プロCFOへの道
Professional CFO Column

Profile

大学卒業後、一部上場企業での管理部門(人事・財務経理・経営企画)での業務経験後、PEファンドの投資先への派遣人材として製造業・小売・サービス業でのCFO等を歴任。 PEファンドのバリューアップ担当、会計系コンサルでのPEファンド投資先への改革支援など、PEファンド内外の両方の立場での業務経験を有する。

PEファンド投資先CFOへの道

実際の公開ページでは回答部分が閉じた状態で表示されます。
  • 【第1回】PEファンドは候補者の何を見てリクルートするのか

    これから数回に分けてPEファンドの投資先CFOの実態をご紹介していきます。 私自身が20年以上実際に経験してきたことをご紹介していきますのでよろしくお願いいたします。

    ― 1. PEファンドとは
    そもそもPEファンドとはどんなことを生業にしているのかから、確認していきたいと思います。私自身、金融機関やコンサルティングファームに勤務している知人はさておき、そのほかの業界の知人には説明に苦労しました。

    ・何をやっているのか
    PEファンドは機関投資家から必要な時に資金を供出してもらい、非公開株に投資し当該企業の企業価値を高めて(バリューアップ)、売却(エグジット)することで利益を上げます。そしてその上がった収益を、投資してもらった機関投資家に還元することを業務としています。一般的には10年の期間の前半5年を投資期間、残りの5年を回収期間とすることが多いように思います。 また、投資の際には機関投資家から預かった資金だけではなく、投資先企業の収益を返済原資とするLBO(Leverage Buy Out)ローンを使って投資効率を上げるのが一般的です。

    ・ここからわかること
    このような生業ですので、①全く縁のなかった会社に入り込んで、②その企業の成長促進や不採算事業の整理を行うことで利益を上げ、③比較的短い期間でIPOや事業会社への売却を行うことが求められます。こういう背景から、投資先企業に送り込む人材(CEOやCFO、CSO、CHROなどCXO人材と呼ばれます)に求められるスキルや知見はある程度、想定することができます。


    ― 2. 採用の窓口
    ではPEファンドではどうやって投資先への派遣人材を探しているのでしょう。現在は1990年代後半のようにファンドが珍しかった時代と異なり、転職もM&Aも一般的になり、特別なルートはないと思っていただいてよいと思います。

    ・エージェント経由での採用
    PEファンドのサイズにもよりますが、ニュースでも取り上げられるような欧米系のファンドでは日々、投資先のバリューアップを行うための人材を探しているといっても過言ではありません。ファンド規模が大きい場合、毎年いくつもの投資を行っているため、常に人が不足している感覚を持っています。そのため、大手リクルートエージェントにはPEファンドをカバーしている担当と週に一度、ミーティングを行っている例もあります。 エージェント側も候補となりうる人物を常に探しており、私にも10年来、定期的に情報交換させていただいている方がいます。

    ・PEファンド独自のネットワークでの採用
    ファンドの中にも投資先企業のバリューアップを主に行う社員がおり、非常勤取締役・監査役などの役職で取締役会・経営会議の時だけ監視を行うパートナークラスとは別に、ジュニア・ミドル層で日々、投資先の会議に参加しながら事業の意思決定にかかわっている方が一定数います。バリューアップチームの面々はコンサルティングファームや事業会社の経営企画・財務経理等の業務経験を持ち、前職での同僚や取引先のネットワークがあります。特にコンサルティングファームでは案件ごとにチームアップして支援先に入り込みますので、ファーム内のネットワークだけでなく、支援先の社員の方々と一定期間、濃密なコミュニケーションをとる場合もあり、このネットワークでも人をリクルートします。

    ― 3. 候補者の何を見ているのか
    では、PEファンドの採用担当は候補者の何を見ているのでしょうか。投資先ごとに状況が異なるため、個別の事象ではそれぞれの比重がことなると思いますが、私は選ばれるときは次のような項目を重視されてきたと感じますし、少なくとも自身が選ぶときはこの観点から候補者を見てきました。

    ・時間感覚
    前述の通り、PEファンドは早ければ3年、長くても5年をめどに投資先のバリューアップを行い、エグジットをして利益を確定させなければなりません。そのためこの時間軸で成果を上げるという時間感覚を共有できるかどうか、が重視されます。着手してすぐ効果が出るようなわかりやすい施策が転がっていれば、そもそも対象の事業会社がやって成果を出しているものです。事業の意思決定は10回中、9回は成果が出ないとも言われ、そんな難しい仕事を短時間で、かつ成果をだすということにチャレンジできる人間かどうかを面接官は見ています。

    ・人間性
    そもそも頭脳明晰、ロジカルなPEファンドの社員と事業会社の(特に現場で作業をしているような)社員とは、普通は出会うことがない人たちです。ファンドから送り込まれるCXOは異世界の住人たちそれぞれの言葉を理解し、時には翻訳して伝えながら、成果を上げるための変革を起こしていく必要があります。 投資先の社風にもよりますが、従来やってきたことを「変化」させていく必要があるため、CXOであるというポジションから下に指示を出しても、だいたい変化は起きません。現場側に「どのように変化すればよいかわからない」のはましな方で、そもそも「外から来た人間に自分たち以上にうまくできるはずがない」、「自分たちの業界はほかの業界と違う」と思われることのほうが多いです。 このような状況で、ファンドの時間軸に合わせた変化を起こすには、スキル・知見の前に投資先の社員に受け入れられる人間性 が求められます。 派遣される企業によって様々ですが、私が最初の派遣先に一緒に派遣されたCEOに言われたアドバイスは「現場に降りていき、話を良く聞くことは大事。ただ、同類として与しやすいと思われてはいけない」というものでした。 私はこの言葉を、次のように解釈しています。「他者の経験・考えは真摯に聞き、敬うという、人として当たり前のことをする。ポジションで命令することで人を動かそうとするのではなく、相手が受け入れやすいロジック・話しぶりで納得してもらって自分事として動いてもらう。そのためには人によって態度や発言を変えてはならないし、謙虚な姿勢でいることが大事」であると。

    ・スキル・知見
    以上のような人間力の後にスキル・知見が評価されるわけですが、CFOに求められるスキル・知見とはどのようなものでしょうか。一般的なCFOに求められるスキル・知見と大きくことなることはありませんが、PEファンドの投資先CFOに特に求められるものとしては次のようなものがあげられます。

    ① シミュレーションモデル(財務三表モデル)
    PEファンドでは投資時にCFまでを含めたモデルを作り、銀行にも計画(バンクケース)を提示しながら、ローンを引き出し投資します。PLだけではなくCFについて対象会社の傾向をつかみ、中期の見立てを議論できれば、安心して任せられると感じるでしょう。
    ② LBOローンに関する知見
    低金利時代が長く続き、金融機関は利幅の大きい積極的にLBOローンに取り組んでいます。LBOローンには様々なコベナンツ(財務制限条項)がつけられています。財務諸表で計算される利益・キャッシュを元に計算される利益指標・キャッシュ水準や、設備投資制限などです。コベナンツのコンセプトを理解しており、チェックできる体制や報告フォームを銀行と交渉しながら確定することができるCFOは重宝がられます。この点は意外と重要で、あまり情報を開示したくないファンドとできるだけ情報を知りたい金融機関は、情報開示の面では利益が相反します 。よってファンドの意向を理解しながら金融機関側ご理解いただけるロジックで情報開示を制限しつつ、金融機関とも良好な関係を維持することが必要となります。
    ③ ファンド特有の報告内容への対応力
    ファンドは投資家である機関投資家へ定期的に報告を行っています。またグローバルファンドであれば、グローバルもしくはエリアHQからの指示で突発的な報告を行う場面が出てきます。これら定型・非定型の報告の必要性を理解し、被報告者が納得するスピード感、報告数値の取りまとめ力を想起できる経験は面接官に好印象でしょう。
    ④ 監査対応と交渉力
    投資期間中は機関投資家の要求もあり、会計監査の受診は必須となります。会計監査は基準が決められているとはいえ、機械的に決まるものはまれであり、会社のポジションをいかに監査人に納得してもらい、監査意見をだしてもらう能力は、どの企業のCFOにも共通するスキルセットです。 ただ、会計原則の枠組みの中で、PEファンドが重視するCashベースの利益(EBITDA:償却前営業利益)に貢献する実務処理を監査法人と交渉することはPEファンドの投資先CFOに特有のスキルと言えます。

    なお、選考最終フェーズでリファレンスチェックが行われる場合があります。はっきりと不足点をお話しいただける場合は少ない前提で、私自身が選考時に確認していた点は、応募者がどのように「見られていたのか」が中心だったかと思います。 具体的にはご本人が説明されていた経歴・実績を、他の方々はどのように評価されていたのか、仕事を変わられた際の経緯・ふるまいはどうだったかなどです。人間性に問題がなくとも、チーム内の関係性により全体のパフォーマンスに影響が出ることは往々にして起こりうることだからです。


    次回はCFOとして採用、派遣された後の立ち上がり期の業務についてご紹介したいと思います。

    ――――――――――――――――――――――――――――――

    【簡単1分】💻無料転職支援サービスはこちら

    ――――――――――――――――――――――――――――――

    ※ご意見・ご感想、筆者へのご連絡についてはお問合せフォームまでご連絡ください。
  • 【第2回】入社後投資先への入り込み方、100日プラン、LBOローン対応について

    ― 1. 事前準備
    めでたくPEファンドメンバーの面接(投資チーム、バリューアップチームからそれぞれ担当者がおられ、複数回実施されることが多い)をへて、投資先マネジメント(元々からおられる方、一緒に派遣される方など、状況によって異なります)のOKが出た後、投資先に入り込むことになります。
    この面接と入社前の待機期間に事前準備作業は始まります。

    (ア) ファンドメンバーとの面接時

    大きく分けて、3つのことを確認していきます。①ファンドが投資した際にみているアップサイドポテンシャルがある領域、②CFOには何が求められ、自身が期待される付加価値を提供できるか、③ファンドチーム内の役割分担と、自身の相性の確認の3つです。

    ① ポテンシャル
    投資を決定するにあたり、ファンドチームはデューデリジェンス(DD)を行い、投資委員会への説明・承認を経ています。DDには法務・会計は当然ですが、投資後の企業価値向上につなげるため、会社の強み・弱み・機会・脅威の分析(いわゆるSWOT分析)を行い、投資後の価値向上方法の仮説をもって投資を行います。この仮説はいわゆる100日プランのたたき台となるものです。
    ② CFOに求めることと自身の付加価値
    上記仮説がある中で、なぜ今回CFOを派遣する必要があるのか。ファンドはどんな役割をCFOに求めているか、それを実行する能力・エネルギーが自身にあるのかを確認することは、相互の期待値ギャップを埋めるためにも、自身のトラックレコードを確かなものにするためにも大変重要なことです。
    一口にCFOといっても企業の規模・成り立ち・業種によって求められるものが異なることはご想像いただけると思いますが、株主であるファンドが求めているものは何かを面談中に確認し、期待に応えられないと思うのであれば身を引くこともプロ経営者としての責務と思います。
    私自身の卑近な例では、米系ファンドの投資先のCFO面接の際に、「事業部側の成長投資をさらに加速するような役割」を期待され、自身のキャリア(どちらかというと守備的な役割が多かった)を正直にお伝えして、ご縁がなかったことがあります。
    ③ 相性
    ファンドチーム内の役割分担(投資側なのか、バリューアップ側なのか)の把握と自身との関わり合い・相性を想像しておくことは投資後の動きに大きく影響します。投資銀行出身で財務モデルやLBOローンのことは詳しいが、事業運営の経験がない方や、コンサルティングファーム出身で外から企業・事業分析をした経験は豊富だが、ファンドに来て事業の意思決定を初めてする方など、いろんな人がいます。CFOのミッションは「ファンドのやりたいことを実行する」のではなく、「企業の価値をあげる」ことですので、目的達成のためのどのように議論・協力していくためにも、相性の理解は重要なこ とと感じます。責任者クラスと担当者クラス、双方との相性が良いのが望ましいですが、責任者クラスとの相性が良く信頼を勝ち得ることができれば、その後の仕事の進め方がかなり楽になります。

    (イ) マネジメントチームとの面接時
    投資先のマネジメントチームとは日常的に顔を突き合わせて、事業運営をしていくことになりますので、自らの立ち位置の確認のためにも、人となり・キャリアを理解しておくことは重要なことです。CFOに何を求めているのかは共通の質問として、チームメンバーの属性によって、確認すべき項目は変わってきます。
    投資と同時に自らと同様に派遣される方であれば、なぜ引き受けたのか、どのようなキャリアを経てきたのか、得意分野はなにか等、自身とのキャリア・スキルの組み合わせのシミュレーションは必須だと思います。
    一方、元々投資先におられた方は若干確認するポイントが異なります。PEファンドに対するイメージや、元オーナーとの関係、現在の課題感など、より実務よりの質問をして、垂直立上げにもっていきたいところです。 個人の方の考えは変えられるものではありませんので、議論をしても溝は埋まらないと考えたほうがよいでしょう。ここで重要なことはその方と自身のパワーバランス(上下なのか、横関係なのか、ファンドがその方をどのように評価されているか等)を確認し、その方の知見・能力をどの領域で活用するかをイメージすることだと思います。垂直立上げを行うためには、多少の意見の違いがあっても、使えるものはどんどん使っていくべきです。少なくとも相手の方のほうが会社や業界について経験が長いので、教えを乞う姿勢で真摯にお話を聞けば、協力を得られます。質問に答え感動されて喜ばない人はこの世にいないと私は思っています。

    (ウ) 待機期間中
    この期間は資料の読み込みを行うことになります。ファンドがDD時に受け取っている外部専門家によるレポート(法務、税務、財務、労務等)や、対象会社がファンド向けに作ったIM(Information Memorandum)のほかに、マネジメントインタビューやキーマンインタビューの記録です。
    特にIMは会社側がみているSWOT分析ですが、投資側のファンドがとらえているSWOTと違うこともあるため、間に立つことが多いCFOとしては事前に把握しておきたいところです。

    ― 2. 100日プラン
    ここでいう100日プランとは二つの側面があります。いわゆる100日プランとは、ファンドが投資後100日の間に行うPMI(Post Marger Integration)の実行スケジュールと言われています。
    もう一つの100日プランとはCFO自身が、会社の理解を深め、周囲の信頼を勝ち得るための準備であり、これは私自身が企業へ入っていく際に実施してきた経験から整理したもので、万人に適応できるかわかりませんが、経験則からお勧めするものです。
    PMIについては100日プランと検索すれば、標準的な物がそこかしこに転がっていますので、本稿では触れません。
    CFOの100日プランは大きく分けて会社内・外の「人」「金」「情報」の理解を深めることを目的にしています。

    (ア) 会社内の状況理解
    ① 財務・経理の状況の理解
    CFOの位置づけにもよりますが、絶対に担当する領域として財務・経理業務があります。確認する項目としては、経理が関係するシステム(会計、連結、固定資産管理)と基幹系システム(販売、生産、ロジスティックス)との関係は重要です。リアルタイムに連動かバッジ処理なのか、バッジの場合はどのように連携(人力か、インターフェースをかましたものか)しているかなどの確認は、この後のバリューチェーンの理解に役立つとともに、決算早期化や監査対応に役立ちます
    ② 周辺部署(経営企画・人事)の把握
    昨今FP&A(ファイナンシャルプランニング&アナリシス)というキーワードをよく目にするようになりました。このような言葉が出回る前から、経営企画と財務・経理の関係は切っても切れない物であることはご承知のところかと思います。
    両部署は計画・見込みの作成、各事業への発信等で一体となって活動していきます。CFOは両方を管掌することが多いと思われるので、両部署の関係性や、数値の作り方の「癖」の把握はその後の動かし方に大きく影響します。
    また、個別人件費は人事しか知りえない一方、どのようにPL計上されているか理解ができていない人事部 も存在します。私自身の経験例では会社負担の法定福利費が個人別に分解されて店舗別に計上されているのか、それとも全社合計で部門展開されずに本社共通部門で計上されているのか、人事部ではわかっていないという会社がありました。経理部門と人事部門がうまく連携できておらず、店舗部門の人件費率が低く見えていたことになります。人事の計数感覚がどの程度のレベル感か把握しておくことも重要なポイントです。
    ③ 会社全体のバリューチェーンの理解
    大まかなバリューチェーンはIMにて理解できていいると思いますが、各部署がどのようにかかわっており、数値はどのように作られているかの理解は会社の課題把握に有用です。
    売上情報はPOS等でトランザクションごとに把握され、基幹システムに連携されているのか、それとも集計部署があって経理に報告されているのか。購買はどのようなフローで発注が決定し、原価システムにどのように登録されているのかなど、現場に近いレベルでの実務作業の把握をしておくことで、監査法人やファンドと会話する際に説得力・安心感が増すことになります。

    (イ) 会社外の状況理解
    ① ファンド関係者の関与度合い
    投資後にファンド関係者がどの程度、会社に入り込んでくるかというのは重要なポイントです。月に一度の取締役会の会議にだけ参加するファンドもありますし、日常的に業務に入り込んで口出しするファンドもあります。
    思い付きで発言され、投資先の担当者レベルが「株主の意見」として実態にそぐわない変更をしてしまうことや、報告のための集計など付加価値を生まない業務を作り出してしまうことは、意外に多く散見されます
    ② 銀行との関係およびLBOローンの理解
    投資時にLBOローンを付け投資効率をあげるのが一般的です。LBOローンには財務制限条項、報告義務など借り手側が守らなければならない条項が事細かく決まっているのが通例です。
    これらローンは貸し手(レンダー)、借り手(ボロワー)双方に弁護士事務所がつき、契約・実行されていますが、ファンド側は成約してしまうと実務処理まではやってくれません。
    特に、報告内容については会計数値だけでなく、製品別の利益率やシェアなど、そもそも元データや定義から確認すべきものが含まれている場合があり、初回の報告の前には、どこまで細かく開示すべきかをファンドと調整したうえで期日通りの報告を行う必要があります。
    そのため、早期に金利条件、返済タイミング、連絡窓口、ある程度将来の返済計画表などと一緒に、報告項目の整理をしておくとよいでしょう
    ③ 監査法人、税務顧問、法務顧問、コンサルティングファームのかかわり方
    これら外部専門家はファンドごとに近しいファームがあり、それぞれにファンドが求めている役割、特徴があります。
    一方で投資先がもともと使っていた顧問もいる場合があり、切り替えるのかセカンドオピニオンとして使うのか、レベル感の見極めも含めてフォーメーションをファンドと詰めておく必要があります。
    特に投資ストラクチャで税務メリットを取っている場合は、ファンド側の税務顧問と元からいた税務顧問との間で潤滑なコミュニケーションがとられないことも多く、仲立ちをして実務処理を進めていくのはCFOの役割と言えます。

    (ウ) 上記を踏まえたファンドのプランの検証
    これら周辺状況を理解したうえで、ファンドがビジネスDD等から計画したいわゆる「100日プラン」が妥当なのかを評価して、進めるにあたっての不足リソースやキーマンの把握などを行ったうえで、実行を支援していく必要があります。
    ここで面白いのは、ファンドのプランですぐに実効があがるものなど、ほとんどないということです。 これはファンドやDDをした外部専門家のレベルが低い、ということではなく、事業の理解や構造改革がそれだけ難しいということだと思います。「100日プラン」の本当の意味は、3か月程度で仮説ベースの施策の有効性を見極めることというのが私の実感です。方向性から間違っているものもありますし、達成できると思っていた水準感が違うものもあります。だからこそ前回触れた通り、とにかくスピード感をもってPDCAを回し続け、ギャップが判明したものからマネジメントチームと議論をし、軌道修正(場合によっては施策そのものを取りやめる)していく時間感覚が必要となるのです。


    次回は財務数値の把握のためのプロジェクトについてご紹介したいと思います。

    ――――――――――――――――――――――――――――――

    【簡単1分】💻無料転職支援サービスはこちら

    ――――――――――――――――――――――――――――――

    ※ご意見・ご感想、筆者へのご連絡についてはお問合せフォームまでご連絡ください。
  • 【第3回】財務数値の把握のためのプロジェクトについて

    ― 1. 背景
    ファンド投資チームは投資前のDD(デューデリジェンス)では結果数値の分析は行っているものの、実際の月次決算の作業方法(時間軸・粒度・基幹システムとの関係等)までは投資先に入ってみるまでは不明です。そのため、ファンドでは投資直後から外部の専門家(主に会計系コンサルティングファーム)を使って「財務数値の把握のためのプロジェクト」を走らせることがほとんどです。ファームと投資先の財務経理部門との役割分担は投資先の状況によって千差万別ですが、おおよそ①管理会計の解像度アップと②決算作業の効率化=早期化の二つのパターンがあるように思います。①の場合、ファームが現場にある数値を組み合わせて実績分解を行う「モデルの作成」まで行うことが多い印象です。一方、②については作業工数を減らすための計算シートの作成までをファームが行う場合もありますが、どちらかというとファームはファンドや投資先マネジメントへの「説明資料」を作るのが精いっぱいで、実際の効率化・実務処理の変更はCFOが現場を指導せざるを得ない、というのが私の経験則です。
    DDの際に使ったFA(Financial Advisor)の事務所を使う場合もありますし、ハンズオンを売りにしたブティック系ファームから選ぶこともあります。
    前回予告から内容を少し変更して、今回はこのようなプロジェクトでの注意点を少し深堀したいと思います。


    ― 2. 具体的な論点
    (ア) 外部専門家の見極め
    ① ファンドとの関係
    いくつも投資を行っているファンドには従来から親しくしているファームがあるものです。気心が知れているということもありますが、ファンドが機関投資家や投資委員会へ報告する際のポイントをわかっていて、いちいち説明が不要ということが大きいと思います。よってCFOは与えられた駒(ファーム)をどう使うかというスタンスでいたほうが良いでしょう。ファーム名は投資先企業が使える費用感・課題感によって差が出てきますが、エスネットワークスさんやリヴァンプさんのほか、監査法人系のFAS部門が最初に名前が挙がるところです。最近はこれらファームを卒業して個人で業務受託を行う方々も増えてきました
    ② 担当するマネージャーとジュニアスタッフ

    実際のプロジェクトではパートナーが統括しその下にマネージャークラスとジュニアスタッフがチームアップ体制図でとなることがほとんどです。
    本来、パートナークラスが成果物の「品質」を担保するべきポジションですが、実際にはマネージャークラスに任せきりになるのが通例です。
    よってマネージャークラスの実力を見極めどう使うか、が「将来的に使える成果物」を生み出せるかどうかのポイントとなります。
    各人の経験・職歴はCV(職務経歴書:ラテン語のcurriculum vitaeの略とされる)で確認するとして、会計的な知識や資料を作る能力よりも、経理実務にどの程度知見・経験があるか、ということが重要です。
    ③ どのように使っていくか
    このプロジェクトの費用はファンドの指示ではあるものの、投資先負担で行われることが一般的です。ということは形式的にはファームのクライアントは投資先であり、ファンドではありません。よって投資先が将来的に使いやすく意味のある(実務とはなれた、報告のためだけのレポートにならないよう)成果物とするため、CFOはプロジェクトの方向性をリードしていく必要があります。

    (イ) 財務会計と管理会計
    ① 意外と難しい両者の整理
    CFOを目指す方であれば両者の違いのご説明は不要と思いますが、意外と実務面で切り分けるのは難しいというのが私の経験則です。これはファンドの方だけでなく、投資先の実務者でも混乱されている方がいます。例として財務会計(及び財務会計システム)では売上の粒度は細かい必要はありません。小売業で日別・ブランド別に売上が立っていたとしても、財務会計では極端な話、月の合計で一本仕訳を起こせばよいのです。日別売上やブランド別、製品別の売上情報は管理会計に属する領域であり、財務会計の外側で明細が取れれば、財務会計では上記の通りまとめて計上で事足ります。実務的に難しいのは、売上先の管理や売掛金の消込を財務会計システムの中で行ってしまっている例が多いからです。そのため、財務と管理がごっちゃになってしまうのです。
    ② 両者の相反関係
    財務会計はできるだけ仕訳を少なくすれば決算は早くしまりますが、管理会計は細かくすればするほど解像度が高まり、具体的な施策につながるため両者は利益相反の関係にあると言えます。
    また財務会計は最終的に株主や金融機関など外部への報告数値となりますので正確性(対象期間、段階利益)が求められますが、管理会計は「経営の判断のために必要な情報」であるため、ある程度の割り切りのもとトレンド変化(例:前年比)や横比較(例:店舗間、ブランド間等)ができる数値の集計が必要となります。

    (ウ) 決算の早期化
    ① EXITを見据えた月次決算スケジュール
    投資規模にもよりますが、一定程度の規模の投資案件であればIPOもしくは上場企業への売却がファンドのEXITの基本戦略となります。
    これはグループ連結の月次決算を四半期ごとに45日で市場に開示する前提で、決算スケジュールを早期化する必要があるということを意味します。
    しかもこの日程に間に合うよう、連結や国際会計基準へのコンバージョン、注記情報、開示資料の作成に加えて監査法人からのお墨付き(監査意見書)の取得までを行う必要があります。
    ② 実務処理能力
    投資先企業の準備状況にもよりますが、非上場の会社では単体ベースの決算を締めるのがやっとで、それ以降の作業は全くしていない例が多いです。しかも支払いを間違わないことを優先するために、月次決算を翌々月まで締めないという例もあります。
    ファンドの担当者ではこの作業をどのように早めるのか、どこにリソースを追加すべきなのか、そのために処理をどのように変えるのかは皆目見当がつきません。これらの実態把握もプロジェクトのカバーする領域の一つです。
    ③ 将来の業務改善を見据えて
    最近では会計系ファームの担当者でも「具体的に」どのように変化させていけばよいのか、わからない人も増えました。特に大手と言われるファームでは会計士の資格を持っていても、具体的に仕訳を起こしたことがない若手もたくさんいます。CFOはいずれ早期化を主導していかなければならないわけですから、このプロジェクトでより実務に近い処理を把握し、改善の方向性をイメージしておくことはとても重要です。


    ― 3. ファンドの求める物と実務との調整
    (ア) ファンドが求める管理粒度
    プロジェクトを進めていく中で、ファンドがどのようなレベル感を期待しているのかを探って調整していくわけですが、基本的にファンドは改善プランの実効性を見えるようにしたいものです。自分たちがバリューアップできると示すことが、ソーシング(新たな投資先候補の探索)やファンドレイズ(機関投資家の資金集め)へのアピール材料になるからです。
    よってファンドは財務会計では必要のないブランド別・製品別などの詳細情報を見えるようにしたいニーズを持っています。ブランド別・製品別の「営業利益」やチャネル(店舗・EC・卸等)別・店舗別の「営業利益」を見たいというニーズは分からないでもないですが、細かくすればするほど「共通費の配賦」という問題がでてきて、時系列比較の意味がない数値を作ることになります。

    ① 悪影響の具体例
    AとBという商品・店舗がひとつずつある例で説明しましょう。店舗経費はそれぞれ発生した費用が把握できている(直課可能)。一方、本部人員は両店舗の仕事をやっているため、(工数管理をやればできなくはないものの)正確には分解できない。しかたがないので、AとBの売上の比率で案分(配賦)して営業利益を計算する。翌年は前年に比べてA商品は売り上げ横ばいだったが、B商品は売り上げが倍増した。前年と同じ考え方で営業利益を出すと、Bに多く配賦され、Aの売上実態が全く変わっていないのに、配賦が減った分営業利益ベースでは改善したように見え、BよりAの方が良い製品であるという間違った判断をしてしまうことになるのです。
    ② 概念の整理
    解像度を上げることは良いことですが、CFOはファンドの言うままにモデルをくみ上げる癖が強いファームを、うまくコントロールして、ファームが抜けた後も事業判断に使える数値を計算する成果物を作らせなければなりません。このあたりのバランスは難しいところですが、ポイントは現場が理解して、行動をかえることができることと考えています。最も詳細なデータはトランザクション(例:日々の製品別・店舗別売上)データがあり、これらは現場が日々確認して、手触り感があるものです。これらを積み上げることで大きなトレンドや変化点を実感してもらうことは事業判断に使えると言ってよいでしょう。一方で現場がみていないブランド別利益率などは慎重に検討が必要です。上記の例では、店舗別の経費は取れるが、共通費は工数分解ができないため、正確な経費が計算できないことをファンドに理解してもらい、粗利ベースの比較モデルとするか、直課できる部分のみの比較モデルとするか、はたまた、共通費の売上に対する比率を決めて売上から計算するモデルにするかなど、いくつかのパターンがありえます。ファンドに間違った判断をさせないために、かつ、実務担当者がデータ更新を継続していけるようなモデルにするのはCFOの腕の見せ所と言ってよいでしょう。
    私自身はファンドの求める粒度が意味があるものであれば、ファームがいる間にワークシートを作ってもらい、かつ、自分でも更新作業を行っています。逆に意味がないと感じた物は、その理由を伝えたうえで理解を得る努力をし、それでも要求された場合は、その目的を確認、シンプルなロジックを提案・合意をしたうえで数値を作ってきました。

    (イ) ファンドが求めるスピード感
    ① ゴールと実現スピードイメージ
    ファンドは常に最終ゴールから逆算で今の状況を見ています。上記にもお示しした通り、最終ゴールは四半期決算・45日開示となります。このゴールにどのように近づくかですが、実績が早く締まればその分改善策を打つ時間が多く取れることになります。
    ファンドはROI(投資収益率:Return On Investment)はもとより、IRR(内部収益率:Internal Rate of Return)でも同業他社比較されます。よって「なるべく早く実現する」ということを常に意識しています。
    決算早期化についても同様で、遅くとも6か月以内に(はやければ3か月以内)「月次決算が翌月半ばには報告される状態」を実現してほしいと思っておいた方が良いでしょう。
    これはどういうことかというと、数値の精度は一定程度の水準を保ちながら、2~5回程度のトライアルで月次決算作業の短縮化を実現しなければならない、ということです。最初の月から仮説をもってトライアルしていく重要性がご理解いただけるかと思います。
    ② 実務作業者への働きかけ
    とはいえ、CFOが全ての作業を一人で、しかも初月から実施できるわけではありませんし、そういう役割でもありません。経理財務は記帳だけでなく回収・支払等の資金移動についても、最後の砦となります。実務を壊さないように、かつ、もともと保守的な人が多い経理財務部門の人たちの業務を改善していくためには、変化に向かってチャレンジしてもらう必要があり、変化を的確に指示するとともに、受け入れてもらうためにも初回で触れた「人間性」(スキル・知見の前に投資先の社員に受け入れられること)」が必要となってくるのです。

    (ウ) 実務とのすり合わせの勘所
    実際にすり合わせするにあたって、どの程度の水準を目指すかは私自身も毎回悩みます。ご想像の通り、ファンド及び投資先の置かれている状況によって、正解はありません。以下に述べることはあくまで個人の意見ですので、参考にしていただき、ご自身の例に合わせて調整いただけば幸いです。

    ① ファンドへの説明
    まず、ファンドとは粒度や時間軸について、ゴールイメージを共有していること、目指そうとしていることを伝えます。その前提で、投資先の現状を伝えベストエフォートでゴールに近づくよう、実務を変革していくことを伝えています。
    くわえて、少しずつでよいので毎月進化していく様を見せるようにしました。
    たとえば初月は一部門・一事業のPLを例に、主要科目の計上実態(例:月ズレになっているとか、共通費で計上されているため直課されていない等)を説明。翌月は直課されている費用と配賦すべき金額のボリューム感を説明し、直課するために業務処理を変更しなければならないのか、変更した場合には工数が増えて、早期化の阻害要因になる等をインプット。その次の月は、数か月の傾向を見せて、売上の比率で試算すれば大きなずれは生じないことを検証した結果ことなどを説明というように、部分から全体に広げる場合もありますし、逆に全体の費用構成から説明して、取り組む科目を最初に絞った時もありました。
    ② 担当者への働きかけ
    担当者には「実務が一番重要で、レポートのために実務を壊したら元も子もない」ということを伝えるとともに、「目指すゴールは高く、少しずつでもレベルを上げていかなければならない」ということをはっきり宣言しています。
    その際、これを機に経理財務担当者が「直したくても事業側に受け入れてもらえなかったこと」「改善したくても手を付けられなかったこと」を一緒に改善していこう、というメッセージを発信したうえで、実際に自身が泥をかぶることをやって見せています。
    いつも通用するかどうかは分かりませんが、泥臭い例をご紹介して本稿を終わりにしたいと思います。
    「現場が経費精算や支払依頼を期日通り持ってこない、言っても変えられない」といった経理部員のあきらめの声がありました。これに対して「期日に間に合わなかった提出は『全てCFOが状況を確認したうえで、可否判断をするので、部屋に持ってくるよう』にということを全社に通知するように」と指示をしました。
    売上が数百億円を超える会社で、宣言通りすべてをチェックするのは正直大変でしたが(途中で記録をするのをあきらめるくらいのボリュームで、正確な件数は覚えていないのですが、初月は500件は超えていたと思います)、このことで経理の担当者の信頼を得られたことは今となっては良い思い出です。



    次回は中期事業計画の立案・モニタリングについてご紹介したいと思います。

    ――――――――――――――――――――――――――――――

    【簡単1分】💻無料転職支援サービスはこちら

    ――――――――――――――――――――――――――――――

    ※ご意見・ご感想、筆者へのご連絡についてはお問合せフォームまでご連絡ください。
  • 【第4回】中期経営計画の立案とモニタリング

    ― 1.  中期経営計画(以下、中計)とは
    実際の立案作業の前に多少、教科書的な確認をしたいと思います。PEファンドの投資先の場合、本質的な内容とギャップが生まれやすい一方、CFOはあくまで会社の永続的成長をリードする立場であると考えるからです。

    (1) 中計の本質

    世の中に中計という言葉は飛び交っていますが、中計とは何を決めるべきものなのでしょうか?会社によって中計の位置づけ・使用用途は異なるので正解はありませんが、CFOとして「本質的」に中計で決めるべきことは理解をしたうえで、自社の現在の置かれた状況で、どこに力点を置くかのイメージは持っておくことが必要です。

    (2) グランドデザイン

    私個人の意見となりますが、中計とは
    ① 単年度では変えることが難しい「事業構造」を
    ② 2~3年という「一定の期間」をかけて変革するための
    計画だと思っています。よって新規事業立ち上げを含む「事業」および(必要であれば)「インフラ」に、「人」「物」「金」をどう投資していくかのグランドデザインが中計の本質と考えています。PL/BS/CFはそのグランドデザインを表現する「一面」でしかなく、そこでは表現できない情報(例:事業ポートフォリオ、投資の明細、人員配置等)をまとめることが重要と認識しています。


    ― 2. ファンド投資先における中計の位置づけ
    PEファンドの投資先は、投資タイミングと投資先の決算時期にもよりますが一定の期間経過後に、「投資先主体で中期経営計画の立案・取締役会決議」が求められます。私の数少ない経験ですが、このプロセスはどのファンドでも行われました。各ファンドとも明言はしなかったですが、次のような背景があると想像しています。

    (1) 投資先の計画

    当然ですが実際に事業活動を行うのは投資先のマネジメントから現場になります。「ファンドの指示である」と言って放置されないよう、会社の決議機関で「正式に」決議をすることで、正式化したい狙いがあると考えられます。

    (2) 目標値の引き上げ

    後述する通り、ファンドは投資時に計画をいくつか持っています。ファンドとしては自らの計画を上回った数値を決議してもらえば、それだけ投資計画との比較で余裕ができます。

    (3) ファンド内外報告目的

    ファンドは機関投資家に対して説明責任を持っています。またグローバルファンドでは、本国のチームに対しても定期的に報告を行っています。そのため両社に「当初、自分たちが立てた計画だったが、投資先マネジメントが自ら作成して決議された」と言うためにも必要な手続きと言えます。
    このようなある意味「政治的な」狙いがファンド側にあるため、ファンド主導では投資時計画(主にPLとCF)を常に意識して立案していくことになり、本質的な手続き(グランドデザインの検討)が後回しになる傾向があるのです。
    また、(これは私の偏見かもしれませんが)ファンド担当者はそもそも投資先に対して「人はたいてい、保守的に計画を作ってくるもの」という考えを持っている人が過半のように思います。そのため、前回触れたような「財務数値の把握のためのプロジェクト」の延長として、外部専門家をいれて中計立案作業を行うことが多いです。
    CFOはこれらの背景を理解しながら、「最終的に」グランドデザインを明確化することを目指していただきたいと思います。「最終的に」と書いたのは、本来グランドデザインの議論→計数化があるべき流れですが、ファンドとの兼ね合いで、計数の検討→グランドデザインに関係する内容の議論という流れになることが多いためです。


    ― 3.  立案作業の前に内容の再確認
    プロジェクトに入る前に、作業領域(スコープ)と意味合いについて確認しておく必要があります。

    (1) 投資時のプロジェクション

    ファンドが投資する際にはいくつかのパターンでリターンの検証を行います。ファンドは下記のBase Caseを超え、Upside Caseに近づけるもしくは超過することを意識してプロジェクトに入るものとご理解ください。
    ① Bank Case :
    銀行提出用の一番手堅いケース。このケースに基づき財務コベナンツが交渉されます。
    ② Base Case :
    ファンドの投資委員会で達成可能なケースとして議論される数値。この数値はファンドにもよりますが、ファンド内部的には「絶対に死守すべき」数値という位置づけであることが多いと思われます。
    ③ Upside Case :
    投資委員会で「各種施策がうまくいった場合」に達成できるケースとして議論される数値。

    (2) ファンドの計画の内容

    ① 計数面
    計数面では財務コベナンツ(例:投資制限枠やDebt service(債務返済:元本返済+利息の支払い)をFCFがどの程度カバーしているかを見るDSCR(Debt service coverage ratio))が設定されていることがほとんどですので、財務三表(PL/BS/CF)の作成は必須です。
    ② 施策面
    また、第一回でも触れた通りファンドでは仮説ベースの「100日プラン」のそれぞれの施策効果を計数面に取り込んでいます。
    中計では施策を推進し、効果を測定するために、できるだけ計測可能なKPI(Key Performance Indicator:重要業績評価指標)やKGI(Key Goal Indicator:重要目標達成指標)を設定することが求められます。


    ― 4.   立案の実務
    実際の実務作業はどのように進むのでしょうか。当然会社の状況(例:事業側に利益まで作ることができる人材が配置されているか、そうでないか等)によって柔軟に進めることは言うまでもありませんが、ポイントは事業側(特に実行部隊)に「自分たちも参加して作った計画である」ということを体感・納得してもらうコミュニケーションをとることと考えています。


    (1) 外部専門家の活用

    中計策定の前に財務見える化プロジェクトで外部専門家(主に会計系コンサルティングファーム:以下ファーム)を使った場合、ほとんどの場合はそのままそのファームに、中計立案プロジェクトとして支援させることがほとんどです。
    ここで注意すべき点として、次の二点があります。
    ① 担当者の変更
    同じファーム・パートナーであっても領域が微妙に異なることから担当マネージャーが変更になる場合があります。大きなファームほどこの変更は発生しやすいように思います。この場合、前回同様担当マネージャーの力量の見極めが必要です。加えてジュニアスタッフはファーム側のルールで一定期間たつと変更になるので、同じファームであっても担当メンバーはほとんど変更になる、ということも発生します。
    この場合、「過去提供したデータで得た知見、成果物の共有」と「連続性」をプロジェクト中にチェックする必要があります。
    ② ファームの変更
    あまり発生しないことですが、ファームそのものが変更となる場合があります。ファンドが期待するパフォーマンスをあげられなかった場合や、中計でグランドデザインを決めることが本質であるため、会計系ではなくビジネス系コンサルにスイッチする場合が該当します。
    この場合、過去のプロジェクトの成果物との連続性は期待できないため、実際のモニタリングを意識しながら、作業コントロールする必要があります。

    (2) 対象スコープとその粒度の確認

    次に策定するスコープと粒度をファンドと握る必要があります。この部分はファームの投入リソース(および報酬額)ともかかわってきますので、ファンドとともにファームと議論をしたうえで、ファームに体制・プロジェクト期間等を提案させることになります。
    施策項目については、プロジェクト中に追加で設定したい項目が出てくるのがほとんどであるのですが、粒度については最初に握っておきたいところです。
    ごくごく一部ですが下記に例示します。
    ① KPIやKGI設定の粒度
    組織を単位とするのか、それともさらに細かいブランド別・店舗別とするのか
    ② 段階利益の粒度
    売上と粗利益とするのか、それとも営業利益や償却費控除前営業利益(EBITDA)までとするのか
    ③ 数値の根拠
    会計データより入手できる数値とするのか、基幹システムから入手できる数値とするのか、はたまた別途データを収集する必要があるのか

    (3) 実際の数値の作り込み

    ① PL
    先述した通り、事業側に「自分たちが作った計画」と思ってもらうためには、各事業担当者との間で数度のやり取りが必要となります。組織の設定にもよりますが、機能別(販売・生産・管理等の区分け)組織であれば、担当領域に関連する数値の中期目標を設定してもらうことになります。これは叩き台をCFO(含むファーム)が作った上で、事業側に提示する場合と、事業側にそもそも数値がありその数値を叩き台とする場合の両方があります。事業別組織であれば、売上から費用を含めた利益計画まで事業側と作り込むことになるでしょう。
    ② BSおよびCF
    PLは作り込むことができても、CFまで事業側で作り込むことは難しい場合が多いと言わざるを得ません。世の中にMBA関連のファイナンスのハウツー本が出回るようになりましたが、やはりBSおよびCFはハードルが高いということもありますし、そもそも会計データが社内で公開されていない場合もあります。
    逆にいえば、この領域はCFOの独壇場でありどのようにファームを使ってモデル化するかは自由に決められます。
    注意しなければならないことは、ファームが万能ではないということです。こと計画を作るだけならばシンプルに過去の傾向値(主にPLの科目との関係性。例:売上回転期間)を計数化してBS科目を作り、CF化するので手間を忘ればジュニアなスタッフでも作ることができます。大抵はこの時点でファームは「作業が完了した」と考えます。
    CFOは予実管理していく立場ですので、計画と実績を比較できるモデル、加えて売上見込みから将来CFを簡便的に作るモデルをファームに作らせなければなりません。これは実績反映が容易であること、係数の見直しができることを可能にしながら一定程度の精度を求めることを意味します。
    こう書くと少し、尻込みする方もいらっしゃるかもしれませんが、安心して下さい。私の経験上、計画時にファンドが気にするのは「投資額の見込みがどうか」「その結果としてのキャッシュおよびネットデッドがどの程度か」「コベナンツにどの程度余力があるか」くらいで、詳細科目が議論になることはありませんでした。加えて、実績の差異分析の詳細を求められたことはありません。それだけBSおよびCFの作成は専門的、ということかもしれません。

    (4) 正式化手続き

    すでにご説明した通り、これら数値は施策を含めて取締役会で議論・決議される必要があります。ファンドの投資先の場合、取締役会の過半数はファンド関係者であることがほとんどですが、中には取締役会にのみ参加するパートナークラスが含まれているものです。そのため正式決議の前に次のようなステップを踏むようファンドの担当者へ確認する必要があります。
    ① ファンド内での事前の説明
    通常ファンドの現場チームとファンドのパートナークラス(外資系の場合は本国スタッフ)との間で定期的に状況報告がされています。中計も立案当初より報告されている前提ですが、最終の決議の前に事前にインプットしてもらう必要があります。
    ② その際の議論・懸念点の確認
    上記の説明時に、どのような議論がなされたのか、またどのような懸念点が指摘されたのかはスムーズな決議のために必要です。
    ③ それら議論を踏まえた対応策の検討・記述
    当然ですが、上記の指摘に対して中計上、どの程度対応策を検討・記述するのかは「正式書類として保存される」資料であるため慎重に検討が必要です。
    不思議に思われるかもしれませんが、この時点でファンドの担当者と会社側関係者は策定当初の「目標を引き上げたいファンド」と「一定程度実現性の高い計画としたいした会社側」との利益相反関係から、協力関係に変化します。なぜならファンドの担当者もファンドの中ではパートナークラスの部下であり、会社と一緒に作ってきた中計を認めてもらう必要があるからです。
    ④ 取締役会での正式決議
    ここまでくればあとは決議をするのみです。執行側への事前説明は会社によって差異はあるでしょうが、社長とCFOは事前に共有をし、意見の一致をもって臨みたいものです。


    ― 5.  モニタリング
    無事、取締役会にて決議された中計ですが、中計単体でモニタリングを行うということは私の経験上ありません。中計の初年度が単年度計画の数値として、詳細実行計画と(経費を含む)予算に落とし込まれることになります。この作業中に「振り返り」「対応策の再検討」が行われることで、実質的なモニタリングがなされている、ということかと思っています。
    最近、中計を毎年ローリング(一定期間の計画を毎年作成しなおす方式)する企業が多いとも言われます。確かにローリング方式には環境変化を適時に反映することができるメリットがあります。ただ、ローリング方式は単年度計画とつながることから、PLの議論が主となりがちです。また、ファンドははやければ3年、長くても5年程度でEXITをめざしています。よって時間のかかる施策は、そもそもファンドの時間軸とあいません。だからこそCFOは「本質」を意識しながら中計策定をリードしていく必要があると思うのです。



    次回は予実管理、内部統制構築についてご紹介したいと思います。

    ――――――――――――――――――――――――――――――

    【簡単1分】💻無料転職支援サービスはこちら

    ――――――――――――――――――――――――――――――

    ※ご意見・ご感想、筆者へのご連絡についてはお問合せフォームまでご連絡ください。
  • 【第5回】単年度経営計画立案と予実管理

    ― 1.  単年度経営計画(以下、単年度計画)の位置づけ
    世の中では「予実管理」「予算管理」という、似たような言葉が出回っています。ネットで検索すると解説するページがたくさん出てくることから、学習ニーズがあるということかと思いますが、より実務的な注意点を記述しておきたいと思います。

    (ア) 対象会社にとっての言葉の意味

    参画した対象会社にとって「予算」というのが何を指すのか、をまず確認することが必要です。そんな当たり前のこと、と思われるかもしれませんが、人間は自分が見たいものしか見えず、知っている意味で言葉を解釈する生き物です。
    ある会社にとっては「予算」というのは「経費予算」のことであり計画上の売上は「売上計画」かもしれません。また他の会社では売上・経費から構成される利益計画を「予算」と呼んでいるかもしれません。企業合併・M&Aでは最初の作業は「社内用語の辞書」を作ることとも言われます。 特にファンドから送り込まれるCFOはファンドの言葉と対象会社の言葉をすり合わせる必要もあります。
    具体的には、投資先の財務経理部長・経営企画室長とコミュニケーションを取ることは勿論、社内ネットワークを構築していき管理系・現場双方と日々確認していく作業を続けることになります。
    CFOは言葉の定義にこだわってほしいと思います。

    (イ) 重要な項目・科目

    CFOは全体の数値をまとめ上げ、必要に応じてアラームを出すポジションですので、下記項目については言葉の定義や状況を明確にして、計画立案に臨みたいところです。
    ① 主要科目と構成要素
    1. 売上:製品・サービスグループごとの定価×個数、値引き見込み、差し引きの売上額
    2. 原価:定価ベースの仕入原価(標準原価的位置づけ)、値引きを加味した売上原価。仕入・製造による原価率の違いや、生産国による為替影響
    3. 固定費・変動費:売上に連動する科目はなにか、逆に固定的に発生する科目は何か。固定費は売上以外に連動する項目はあるか
      例)人件費:一人当たり単価(法定福利費を含むか否か)×人数
    ② 販売チャネル
    1. チャネルの定義:直営・代理店等の主体別、店舗・EC・卸等ロケーション別
    2. 取引条件:チャネル別の条件(値引率や掛け率)や販売時期の傾向

    ③ 仕入・生産方式:完成品仕入か、自社生産か
    ④ OPEX・CAPEX:費用項目(例:レンタル費用)か、資産項目(例:建物付属設備)か
    ⑤ 為替影響:想定している為替レートはいくらか、利益感応度はどのくらいか

    ― 2. 単年度計画(売上計画/経費予算計画/投資及び資金計画)の立案
    (ア) 計画の粒度
    中期計画の初年度として大きな水準感(売上・利益)は既に立案済ですので、計画立案はその水準を達成するための詳細計画を立てることが主作業となります。そのため、実績が出たのちに、何が予定通りいかなかったのか、改善のためにどのような手を打つのかを検討できる粒度で立案することが必要です。

    (イ) CFOの役割

    企業活動は成長することで、利益をあげつつ、ステークホルダーにメリットを還元することができます。成熟度により成長スピードは変わるものの、基本的には前年よりも成長することがスタートとなります。
    そのために毎年新たなチャレンジを計画・実行していくわけですが、予定通りいくことはほとんどない、と腹をくくっておいた方がよいと考えています。
    これは「計画が未達でもよい」という意味ではありません。チャレンジがうまくいかない場合でも、各事業・組織に「最後まで計画達成に向けた活動を」してもらうのがCFOのミッションであり、そのためにも各事業・組織責任者との間で計画の分解項目を共有し、期中に挽回策の相談相手になれる必要があります。
    具体的には、計画と実績を定量的に比較した上で現場が気づいていない場合は予実差異を示して気づかせる、現場から打開策案を引き出す、現場に打開策が無い場合は素人発想と断ったうえでいくつかの方向性を示す事になります。

    (ウ) 立案の順序

    どのような事業であっても、利益を運んでくるのは製品・サービスを買ってくれるお客様です。販売価格の決定は経営の根幹である、という言葉もあります。私の経験してきた卑近な例ですが、すべての企業で単年度計画は次のようなステップで作られてきました。
    ① 売上(販売)計画
    ② 原価計画
    ③ 経費計画および投資計画
    ④ PLの作成
    ⑤ BS/CFの作成
    実際には、PLに組み上げると利益が足りない→売上目標を持ち上げる、もしくは経費を削減する等、行きつ戻りつしながらの議論・確定となるのですが、大まかな流れはほぼこの通りと言ってよいでしょう。

    (エ) 立案主体
    立案の主体は会社の組織設計によって変わってきます。
    ① 事業本部制
    会社組織がブランドや製品の固まり等、売上・経費・利益までを事業責任者のもとでミッションを持っている垂直組織の場合、上記(ウ)の①から④までを事業本部に立案してもらうになります。
    この場合、販売と生産の整合・調整を事業本部長(もしくはそのスタッフ)に行っていただくことになり、その調整でCFO以下、企画スタッフが頭を悩ますことは少ないです。一方、計画上のバッファや、リスクが事業内部で丸められてしまうため、どこまでの余裕度・リスクがあるかをあぶり出す必要があり、ここでは事業部スタッフと企画スタッフの信頼関係が重要となります。
    ② 機能組織制
    組織が営業本部、生産本部、商品開発本部等の機能別の水平組織の場合は、上記(ウ)の①を営業、②を生産、③を管理部門も含む全部署が立案・提出することになります。
    この場合は事業本部制のメリット・デメリットが入れ替わることになりますが、事業本部制よりも慎重なすり合わせが必要となります。ご想像のとおり、機能別組織は機能間で利益が相反することが多く、組織間の調整がお互いの「解釈」で調整され、積み上げると不整合になっている例がほとんどです。この場合、不整合するものだと割り切って調整する必要 があります。
    調整する際のポイントとしては、まず相手(例:営業本部)の言っている事を傾聴し、共感する。一方反対再度のポジションの人たち(例:生産本部)の主張について、営業本部の人たちと確認する。相互に立場が有り、主張が有ることを確認したうえで、全体最適のためにどうすれば良いかを問いかける。この段階で歩み寄りが無い場合は「自分の責任である程度の割り切りで数値をまとめ上げさせて欲しい」と伝え、理解頂くという流れになります。
    ③ 注意いただきたいこと
    いずれの組織体制にもメリット・デメリットがあります。社内調整でご注意いただきたい点は、その作業が付加価値の高い仕事かどうかをCFOは見極めていただきたいと思います。具体例をあげましょう。営業本部は「製品」ではなく、「顧客単位」で計画を立案、生産本部は「製品単位(原価低減計画立案のため、できるだけ細かい品番別に)」で計画数値が必要。ここでまじめな人がやりがちなのが、顧客×製品のマトリックスで数値を固めに行くことです。教科書的には正しいアプローチで、やり切っている会社もあると思います。ただ、計画段階できれいにすり合わせをすることが、本当に付加価値の高い仕事かよく考える必要があります。新規の顧客開拓を営業本部が織り込んでいる場合、どこまでいっても想定値にしかなりません。社内の調整に労力を割くのか、それともその新規顧客を開拓するための戦略を練らせる方が良いのか、CFOは自社の置かれている状況と全体を俯瞰・必要に応じて現場作業を変革する気持ちを忘れないで頂きたいと思います。

    (オ) 全体整合
    立案主体がどうであれ、CFOは全体をまとめる責任者ですので、積み上げていく過程で下記の点について、理解をしつつ整合させていく必要があります。
    ① 不透明部分の把握・調整
    1. 計画値に実行性のない数値が含まれていないか。含まれている場合の打ち手を考えているかどうか
    2. 部署間での不整合はないか。不整合があった場合、どちらの数値を採用すべきか
    ② 予算精度の向上
    1. 費用面・投資面で具体的な投資対効果を設定しているか、具体的な目標数値は何か(売上や、削減工数等)
    2. スケジュールが遅れる可能性がある場合の前工程は何か、どのタイミングで遅延が分かるか
    3. 施策の責任者はだれか
    ご想像のとおり、計画は実績の延長ではあるものの、立案時点ではわかる範囲で未来を予測して作り上げるものです。一定の不透明部分や精度の甘い部分があることは許容する必要があります。
    一方で、ファンド投資先のCFOは一定程度の実績の精度を求められます。予実差異が発生したとしても、なぜそうなったのかを説明できる程度には、計画立案時に理解を深めておくべきかとおもいます。

    (カ) 正式化
    中期計画の時の繰り返しとなりますが、単年度計画の正式化は会社の取締役会での決議が必要となります。決議の前の事前準備・根回しはほとんど同じと考えていただいて結構です。
    一つ違いがあるとすると、単年度経営計画は月次で予実差異を追っかける数値となりますので、決議時点で下記のような項目については資料化し、説明したうえで承認を得ておいた方が良いでしょう。
    ① 前提となる条件
        例:既存店舗数と新規出店店舗数、想定の為替水準等
    新たなチャレンジとなる項目
        例:新規顧客数や、その売上金額、実現可能性等
    ③ 前年から増加する科目とその狙い
        例:広告宣伝費なら、何を目的に(認知度向上や拡販等)増加し、どの程度前にストップ
       させられるか等


    ― 3. 予実管理
    決議の後は、毎月月次の実績と予算を科目別・部署別に比較していくことになります。ここも大きく分けて2つの領域・粒度があると考えます。

    (ア) 売上及び原価
    売上はやはり粒度を細かく分析が必要です。店舗別・ブランド別・製品別など業種によって異なると思いますが、日々の売上が積み重なって月次売上があるのはどの会社でも同じです。売上の傾向の変化を受けて、いかに早く打ち手を打てるか、そのスピード感の違いが企業の強弱を生んでいるように思います。
    また原価についても同様です。原価はすぐに効果が出る物でないからこそ、早く手を打つ必要があります。商品構成の変化か(原価率の良いものと悪いものの構成が変わったのか)、個別商品の値引き率に変化があったのか、それとも生産現場の歩留まりが変わったのか、分析自体は販売現場・生産現場に行ってもらうとしても、CFOは変化の構成要素は理解しておき、適切な分析を現場に依頼する必要があります。

    (イ) 経費
    経費分析は主に科目別に大きな金額から差異を把握したうえで、どの部署が予算を超過しているのか、その理由は何かというようにドリルダウン方式で差異を分析していくことになります。
    その際、予算が低すぎたのか、それとも時期が前倒しになったのか、そもそも予算外の突発的な費用なのか、その場合、削減できるほかの費用はあるかが主要な問いかけになるでしょう。
    大きく費用が超過した場合は細かく分析していくべきですが、売上に対する比率に大きな乖離がない場合は、私の経験ではいったんは各部署の自主性に任せ、翌月以降挽回させる方向で管理する方がうまくいったように思います。
    逆に、売り上げが落ちているにもかかわらず、予算の枠内として費用が使われている場合は、要注意です。使ってしまった費用を取り戻すには売上を上げるしかありません。特に、売上に連動する傾向の強い変動費の売上比率が悪化した場合は、構造変化が起きているということですので、急ぎ分析が必要となります。

    私の経験上、単年度計画がある程度、合理的に作成されていれば、月次の予実差異が発生しても分析は比較的容易です。ただ、計画そのものがストレッチしたものだと、挽回策の立案・実行が難しくなります。ファンドの投資先では概ね計画のストレッチが求められることが多いため (特に投資初年度もしくは次期計画立案時、成長鈍化した場合や外部環境が厳しくなった場合等)、気苦労は多いのですが、ある程度腹をくくれれば(自分以上に成果が上げられる人がいるなら、すぐにでもバトンを渡すという心づもり)、一喜一憂しなくても済みますし、その状況を楽しむ余裕も生まれるというものです。この境地にたどり着くにはある程度の修羅場はくぐる必要があるのですが(笑)


    次回は内部統制整備を含む上場準備、M&AによるExit準備についてご紹介したいと思います。

    ――――――――――――――――――――――――――――――

    【簡単1分】💻無料転職支援サービスはこちら

    ――――――――――――――――――――――――――――――

    ※ご意見・ご感想、筆者へのご連絡についてはお問合せフォームまでご連絡ください。

  • 【第6回】内部統制整備を含む上場準備、M&AによるExit準備

    ― 1.  Exitについて
    PEファンドの投資先である以上、Exit(株主変更)は必ずやってきます。想定通りいかないことは往々にしてありますが、ファンドがある意味、信用商売(トラックレコードを残さないと、次のファンドレイズができない)である以上、投資損益は別にして、必ず次の株主へバトンを渡すことになります。
    Exit先は大別して下記の2種類(相手先の種類まで考えると3種類)となります。


    (ア) 上場(IPO(Initial Public Offering)による公開化(IPO:機関投資家を含む不特定多数の株主へのExit)


    (イ) M&AによるExit

    ① Strategic Buyerと呼ばれる事業会社への売却
    ② Financial Buyerと呼ばれるファンドへの売却(業界的にはsecondary )
    Exit先が変わればExitの際のDD(Due Diligence)や社内対応も変わってくることはご想像いただけると思います。それぞれについて特徴を簡単にお示ししたいと思います。

    (ウ) IPOの場合
    上場によるExitではM&Aと大きく異なる点があります。上場する市場によって違いはありますが、私は次の点が大きく異なると思っています。
    ①「市場が要求する上場基準」を満たさなければならないこと
    基準については広く公開されているものがありますので詳細は避けますが、非公開会社では優先度が低い、「内部統制制度の整備・運用」が単純ではあるものの、社内理解を得にくい領域だと感じています。なぜなら関係する部署が多い一方、さじ加減が難しい領域だからです。
    ②証券会社(公開引受部や販売チーム)や証券代行等、外部専門業者との連携が必要であること
    IPOとは広く世の中に株式を買ってもらう必要がある、ということです。そのためには社内体制の整備(公開引受チーム)や、株価形成のためにエクイティストーリー(将来計画:後述)をもって機関投資家とのミーティング(販売チーム)、上場後の株主名簿管理(信託銀行)の整備等、多方面と協調しながら準備を進める必要があります。
    ③エクイティストーリーの蓋然性を作っていく必要があること
    投資家はこのエクイティストーリーをもって、適正な株価や購入数を決定するわけですが、この計画が夢物語ではないか直近の実績を踏まえながら検証します。また、上場後はこの数値が公開された情報となり、毎期株主から追っかけられることになります。このため、株価をできるだけ高くするためのチャレンジングな数値である一方、蓋然性が高い数値である必要があるのです。

    (エ) 事業会社が買い手となる場合
    事業会社でも買い手が上場企業なのか、非上場企業なのかで若干力点が変わるため、補足したいと思います。
    ① 上場企業の場合
    相手先が上場企業の場合は、連結対象となるのか持分法適用会社になるのかで多少の違いはあるものの、上場企業の適時開示に耐えうる決算体制(例:実働5日程度での月次決算締め)や、コンプライアンス体制が求められます。
    一方、上場企業が買収する(相応の資金力が必要)ということは被買収先であるCFOの所属企業は一定程度の事業規模を持っているのが通例です。
    そのため、直接取引(例:被買収企業が買収企業の取引先である)がない場合は、ある程度の自主性を担保しながら、シナジーを追求していくことになります。
    そのため事業運営は当面変えず、という方針が取られることが多いように思います。ただ、CFOは経理・資金を押さえているポジションであることから、ファンドのExitと同時に退任し、買収先から新たなCFOが派遣される場合がほとんどかと思います。
    ② 非上場企業が買い手となる場合
    相手先が非上場企業の場合は(一部の巨大非公開会社を除き)買収の目的は千差万別と言ってよいでしょう。私の卑近な例でいうと、オーナー企業が上場を目指すために事業の成長と領域を広げるために買収した例や、同業他社が、被買収企業の主要顧客の購買窓口を買うために買収した例、上場企業の子会社が、自らのバリューチェーンの一部を買収した例など様々でした
    目的が様々ですので、買収後の向き合い方も異なり、上場企業の買収と同様に自主運営を認められる場合がある一方、トップから派遣し事業運営そのものを大きく変えていく場合の両方があります。

    (オ) ファンドの場合
    ファンドからファンドへの株主変更(直近例:アリナミン製薬株式がブラックストーンからMBKパートナーズへ譲渡)の場合はExit時のDD対応の負担 は大きいですが、Exitにおける体制整備負担はあまりない、というのが個人的な印象です。


    ― 2.そもそも内部統制とは

    一言で内部統制と言ってもいくつかの面があります。特に上場する場合は、広く一般に株主を募ることになるため、そのための法律(金融商品取引法等)があることはご承知のとおりです。

    (ア) 企業として必要な統制
    この領域も大きく二つの領域があります。会社法など法律で必要とされる統制と業績を上げるもしくはコンプライアンス違反を起こさないための統制です。
    ① 法令による統制
    この領域は主に会社法で定められている領域です。株主総会による取締役の選任、取締役同士による相互牽制、債権者保護の手続きや決算公告等々、定められている手続がたくさんあります。余談となりますが、私の友人の弁護士(上場企業の監査役経験や、総会において法務顧問としての議事進行アドバイスなどに従事)曰く、「会社法は本当にややこしく、総会時期になると改めて事務所内で勉強会・復習会をやる」と言っています。丁寧に作られた法律ではあるものの、解釈の幅も一定程度あるということと理解しています。
    企業によっては会社法での統制が後回しになっており、総会議事録や決算公告もやれていない企業がたくさん存在しますし、法令違反の指摘は(私の狭い経験ですが)30年で一件しか見たことはありません。ただ、Exitにおける法務DDで「法令違反」を発見、報告することが目的となるため、当然にこれら会社法での手続きは行う必要があります。
    ② 業績管理・コンプライアンス対応のための統制
    この領域はいわゆる「社内規程」で定めた手続きに基づいて、対応がなされているかという分野になります。規程をどの程度整備するかは会社によってまちまちですが、少なくとも取締役会規程(取締役会で決議・報告すべきことを規定)や就業規則(労基署への提出が必要)、文書管理規程、経理規程、決裁権限規定等は必要と思われます。前回までお話をしてきた経営計画、予実管理も規程の中で定められた手続きで作られるものです。
    世の中にたくさん規程のひな形は出回っていますが、実際の運用まで意識して作られたひな形はほとんどない、というのが私の印象です。具体的な例は後述いたします。

    (イ) 上場時に必要とされる統制
    上場では上記の企業として必要な統制があることはもちろん、ルール通り運用されているか、ということが求められます。加えて上場企業として追加的に必要な統制がいくつかあります。
    ① 企業として必要な統制の水準について
    上場企業ではルールがあり、そのルール通り運用されているかを審査にて確認されます。いかに「ルール違反ではないか」と言われない規程にするか、というのは些末な話ではありますが、重要な準備と考えています。ここで先ほどのひな形の具体的な不足部分を職務分掌規程の例をつかってご説明しましょう。
    出回っている規程ひながたでは「総務部」「経理部」「営業部」というように「名称」で職掌範囲が記述されている例がほとんどです。一方、「組織は戦略に従う」というように、「組織名」は変更となることが多々あります。私の卑近な例では、やっている業務(予算立案)は変わらないまま、「総合企画部」「経営企画室」「予算管理部」「経営計画室」と2年の間にコロコロと名称が変わったことがありました。規程に「組織名」で記述されていると、組織変更のたびに「規程の修正」が必要となります。当該会社では規程上は「経営計画立案担当部署」という表記とし、組織変更決議の際に「当該部署は経営計画立案を担当する」という説明書きで、規程と組織を紐づける運用を行っていました。
    この場合、文書管理規程で職務分掌規程を変更する場合は取締役会決議とする、と規定していた場合は追随しなければ規程違反になりますし、追随するためには事業運営の意思決定に使う時間を、規程の議論に回すことになり、本末転倒となることは容易に想像いただけるかと思います。
    ② 上場企業として追加的に必要な統制
    追加的に必要な統制は次のようなものがあります。
    1. 会計監査人の設置と監査
    厳密には会社法上の大会社(資本金5億円以上、または負債の部の合計が200億円以上)は会計監査人の設置義務があるのですが、ファンドでは大会社でなくとも「任意」での会計監査を投資先に求めるのが通例ですので、この部分の詳細なご説明は省きます。
    一点だけ手続について補足をすると、会計監査人の設置は定款の変更を伴いますので、総会の決議が必要となります。
    2. 内部監査体制
    2000年の金融商品取引法、2006年の新会社法の制定によって大会社と上場企業には「内部統制」が求められるようになりました。しかし、「内部監査体制」を明確に規定する法律はなく、先行している欧米の体制(外部監査人と内部監査人を明確に区分)を参考に、組織化されてきたという歴史的経緯があります。このため組織の位置づけが国際社会のもの(独立取締役を中心とした取締役会もしくは監査委員会の指揮命令下の内部監査)と日本のもの(経営者の直下の内部監査)で微妙に異なるというのが現状です。
    いずれにしても内部監査は管理部門を含む事業執行組織とは完全に独立した組織として設置し、内部監査の責任者は兼務が許されません。このため内部監査体制については次のような困難があり、立上げに比較的時間がかかることが多いように思います。
    (ア) ある程度事業のことが分かり、経営者に直接報告できる責任者を選任すること
    (イ) 審査前までに、「全ての部署」に対して監査を実施した実績が必要
    (ウ) 内部監査基準や監査項目の選定の落としどころが難しいこと
    そもそもの背景より、CFOが直接指揮して内部監査部門を立ち上げることは矛盾があるところですが、制度立ち上げ時にはCFOの補佐は必須です。世の中には内部監査部門の立上げを上場支援として行う会社はいくつもありますが、これら企業の出してきた内部監査基準や項目は、現場実態にそぐいません。
    私の経験では、多店舗展開(数百店舗)を行っている企業において、店舗部門だけでも30を超えるチェック項目があり、当該企業では全く関係のない項目も残っていた例がありました。内部監査は指摘をすることが目的ではなく、現場レベルへ統制に必要な内容を伝達・徹底すること(ひいては現場力の向上による企業価値の増大)が目的である、ということが真の意味で理解されていない例かと思います。
    3. J-SOX対応
    アメリカでのエンロン事件(粉飾決算)をきっかけに成立した米国のサーベンス・オクスリー法(通称SOX法)をフォローする形でJ-SOXは立ちあがっています。
    よってJ-SOXでは内部統制のなかで「財務報告の信頼性に係る内部統制を重点的に」評価することになります。J-SOXそのもので必要な書式等は巷間、枚挙にいとまがないので省略しますが、準備にあたっての注意点をご説明します。
    財務報告に特化した領域となるため、監査法人との連携は必須となります。逆に監査法人はJ-SOXにおいて適切に内部統制が効いていることが確認できれば、監査サンプルの減少や重要性の閾値のUPを行うことができるため、対象会社・監査法人双方にメリットがあります。一方で、統制の証跡が必要となるため、記帳を行う経理だけでなく、売上を計上する営業部等、実務部隊の作業内容・検証方法まで変更する必要がでてくるため、「監査法人が許容できる」レベルと「現場が対応できる」レベルの確認・調整が必要となり、この部分でCFOの業務理解・監査法人との交渉力が試されることになります。
    4. corporate governance code (CGコード)対応
    CGコードは東京証券取引所が要求する上場企業が行う企業統治においてガイドラインとして参照すべき原則・指針を示したものです。よって法的拘束力はないものの、83もの開示項目が決められており、内容によっては(例:経営者の後継育成方針)ファンドが抜けた後、どのように対応していくかをあらかじめ議論しておく必要があります。
    上場市場や企業規模によって、上場時から適用にならない場合もありますが、いずれ対応しなければならないものであり、項目数が多いことにくわえてコードの要求する事項の説明があいまいであることもあるため、CFOとしてははやめに他社開示事例等を眺めておくとよいでしょう。

    ― 3.実際の準備期間
    上場する場合は体制整備等もあることから、目標時期の2から3年前には外部専門家を含むチーム組成がなされ、対応していくことになります。
    一方で、M&Aの場合はファンド主導で相手先や売却価格が検討・交渉され、DD対応を行うCEO、CFOに加えて経営企画・経理のごく限られたメンバー以外の現場には契約締結・クロージング(資金決済)の当日まで発表されません。 社内での情報管理は経験上、いろいろなパターンがありますが、対応チームをプロジェクト化したうえで、①一定程度信頼がおける実務メンバーでDD対応をクローズできそうであれば、社名は伏せて売却交渉のためのDDであることを伝達、②難しい場合は、ファンドからの要請での対応(例:グローバル本部からの税務対応や、さらなる業務改善のための調査等)と伝達、の二パターンになるかと思います。
    CFOはDD対応の陣頭指揮(質問の内容によってはCFO自らが回答素案を作る必要があります)を取ることになるため、比較的早めに知ることにはなるとはいえ、DDが始まる直前というのが私の経験則で、そのため短期間でハードワークが必要となります。 私自身の例でいくと、休日であっても定期的にメールを確認できる体制を整え、担当に確認しないと詳細が分からない質問であっても、必ずその日のうちに何らかの返信を返す(会社側でボールを持たない)ことを2か月程度続けたことがあります。実際に作業する時間は細切れでも、DD対応のことが常に頭を離れず、体力よりも精神的にハードだった記憶があります。それもよい思い出ですが。
    ファンドとも連携を取りながら、スピーディに買主候補に「不安を与えることのなく、かつ、背伸びしすぎない回答」(例:管理部門に人は不足しているが、ノックアウトになるような統制不備はない)を開示していく必要があり、バランス感覚が求められます。

    次回はExit後のCFOの業務・キャリアについて触れたいと思います。

    ――――――――――――――――――――――――――――――

    【簡単1分】💻無料転職支援サービスはこちら

    ――――――――――――――――――――――――――――――

    ※ご意見・ご感想、筆者へのご連絡についてはお問合せフォームまでご連絡ください。


  • 【第7回】Exit後のCFOの業務・キャリア

    Exit後のCFOの業務・キャリアにはご想像のとおり、定型のものがあるわけではありません。この連載の主旨が「プロCFOを目指す方、もしくはチャレンジ中の方の参考になる文章」ということですので、私自身や知人の例を引き合いに、「想像よりは多様なキャリアがある」ということをお伝えできたらと思います。

    ― 1. Exit後の業務について 

    前回も触れた通り、Exitにはいくつかの類型があります。この類型ごとにパターンがあり、その中で対象会社が置かれている状況によって、さらにいくつか変化があると思っていただければと思います。
    Exitの類型は
    (ア) IPO
    (イ) M&A
     ① 事業会社への売却
     ② ファンドへの売却
    の3種類でした。この類型ごとに事例を踏まえながら説明していきます。


    ― 2. IPOの場合

    IPOは一つの山場ではありますが、実際には始まりでしかありません。ご承知のとおり、IPO後は四半期決算を行って開示を行うとともに、投資家との対話(IRミーティングだけでなく、機関投資家との個別のミーティングもあります)を行っていく必要があります。
    事業のビジョンや中長期の戦略については多少、定性的な内容も含みますが、決算数値および見通し(主に単年度の計画を使うことが多い)については定量的な説明・議論がなされます。昨今は投資効率(ROIC)や資金効率(CF)、資本政策(配当方針)についても方針を聞かれることになり、CFOが中心となってIR部署を組成し、対応していくことになります。
    私の知人の例でもファンドからIPOし、しばらくCFOとしてIR対応をされていた方がいらっしゃいます。その方は最終的にCEOになられました。


    ― 3.M&A(事業会社への売却)

    このパターンの場合は、買収した会社の方針・状況によって変化球があります。
    (ア) 買収した会社がトップのみ派遣し、ある程度独立性が担保される場合
    小が大を飲むようなM&Aの場合、買収した会社に派遣できる人材があまりいないというのが通例です。この場合は、CFOは仲介的な立場で派遣されてきた社長(及び親会社)と対象会社のミドルマネジメントとの調整・融和を図ることになります。
    私自身の経験ではオーナー系会社がファンド投資先(元々オーナー系の上場会社が経営不振によりファンドの傘下となった)の買収に立ち会ったことがあります。派遣された社長は創業オーナーの薫陶を受けて「オーナーのもとで家族のように発展してきた」という感覚の方である一方、投資先のプロパー取締役は「オーナーの放蕩経営により苦しんできた」という感覚の方が多かったため、良かれと思って使われる「オーナーの指示」という言葉が、神経を逆なでしかねない(歴史が逆戻りするのでは、という心配)状況でした。
    私自身は(性格的にも、立場的にも)忖度する必要はなかったため、両者がいる前で言葉にして社長の誤解を解くことができました。また、親会社(オーナー家)の方針でルール通り定年を運用するよう指示が下りてきた時に、社長とプロパー取締役から懇願されて親会社まで出向き、一定の定年延長が必要であることをオーナーに直接伝えたこともあります。その場では却下されたものの、私が退任したのちに、状況を理解いただきルールの変更がなされたと聞いて、お願いした甲斐があったなぁと思った次第です。

    (イ) 買収した会社が数値面の把握を重視し、CFOを派遣する場合
    この場合は(事前の準備はあるとはいえ)通常はクロージング後の社員説明会の場で退任のご挨拶をして、それを最後に新任の方と交代することになります。ファンドと同時に自身もExitする方式で、こちらの方が一般的かもしれません。
    私自身は「着任の初日から」いかに自分が抜けても業務が回るようにするかを意識して部下のマネジメント・育成をしてきました。また、自ら手を動かす業務については、できるだけそのワークシートやドキュメントを読めば思考の流れが分かるようなコメントや、微調整すれば転用できるものを残してきました。
    数年経って、部下と会食をする機会があって「悩んだ時には○○さんならどう考えるか、意思決定するかを考えるようにしています」と言ってもらった時にはとてもうれしかったことを覚えています。
    新しいCFOの方から問い合わせを受けたことは幸いにして、一度もありません。私自身のやり方を全く変えてしまい、聞くまでもないと思われたのか、それとも部下の育成がうまくいって、聞く必要がなかったのかは今となっては分かりませんが、私自身は後者だったと思うようにしています(笑)


    ― 4. その後のキャリアについて

    プロCFOのExit後のキャリアについては、その方その方のキャラクターや置かれている状況によって、千差万別かと思います。いくつかの事例をご紹介してみたいと思います。
    (ア) ファンド業界(バイアウトファンド・VC)でずっとCXOとして働く例
    最近はファンド業界が活況であることと、転職エージェントが一般的になったことから、職務経歴書にファンドでのCXO経験がある方には定期的にエージェントからのオファー連絡が来ます。
    私自身もいくつかの会社でCFOを経験していますが、CFOからCEOになった後いくつかのCEOを経験されている方など、このキャリアパスが一番一般的かもしれません。
    (イ) ファンドに戻りパートナーとなる例
    私の20年来の知人の中には現場での陣頭指揮が終わった後、ファンドに戻ってポートフォリオのCEOをいくつかやった後、いまではファンドのパートナーになっている方がいます。
    知り合った当時は「現場の方がやりがいもあるし、ファンドの仕事はあんまり興味がない」と言っていたのですが、いつのまにかファンドのパートナーになっていました。
    (ウ) 自らファンドを組成してファンドマネージャーになる例
    CFOとして活躍後、Exit後にファンドレイズをした人間も複数います。途中で別の方にファンドマネージャーの職を譲った(もしかすると交代させられたのかもしれませんが)例もあるし、いまでも活躍中の方もいます。
    ファンドマネージャーはファンドレイズ(資金集め)、ソーシング(投資先探し)、バリューアップ(企業価値向上)、Exit(売却)など、幅広く知見が必要で大変な仕事なぶん、やりがいもあると思いますので頑張ってほしいところです。
    (エ) 上場企業の社外取締役になる例
    最近は社外取締役の人材不足と言われています。弁護士や会計士の資格を持った方が多く採用されるような印象がありますが、知人の中にはいくつかの社外取締役を兼任して、バリバリと活躍されている方もいます。
    ご自身の知見・経験を有効に活用する一つの道だろうと思います。
    (オ) 独立起業される例
    プロCFOはどうしても案件ありきとなるので、前職から次職へ期間が空いてしまうことが多くなります。Exitでまとまった報酬をもらっているならともかく、次のポジションがいつ決まるかわからない中でも生活はしていかなければなりません。そのため自分の会社を設立して、事業を行いながら次のチャレンジの機会を待つ、という方も一定程度いる印象です。
    そのままずっと個人事業的に業務を行う場合もあるでしょうし、CXOを引受けつつ、個人の会社でも継続して顧問的なお仕事をされている例も多々あります。


    全7回にわたってプロCFOへの道として、実体験をふまえて各フェーズでの役割や進め方を連載させていただきました。

    私自身もキャリアの棚卸や実務の体系化・言語化をすることができました。このような機会を頂戴して感謝いたします。チャンスは準備する心に降り立つ(パスツール)と言います。私自身は全くできていませんが(笑)、悩んだら難しい方を選ぶ、という考え方もあるかと思います。なにごともやってみないとわからない、チャレンジしてみたら何とかなった、もしくは良い経験だったということの方が多いものです。

    今回の連載がこれからチャレンジする皆様の参考になれば幸甚です。



    ――――――――――――――――――――――――――――――

    【簡単1分】💻無料転職支援サービスはこちら

    ――――――――――――――――――――――――――――――

    ※ご意見・ご感想、筆者へのご連絡についてはお問合せフォームまでご連絡ください。


  • ここをクリックして表示したいテキストを入力してください。

    ここをクリックして表示したいテキストを入力してください。テキストは「右寄せ」「中央寄せ」「左寄せ」といった整列方向、「太字」「斜体」「下線」「取り消し線」、「文字サイズ」「文字色」「文字の背景色」など細かく編集することができます。

無料転職支援サービス
申込フォーム

(目安時間1分)
フォームから送信された内容はマイページの「フォーム」ボタンから確認できます。
送信したメールアドレスでお知らせ配信に登録する
送 信

Copyright  2024  Centric

株式会社セントリック
〒150-0002 東京都渋谷区渋谷1-3-9
ヒューリック渋谷一丁目ビル7階