制度の策定が大変でした。社長含め私達経営陣は中途になりますので従業員の方々からの信頼感はほぼゼロの状況から始まっています。その中でカリスマ性や人間性で引っ張ることはとても難しいと思っています。まずは客観的で透明性のあるルールを作ることで、皆さんに安心感を持って働いていただけるのではないかと思いました。特に給与面は会社によって大きく異なっていたので、一つの等級・給与テーブルにあてはめ、残業時間を統一化させることを優先しました。あとはスタッフレイヤーから部長陣まで社員全員1人1人に、時間をとって1on1で私が説明するという部分がとても必要でしたし、良かったのではないかと思います。苦労した点で言うと簡単には理解されないところですが、こればかりはもう時間で醸成していくしかないと思っています。
-Mattrz社で働く魅力はどういったところでしょうか
いい意味でも悪い意味で中期的に経営戦略・資本政策が、ふわっとしていることがあるので内部外部の全員で手作りの経営を模索している状況が面白いです。
-PEファンド投資先とスタートアップベンチャーでのマネジメント経験があられますが、マネジメントを行う際どういった違い、魅力があると感じますか
ガバナンスルールが属人的なオーナー企業とガバナンスルールが整備されたファンドという点で大きな違いがあると思います。
ファンド傘下の経営では、比較的目にみえる制約のなかで経営を考えるので、大きな枠組みは見えやすいと思います。
-率直にJ-STAR社についてはどういった印象を持たれましたか
担当者ベースですが人間的な付き合いを大事にする印象です。
個人的にはとても信頼できるメンバーが多いと思います。
-湯瀬様の今後の展望についてはどういった事を想定されていらっしゃいますか
目下の展望としてはしっかりとMattrz社を次のステージに一歩上げていくことを実現したいと思います。
-最後にCFOを目指されている方やファンド投資先に関心を持たれている方にメッセージをお願いします
ケースバイケースだと思いますが、座学ではなく経験することでしか実績は積めない職種だと思います。企業の規模や経営メンバーの状況はさておき、経験を積める機会があればチャレンジしてみる冒険心がとても大切なことだと思います。オーナー企業に若くして入ってしまうと、どちらかというと御用聞きみたいな形になってしまうケースが多いと思っていますが、PEファンド投資先でファンドの方とお仕事をすることでガバナンスのあり方や会計数値の作り方などのテクニックを学ぶことができ、どういったところを重視して見られるかという肌感覚を養うことができるのではないかと思います。そうすることで自信を持ってオーナー様と対峙できるっていうところはあるのかもしれないですね。様々なオーナー様がいらっしゃる中で、ただぶつかり合うというよりかは、投資家さん目線でのロジックで意見を伝えることができる。なんかただただこれが正しいからとかっていうロジックではなくっていうのは、やはりPEファンドさんの仕事の中で学べたことがあったかもしれないですね。
J-CEP株式会社
CSO
古城隆文様
2014年 (株)ローランドベルガー入社
2018年(ポラリスキャピタル投資先)(株)BAKE 経営戦略室長
2022年 スタートアップ企業 取締役CFO
2023年(ロングリーチ投資先)J-CEP株式会社CSO
-若くしてCxOを務められておりますが、自身のどういった部分が評価されたと感じますでしょうか。
ジェネラリストにしては、そこそこ深みがあるということに尽きると思います。
そこそこ深いというのは過去携わったタスクにおいて、もうちょっと知りたいなと思って自主的に調べた内容が自分の中に蓄積されているようなイメージです。
契約書ひな型を何となく作れる、が普通だとすれば、一歩踏み込んで「どれが形式的/実質的効力を持つ条項なのか」を理解および追及しようと普段から繰り返し考えるようにしています。 そうすることでマーケットにいそうでいないポジションに自分が入り込めた実感が確かにあります。そこそこ深いジェネラリストというのは、リスクが高い選択であるかのようにも思いますが、意識的に志向していけば、市場価値のある領域と考えます。
要すれば、何かしらで突き詰めた専門家になる方向を選べなかった一方で、そのぶんマルチプルに動けることを志向し、一人いれば8掛けくらいで何でもこなせます。できないとは言わないです、と大真面目に言えるだけの経験を積めたことに、レアリティがあるのかなと考えています。
その点で言えば、説得力のある発言をジェネラルに行っていくためには、多様な経験を踏まえた自分の確固たるスタンスを確立することが重要なのかもしれないと思います。たとえば会計士の方であれば、会計事務所だけでも十分食べていけるのに、敢えてそれを捨てて事業会社で経理含めた実務経験を積む、みたいな話が良い例で、コンサルだとそれが実業・事業会社での現場への没入だったりするのだろうなと思います。
-PEファンド投資先の(株)BAKEから次の機会としてスタートアップ企業を選ばれたご理由について確認させてください。
創業から3年も代表に声をかけ続けられており、待たせるのも心苦しくなって人情で入社を決めました。
もともと一人のユーザーとしてサービスを利用しており、会社の良いところも悪いところも一定分かっている状況は非常に良かったです。BAKEをやめる積極的な理由はあまりなかったのですが、BAKEがコロナによる危機をしのぎ、事業継続への道筋が見えたことは一つのきっかけとして大きかったと思います。
-戦略コンサル出身でファンド傘下プロ経営者として活躍されている方は多くいらっしゃいますが、戦略コンサルでの経験はファンド傘下でどのように生きていると感じますか。
同じファームを卒業された方に共通しているのは、コミットメントの高さかなと思います。どうやったらできるかを自分事として考える癖は、ビジネスマンとしての基礎能力以上に重要なのだなと感じます。それ自体がさまざまな能力やキャッチアップのスピードを圧倒的に高める、コアコンピタンスなのではないかなと考えています
業務経験とは毛色が若干異なりますが、人的なネットワークもとても大切です。業界知識の吸収や経営全般の相談において、諸先輩方からのご助言ほどありがたいものはないです。人的なネットワークを作るときに心掛けていることは、社内であれば、困りごとや自分に対する興味関心をいかに拾えるかです。これができるか否かが、ネットワーキングのキモだと思っています。
自分も困ったことがあれば、ファーム時代の先輩方に折に触れてご連絡をし、近況報告からスペシフィックな話も相談し、培ったネットワークを活用し、恩恵を受けています。
-現職J-CEP社でCSOとしての主な業務内容について
メインは経営情報の集約および成長戦略・予算の設計です。
企画だけでなく実務サイドとしても、人材確保に向けたアクションの立案実行をハンズオンで行うなど、現場に近い視点から幅広に仕事しています。
-2回目のファンド投資先企業となりますが、前回ファンド投資先企業であるBAKE社の経験が生きている部分が有れば確認させてください。
ファンドごとに特徴があるのは承知しておりますが、共通して株主との対話の重要性は非常に学びとして生きています。BAKE社では予算・中計策定を都合5~6回、ほぼ単独で行ったのですが、経過・状況の共有をこまめに行うことで、結果トータルでの説明コストが下がっていくのを実感しました。在籍後半はコロナで混沌とした期間に突入したのですが、過去のやり取りによる信頼の蓄積で早期に一枚岩となって対応できていたと思います。
また、社内メンバーの補完や他社事例の共有など、ファンドが株主となっているときに特有の株主リソース活用においても、対話コミュニケーションなしにはアクセスできないので、これもまた重要な観点だと思います。どのような方でもお互いの仕事を減らす、あるいはより円滑に進めていくというところで言うとやはり会話がない限りはどうしてもうまくいかないと思います。話さない限りわかりえないですし、対話を重ねてどのような相手でも歩み寄っていく努力をしていく、対話だけでなくて粘り強さも重要ですね。まだまだ至らないところは多いですが、対話に必要な経営状況のモニタリング・レポーティングと関係構築についても、相手の立場に立って「なぜ必要か」を考えることが予めできているので、特に抵抗感もなくなめらかに業務ができています。
-率直にロングリーチについてはどういった印象を持たれましたでしょうか。
非常に合理的で、かつ堅実なファンドという印象です。
ビジネスに対するコミットメントが高く、その分緊張感もありますが、経営陣に対するリスペクトも感じますし、信頼できるパートナーです。
-ロングリーチビジネスパートナーズ(LBP)について感じた事が有れば確認させてください。
単なるバリューアップチームに留まらず、現場が困っていることも積極的に回収していく頼もしさがあります。LBPとは現在週に2回の定例と、特定領域におけるMTGのファシリテーションをお任せしており、基本的にほぼ毎日何かしらの情報共有やMTG同席があります。週2回も定例があるファンドは非常に稀だと思いますし、我々ボードメンバーだけでなくファンドの方が現場に入って情報収集をして提案をしてくれるというファンドは私の知る限りないですね。
課題解決で言えば、ファンド参画直後のリーンな事業計画実現に向けた一丁目一番地としての「見える化」が、現場としてもどこから手を付ければよいのかという状況になっていたようで、先鞭をつけて頂いたところは非常に助かりました。ファンドにおけるバリューアップの初手を忠実にこなしていただいており、これがあるかないかでだいぶやりやすさが変わってきます。
-古城様の今後の展望についてはどういった事を想定されておりますでしょうか。
とにかくいまの任務をしっかりこなすこと、これに尽きます。BAKEの時も前職スタートアップでも、事業拡大までは一定進めたものの、IPOという通過点には残念ながら到達できていないので、信任に応え結果を残したい気持ちです。
さらにその後のことはまだ全然考えていないですが、責任に伴う効力感は嫌いでなはいのだなと分かってきたので、より大きな責任を持てる仕事があれば挑戦してみたいなと漠然と考えています。CEOがヘッドである以上、CSOは横串の機能とならざるを得ず、各CxOがファンクショナルであればあるほど調整役となる傾向にあります。これはこれで楽しく、より事業規模の大きいところでCSO職に就くのも面白いかもしれません。
一方で、純粋に「重い役割」も興味深いと思っています。たとえば単一セグメントの企業であれば「事業責任を持てるCSO」としてCOO兼務という形も広がりはあり得るでしょうし、もっとシンプルに、ピープルマネジメントまで含めた職責としてCEO職に就く、というのも憧れるところです。
独立するパターンとしては、自分だけで会社を興して、というよりは、プレイヤーとしてもう少し大きなことがしたいと考えている方を、経営の観点で支援するような動き方が理想的かなと思います。
-最後にCSO・CFOを目指されている方やファンド投資先に関心を持たれている方にメッセージをお願いします。
もともとビジネスマンとしてしっかり自律されている方にはもちろん、裁量のある仕事がしたい一方で最低限守るべきラインをガイドされた状態が望ましいと考えている方には、ファンド傘下企業はかなりおすすめです。外すべからざる要諦をサポートされながら、責任と自由度を抱えて一つの企業のかじ取りをする経験は、スタートアップにも一般事業会社にもない妙味があります。
ファンド傘下だからといって特段気負う必要はありませんが、ファンドもファンドマンも色々ですから、そのあたりの相性はできるだけ見極められるとよいかなと思います。特性プロフェッショナルファーム出身者であれば、どこのファンドでも2次~3次のつながりまででアプローチ可能なはずだと思っていますが、今回僕はRB時代の後輩がロングリーチにいたので個人的な伝手を活用し、ファームとファンドのリレーションやファンドの特性を確認しました。そのうえで面接では、ファンドというよりも案件担当者が株主として取るべきと考えている立場が、自分のプレイスタイルをつぶさないものか、というところの見極めが結構重要かなと思います。役割定義をきっちり切りたいファンドと、課題探索とつぶし込みを自由度高く行いたい候補者では、かみ合わないこともあると思うのでそこを見極められればいいのかなと思います。
CSOというポジションが用意されていることは、ファンド投資先であってもまだまだ珍しく、いわゆる経営企画ヘッドと、全社のマネジメントとしての戦略担当(=CSO)とでは、まわりからの見え方も裁量も、もちろん責任も大きく異なります。経営企画は実務部隊の後方支援という役回りが多いですが、CSOは戦略を通じて事業をドライブする立場です。事業への深い理解だけでなく、個々のメンバーレベルに渡る目配りと全社全レイヤーの活性化まで、硬軟織り交ぜたスキルセットが求められます。これを楽しめる方は、一介の経企を飛び越えてCSOポジションに就くと、非常に充実した仕事ができるのではないでしょうか。