③ 仕入・生産方式:完成品仕入か、自社生産か
④ OPEX・CAPEX:費用項目(例:レンタル費用)か、資産項目(例:建物付属設備)か
⑤ 為替影響:想定している為替レートはいくらか、利益感応度はどのくらいか
― 2. 単年度計画(売上計画/経費予算計画/投資及び資金計画)の立案
(ア) 計画の粒度
中期計画の初年度として大きな水準感(売上・利益)は既に立案済ですので、計画立案はその水準を達成するための詳細計画を立てることが主作業となります。そのため、実績が出たのちに、何が予定通りいかなかったのか、改善のためにどのような手を打つのかを検討できる粒度で立案することが必要です。
(イ) CFOの役割
企業活動は成長することで、利益をあげつつ、ステークホルダーにメリットを還元することができます。成熟度により成長スピードは変わるものの、基本的には前年よりも成長することがスタートとなります。
そのために毎年新たなチャレンジを計画・実行していくわけですが、予定通りいくことはほとんどない、と腹をくくっておいた方がよいと考えています。
これは「計画が未達でもよい」という意味ではありません。チャレンジがうまくいかない場合でも、各事業・組織に「最後まで計画達成に向けた活動を」してもらうのがCFOのミッションであり、そのためにも各事業・組織責任者との間で計画の分解項目を共有し、期中に挽回策の相談相手になれる必要があります。
具体的には、計画と実績を定量的に比較した上で現場が気づいていない場合は予実差異を示して気づかせる、現場から打開策案を引き出す、現場に打開策が無い場合は素人発想と断ったうえでいくつかの方向性を示す事になります。
(ウ) 立案の順序
どのような事業であっても、利益を運んでくるのは製品・サービスを買ってくれるお客様です。販売価格の決定は経営の根幹である、という言葉もあります。私の経験してきた卑近な例ですが、すべての企業で単年度計画は次のようなステップで作られてきました。
① 売上(販売)計画
② 原価計画
③ 経費計画および投資計画
④ PLの作成
⑤ BS/CFの作成
実際には、PLに組み上げると利益が足りない→売上目標を持ち上げる、もしくは経費を削減する等、行きつ戻りつしながらの議論・確定となるのですが、大まかな流れはほぼこの通りと言ってよいでしょう。
(エ) 立案主体
立案の主体は会社の組織設計によって変わってきます。
① 事業本部制
会社組織がブランドや製品の固まり等、売上・経費・利益までを事業責任者のもとでミッションを持っている垂直組織の場合、上記(ウ)の①から④までを事業本部に立案してもらうになります。
この場合、販売と生産の整合・調整を事業本部長(もしくはそのスタッフ)に行っていただくことになり、その調整でCFO以下、企画スタッフが頭を悩ますことは少ないです。一方、計画上のバッファや、リスクが事業内部で丸められてしまうため、どこまでの余裕度・リスクがあるかをあぶり出す必要があり、ここでは事業部スタッフと企画スタッフの信頼関係が重要となります。
② 機能組織制
組織が営業本部、生産本部、商品開発本部等の機能別の水平組織の場合は、上記(ウ)の①を営業、②を生産、③を管理部門も含む全部署が立案・提出することになります。
この場合は事業本部制のメリット・デメリットが入れ替わることになりますが、事業本部制よりも慎重なすり合わせが必要となります。ご想像のとおり、機能別組織は機能間で利益が相反することが多く、組織間の調整がお互いの「解釈」で調整され、積み上げると不整合になっている例がほとんどです。この場合、不整合するものだと割り切って調整する必要 があります。
調整する際のポイントとしては、まず相手(例:営業本部)の言っている事を傾聴し、共感する。一方反対再度のポジションの人たち(例:生産本部)の主張について、営業本部の人たちと確認する。相互に立場が有り、主張が有ることを確認したうえで、全体最適のためにどうすれば良いかを問いかける。この段階で歩み寄りが無い場合は「自分の責任である程度の割り切りで数値をまとめ上げさせて欲しい」と伝え、理解頂くという流れになります。
③ 注意いただきたいこと
いずれの組織体制にもメリット・デメリットがあります。社内調整でご注意いただきたい点は、その作業が付加価値の高い仕事かどうかをCFOは見極めていただきたいと思います。具体例をあげましょう。営業本部は「製品」ではなく、「顧客単位」で計画を立案、生産本部は「製品単位(原価低減計画立案のため、できるだけ細かい品番別に)」で計画数値が必要。ここでまじめな人がやりがちなのが、顧客×製品のマトリックスで数値を固めに行くことです。教科書的には正しいアプローチで、やり切っている会社もあると思います。ただ、計画段階できれいにすり合わせをすることが、本当に付加価値の高い仕事かよく考える必要があります。新規の顧客開拓を営業本部が織り込んでいる場合、どこまでいっても想定値にしかなりません。社内の調整に労力を割くのか、それともその新規顧客を開拓するための戦略を練らせる方が良いのか、CFOは自社の置かれている状況と全体を俯瞰・必要に応じて現場作業を変革する気持ちを忘れないで頂きたいと思います。
(オ) 全体整合
立案主体がどうであれ、CFOは全体をまとめる責任者ですので、積み上げていく過程で下記の点について、理解をしつつ整合させていく必要があります。
① 不透明部分の把握・調整
1. 計画値に実行性のない数値が含まれていないか。含まれている場合の打ち手を考えているかどうか
2. 部署間での不整合はないか。不整合があった場合、どちらの数値を採用すべきか
② 予算精度の向上
1. 費用面・投資面で具体的な投資対効果を設定しているか、具体的な目標数値は何か(売上や、削減工数等)
2. スケジュールが遅れる可能性がある場合の前工程は何か、どのタイミングで遅延が分かるか
3. 施策の責任者はだれか
ご想像のとおり、計画は実績の延長ではあるものの、立案時点ではわかる範囲で未来を予測して作り上げるものです。一定の不透明部分や精度の甘い部分があることは許容する必要があります。
一方で、ファンド投資先のCFOは一定程度の実績の精度を求められます。予実差異が発生したとしても、なぜそうなったのかを説明できる程度には、計画立案時に理解を深めておくべきかとおもいます。
(カ) 正式化
中期計画の時の繰り返しとなりますが、単年度計画の正式化は会社の取締役会での決議が必要となります。決議の前の事前準備・根回しはほとんど同じと考えていただいて結構です。
一つ違いがあるとすると、単年度経営計画は月次で予実差異を追っかける数値となりますので、決議時点で下記のような項目については資料化し、説明したうえで承認を得ておいた方が良いでしょう。
① 前提となる条件
例:既存店舗数と新規出店店舗数、想定の為替水準等
② 新たなチャレンジとなる項目
例:新規顧客数や、その売上金額、実現可能性等
③ 前年から増加する科目とその狙い
例:広告宣伝費なら、何を目的に(認知度向上や拡販等)増加し、どの程度前にストップ
させられるか等
― 3. 予実管理
決議の後は、毎月月次の実績と予算を科目別・部署別に比較していくことになります。ここも大きく分けて2つの領域・粒度があると考えます。
(ア) 売上及び原価
売上はやはり粒度を細かく分析が必要です。店舗別・ブランド別・製品別など業種によって異なると思いますが、日々の売上が積み重なって月次売上があるのはどの会社でも同じです。売上の傾向の変化を受けて、いかに早く打ち手を打てるか、そのスピード感の違いが企業の強弱を生んでいるように思います。
また原価についても同様です。原価はすぐに効果が出る物でないからこそ、早く手を打つ必要があります。商品構成の変化か(原価率の良いものと悪いものの構成が変わったのか)、個別商品の値引き率に変化があったのか、それとも生産現場の歩留まりが変わったのか、分析自体は販売現場・生産現場に行ってもらうとしても、CFOは変化の構成要素は理解しておき、適切な分析を現場に依頼する必要があります。
(イ) 経費
経費分析は主に科目別に大きな金額から差異を把握したうえで、どの部署が予算を超過しているのか、その理由は何かというようにドリルダウン方式で差異を分析していくことになります。
その際、予算が低すぎたのか、それとも時期が前倒しになったのか、そもそも予算外の突発的な費用なのか、その場合、削減できるほかの費用はあるかが主要な問いかけになるでしょう。
大きく費用が超過した場合は細かく分析していくべきですが、売上に対する比率に大きな乖離がない場合は、私の経験ではいったんは各部署の自主性に任せ、翌月以降挽回させる方向で管理する方がうまくいったように思います。
逆に、売り上げが落ちているにもかかわらず、予算の枠内として費用が使われている場合は、要注意です。使ってしまった費用を取り戻すには売上を上げるしかありません。特に、売上に連動する傾向の強い変動費の売上比率が悪化した場合は、構造変化が起きているということですので、急ぎ分析が必要となります。
私の経験上、単年度計画がある程度、合理的に作成されていれば、月次の予実差異が発生しても分析は比較的容易です。ただ、計画そのものがストレッチしたものだと、挽回策の立案・実行が難しくなります。ファンドの投資先では概ね計画のストレッチが求められることが多いため (特に投資初年度もしくは次期計画立案時、成長鈍化した場合や外部環境が厳しくなった場合等)、気苦労は多いのですが、ある程度腹をくくれれば(自分以上に成果が上げられる人がいるなら、すぐにでもバトンを渡すという心づもり)、一喜一憂しなくても済みますし、その状況を楽しむ余裕も生まれるというものです。この境地にたどり着くにはある程度の修羅場はくぐる必要があるのですが(笑)
次回は内部統制整備を含む上場準備、M&AによるExit準備についてご紹介したいと思います。
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― 2.そもそも内部統制とは
一言で内部統制と言ってもいくつかの面があります。特に上場する場合は、広く一般に株主を募ることになるため、そのための法律(金融商品取引法等)があることはご承知のとおりです。
(ア) 企業として必要な統制
この領域も大きく二つの領域があります。会社法など法律で必要とされる統制と業績を上げるもしくはコンプライアンス違反を起こさないための統制です。
① 法令による統制
この領域は主に会社法で定められている領域です。株主総会による取締役の選任、取締役同士による相互牽制、債権者保護の手続きや決算公告等々、定められている手続がたくさんあります。余談となりますが、私の友人の弁護士(上場企業の監査役経験や、総会において法務顧問としての議事進行アドバイスなどに従事)曰く、「会社法は本当にややこしく、総会時期になると改めて事務所内で勉強会・復習会をやる」と言っています。丁寧に作られた法律ではあるものの、解釈の幅も一定程度あるということと理解しています。
企業によっては会社法での統制が後回しになっており、総会議事録や決算公告もやれていない企業がたくさん存在しますし、法令違反の指摘は(私の狭い経験ですが)30年で一件しか見たことはありません。ただ、Exitにおける法務DDで「法令違反」を発見、報告することが目的となるため、当然にこれら会社法での手続きは行う必要があります。
② 業績管理・コンプライアンス対応のための統制
この領域はいわゆる「社内規程」で定めた手続きに基づいて、対応がなされているかという分野になります。規程をどの程度整備するかは会社によってまちまちですが、少なくとも取締役会規程(取締役会で決議・報告すべきことを規定)や就業規則(労基署への提出が必要)、文書管理規程、経理規程、決裁権限規定等は必要と思われます。前回までお話をしてきた経営計画、予実管理も規程の中で定められた手続きで作られるものです。
世の中にたくさん規程のひな形は出回っていますが、実際の運用まで意識して作られたひな形はほとんどない、というのが私の印象です。具体的な例は後述いたします。
(イ) 上場時に必要とされる統制
上場では上記の企業として必要な統制があることはもちろん、ルール通り運用されているか、ということが求められます。加えて上場企業として追加的に必要な統制がいくつかあります。
① 企業として必要な統制の水準について
上場企業ではルールがあり、そのルール通り運用されているかを審査にて確認されます。いかに「ルール違反ではないか」と言われない規程にするか、というのは些末な話ではありますが、重要な準備と考えています。ここで先ほどのひな形の具体的な不足部分を職務分掌規程の例をつかってご説明しましょう。
出回っている規程ひながたでは「総務部」「経理部」「営業部」というように「名称」で職掌範囲が記述されている例がほとんどです。一方、「組織は戦略に従う」というように、「組織名」は変更となることが多々あります。私の卑近な例では、やっている業務(予算立案)は変わらないまま、「総合企画部」「経営企画室」「予算管理部」「経営計画室」と2年の間にコロコロと名称が変わったことがありました。規程に「組織名」で記述されていると、組織変更のたびに「規程の修正」が必要となります。当該会社では規程上は「経営計画立案担当部署」という表記とし、組織変更決議の際に「当該部署は経営計画立案を担当する」という説明書きで、規程と組織を紐づける運用を行っていました。
この場合、文書管理規程で職務分掌規程を変更する場合は取締役会決議とする、と規定していた場合は追随しなければ規程違反になりますし、追随するためには事業運営の意思決定に使う時間を、規程の議論に回すことになり、本末転倒となることは容易に想像いただけるかと思います。
② 上場企業として追加的に必要な統制
追加的に必要な統制は次のようなものがあります。
1. 会計監査人の設置と監査
厳密には会社法上の大会社(資本金5億円以上、または負債の部の合計が200億円以上)は会計監査人の設置義務があるのですが、ファンドでは大会社でなくとも「任意」での会計監査を投資先に求めるのが通例ですので、この部分の詳細なご説明は省きます。
一点だけ手続について補足をすると、会計監査人の設置は定款の変更を伴いますので、総会の決議が必要となります。
2. 内部監査体制
2000年の金融商品取引法、2006年の新会社法の制定によって大会社と上場企業には「内部統制」が求められるようになりました。しかし、「内部監査体制」を明確に規定する法律はなく、先行している欧米の体制(外部監査人と内部監査人を明確に区分)を参考に、組織化されてきたという歴史的経緯があります。このため組織の位置づけが国際社会のもの(独立取締役を中心とした取締役会もしくは監査委員会の指揮命令下の内部監査)と日本のもの(経営者の直下の内部監査)で微妙に異なるというのが現状です。
いずれにしても内部監査は管理部門を含む事業執行組織とは完全に独立した組織として設置し、内部監査の責任者は兼務が許されません。このため内部監査体制については次のような困難があり、立上げに比較的時間がかかることが多いように思います。
(ア) ある程度事業のことが分かり、経営者に直接報告できる責任者を選任すること
(イ) 審査前までに、「全ての部署」に対して監査を実施した実績が必要
(ウ) 内部監査基準や監査項目の選定の落としどころが難しいこと
そもそもの背景より、CFOが直接指揮して内部監査部門を立ち上げることは矛盾があるところですが、制度立ち上げ時にはCFOの補佐は必須です。世の中には内部監査部門の立上げを上場支援として行う会社はいくつもありますが、これら企業の出してきた内部監査基準や項目は、現場実態にそぐいません。
私の経験では、多店舗展開(数百店舗)を行っている企業において、店舗部門だけでも30を超えるチェック項目があり、当該企業では全く関係のない項目も残っていた例がありました。内部監査は指摘をすることが目的ではなく、現場レベルへ統制に必要な内容を伝達・徹底すること(ひいては現場力の向上による企業価値の増大)が目的である、ということが真の意味で理解されていない例かと思います。
3. J-SOX対応
アメリカでのエンロン事件(粉飾決算)をきっかけに成立した米国のサーベンス・オクスリー法(通称SOX法)をフォローする形でJ-SOXは立ちあがっています。
よってJ-SOXでは内部統制のなかで「財務報告の信頼性に係る内部統制を重点的に」評価することになります。J-SOXそのもので必要な書式等は巷間、枚挙にいとまがないので省略しますが、準備にあたっての注意点をご説明します。
財務報告に特化した領域となるため、監査法人との連携は必須となります。逆に監査法人はJ-SOXにおいて適切に内部統制が効いていることが確認できれば、監査サンプルの減少や重要性の閾値のUPを行うことができるため、対象会社・監査法人双方にメリットがあります。一方で、統制の証跡が必要となるため、記帳を行う経理だけでなく、売上を計上する営業部等、実務部隊の作業内容・検証方法まで変更する必要がでてくるため、「監査法人が許容できる」レベルと「現場が対応できる」レベルの確認・調整が必要となり、この部分でCFOの業務理解・監査法人との交渉力が試されることになります。
4. corporate governance code (CGコード)対応
CGコードは東京証券取引所が要求する上場企業が行う企業統治においてガイドラインとして参照すべき原則・指針を示したものです。よって法的拘束力はないものの、83もの開示項目が決められており、内容によっては(例:経営者の後継育成方針)ファンドが抜けた後、どのように対応していくかをあらかじめ議論しておく必要があります。
上場市場や企業規模によって、上場時から適用にならない場合もありますが、いずれ対応しなければならないものであり、項目数が多いことにくわえてコードの要求する事項の説明があいまいであることもあるため、CFOとしてははやめに他社開示事例等を眺めておくとよいでしょう。
― 3.実際の準備期間
上場する場合は体制整備等もあることから、目標時期の2から3年前には外部専門家を含むチーム組成がなされ、対応していくことになります。
一方で、M&Aの場合はファンド主導で相手先や売却価格が検討・交渉され、DD対応を行うCEO、CFOに加えて経営企画・経理のごく限られたメンバー以外の現場には契約締結・クロージング(資金決済)の当日まで発表されません。 社内での情報管理は経験上、いろいろなパターンがありますが、対応チームをプロジェクト化したうえで、①一定程度信頼がおける実務メンバーでDD対応をクローズできそうであれば、社名は伏せて売却交渉のためのDDであることを伝達、②難しい場合は、ファンドからの要請での対応(例:グローバル本部からの税務対応や、さらなる業務改善のための調査等)と伝達、の二パターンになるかと思います。
CFOはDD対応の陣頭指揮(質問の内容によってはCFO自らが回答素案を作る必要があります)を取ることになるため、比較的早めに知ることにはなるとはいえ、DDが始まる直前というのが私の経験則で、そのため短期間でハードワークが必要となります。 私自身の例でいくと、休日であっても定期的にメールを確認できる体制を整え、担当に確認しないと詳細が分からない質問であっても、必ずその日のうちに何らかの返信を返す(会社側でボールを持たない)ことを2か月程度続けたことがあります。実際に作業する時間は細切れでも、DD対応のことが常に頭を離れず、体力よりも精神的にハードだった記憶があります。それもよい思い出ですが。
ファンドとも連携を取りながら、スピーディに買主候補に「不安を与えることのなく、かつ、背伸びしすぎない回答」(例:管理部門に人は不足しているが、ノックアウトになるような統制不備はない)を開示していく必要があり、バランス感覚が求められます。
次回はExit後のCFOの業務・キャリアについて触れたいと思います。
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― 2. IPOの場合
IPOは一つの山場ではありますが、実際には始まりでしかありません。ご承知のとおり、IPO後は四半期決算を行って開示を行うとともに、投資家との対話(IRミーティングだけでなく、機関投資家との個別のミーティングもあります)を行っていく必要があります。
事業のビジョンや中長期の戦略については多少、定性的な内容も含みますが、決算数値および見通し(主に単年度の計画を使うことが多い)については定量的な説明・議論がなされます。昨今は投資効率(ROIC)や資金効率(CF)、資本政策(配当方針)についても方針を聞かれることになり、CFOが中心となってIR部署を組成し、対応していくことになります。
私の知人の例でもファンドからIPOし、しばらくCFOとしてIR対応をされていた方がいらっしゃいます。その方は最終的にCEOになられました。
― 3.M&A(事業会社への売却)
このパターンの場合は、買収した会社の方針・状況によって変化球があります。
(ア) 買収した会社がトップのみ派遣し、ある程度独立性が担保される場合
小が大を飲むようなM&Aの場合、買収した会社に派遣できる人材があまりいないというのが通例です。この場合は、CFOは仲介的な立場で派遣されてきた社長(及び親会社)と対象会社のミドルマネジメントとの調整・融和を図ることになります。
私自身の経験ではオーナー系会社がファンド投資先(元々オーナー系の上場会社が経営不振によりファンドの傘下となった)の買収に立ち会ったことがあります。派遣された社長は創業オーナーの薫陶を受けて「オーナーのもとで家族のように発展してきた」という感覚の方である一方、投資先のプロパー取締役は「オーナーの放蕩経営により苦しんできた」という感覚の方が多かったため、良かれと思って使われる「オーナーの指示」という言葉が、神経を逆なでしかねない(歴史が逆戻りするのでは、という心配)状況でした。
私自身は(性格的にも、立場的にも)忖度する必要はなかったため、両者がいる前で言葉にして社長の誤解を解くことができました。また、親会社(オーナー家)の方針でルール通り定年を運用するよう指示が下りてきた時に、社長とプロパー取締役から懇願されて親会社まで出向き、一定の定年延長が必要であることをオーナーに直接伝えたこともあります。その場では却下されたものの、私が退任したのちに、状況を理解いただきルールの変更がなされたと聞いて、お願いした甲斐があったなぁと思った次第です。
(イ) 買収した会社が数値面の把握を重視し、CFOを派遣する場合
この場合は(事前の準備はあるとはいえ)通常はクロージング後の社員説明会の場で退任のご挨拶をして、それを最後に新任の方と交代することになります。ファンドと同時に自身もExitする方式で、こちらの方が一般的かもしれません。
私自身は「着任の初日から」いかに自分が抜けても業務が回るようにするかを意識して部下のマネジメント・育成をしてきました。また、自ら手を動かす業務については、できるだけそのワークシートやドキュメントを読めば思考の流れが分かるようなコメントや、微調整すれば転用できるものを残してきました。
数年経って、部下と会食をする機会があって「悩んだ時には○○さんならどう考えるか、意思決定するかを考えるようにしています」と言ってもらった時にはとてもうれしかったことを覚えています。
新しいCFOの方から問い合わせを受けたことは幸いにして、一度もありません。私自身のやり方を全く変えてしまい、聞くまでもないと思われたのか、それとも部下の育成がうまくいって、聞く必要がなかったのかは今となっては分かりませんが、私自身は後者だったと思うようにしています(笑)
― 4. その後のキャリアについて
プロCFOのExit後のキャリアについては、その方その方のキャラクターや置かれている状況によって、千差万別かと思います。いくつかの事例をご紹介してみたいと思います。
(ア) ファンド業界(バイアウトファンド・VC)でずっとCXOとして働く例
最近はファンド業界が活況であることと、転職エージェントが一般的になったことから、職務経歴書にファンドでのCXO経験がある方には定期的にエージェントからのオファー連絡が来ます。
私自身もいくつかの会社でCFOを経験していますが、CFOからCEOになった後いくつかのCEOを経験されている方など、このキャリアパスが一番一般的かもしれません。
(イ) ファンドに戻りパートナーとなる例
私の20年来の知人の中には現場での陣頭指揮が終わった後、ファンドに戻ってポートフォリオのCEOをいくつかやった後、いまではファンドのパートナーになっている方がいます。
知り合った当時は「現場の方がやりがいもあるし、ファンドの仕事はあんまり興味がない」と言っていたのですが、いつのまにかファンドのパートナーになっていました。
(ウ) 自らファンドを組成してファンドマネージャーになる例
CFOとして活躍後、Exit後にファンドレイズをした人間も複数います。途中で別の方にファンドマネージャーの職を譲った(もしかすると交代させられたのかもしれませんが)例もあるし、いまでも活躍中の方もいます。
ファンドマネージャーはファンドレイズ(資金集め)、ソーシング(投資先探し)、バリューアップ(企業価値向上)、Exit(売却)など、幅広く知見が必要で大変な仕事なぶん、やりがいもあると思いますので頑張ってほしいところです。
(エ) 上場企業の社外取締役になる例
最近は社外取締役の人材不足と言われています。弁護士や会計士の資格を持った方が多く採用されるような印象がありますが、知人の中にはいくつかの社外取締役を兼任して、バリバリと活躍されている方もいます。
ご自身の知見・経験を有効に活用する一つの道だろうと思います。
(オ) 独立起業される例
プロCFOはどうしても案件ありきとなるので、前職から次職へ期間が空いてしまうことが多くなります。Exitでまとまった報酬をもらっているならともかく、次のポジションがいつ決まるかわからない中でも生活はしていかなければなりません。そのため自分の会社を設立して、事業を行いながら次のチャレンジの機会を待つ、という方も一定程度いる印象です。
そのままずっと個人事業的に業務を行う場合もあるでしょうし、CXOを引受けつつ、個人の会社でも継続して顧問的なお仕事をされている例も多々あります。
全7回にわたってプロCFOへの道として、実体験をふまえて各フェーズでの役割や進め方を連載させていただきました。
私自身もキャリアの棚卸や実務の体系化・言語化をすることができました。このような機会を頂戴して感謝いたします。チャンスは準備する心に降り立つ(パスツール)と言います。私自身は全くできていませんが(笑)、悩んだら難しい方を選ぶ、という考え方もあるかと思います。なにごともやってみないとわからない、チャレンジしてみたら何とかなった、もしくは良い経験だったということの方が多いものです。
今回の連載がこれからチャレンジする皆様の参考になれば幸甚です。
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