・各業務のフローをただ覚えるのではなく、理由・背景を把握し、必ず押さえるべきポイントを理解すること
・インハウスのプロフェッショナル人材として、自身の担当しているビジネスについての構造や収益を生み出すポイントなどを確りと理解すること
・(会計分野が専門外の方など向けに)専門分野の説明をする際には、なるべく平易な分かり易い説明とすべく、ポイントを整理すること
元々、特別に会計やファイナンス関連の知識知見があったわけではなく、住友商事での業務にて初めて触れたので、学生の時代からCFOというものを意識していたわけではありませんが、家業などの関係で会社経営というものは少し身近に存在しており、漠然と会社経営に関する仕事に関わりたいとは思っていたと思います。
その中で財務経理のキャリアを経たことでCFOとしてのキャリアを意識するようになったと思います。特に入社6~8年目の海外にいたときですかね。本社にいた際は専門性を高めようと思っていた部分が、海外に行くとポジションが1個上になりました。
個別論点でゴリゴリやるというよりマネージする側になったのもちょうどその時ぐらいかもしれないです。
CFOを意識してからも特別な準備などはしていないのですが、自身のキャリアでの経験を棚卸し、自身がCFOとして働くことを想定した上で不足すると思われるスキルや経験は何か、それを補うためには何をすべきかということを整理しました。私の場合はそれが管理会計面(特にFP&A)だったため、自身で書籍を読み漁り、先輩や同業他社の方に確認しながら関連する情報収集や勝手に想定する会社ではこういう分析が必要かもしれないみたいなイメージをしていました。
- 良くファンド側と投資先との間で経営陣が板挟みになるケースが有ると伺いますが、どのように対応されてきたのでしょうか。
初期の段階でいうと数値目標でどうしても折り合いがつかない部分も有り、その際、現実感のない数字を作ってしまうと、現場のやる気もなくなってしまう。そこの落としどころはどこかというコミュニケーションは丁寧に行うようにしていました。
To株主という観点では、現実的に積み上げてロジカルに説明していくしかないというところで、納得させるようなコミュニケーションは取る必要がありました。
私が所属した期間を通して考えると、株主さんに対して会社として抱えている問題などの事実はしっかりお伝えする。どういう人がどういうことを思っているかなど、会社は人が動かしてるので、もう少し人間模様じゃないですが、そういった部分もご理解いただくように心がけていました。特に私みたいな外部採用の人間と内部でマネジメントになってる方もいるので、その関係性ですね。その関係性で摩擦が起きたりはしがちだとは思うんですが、その辺りも含めてどういう状況か結構つまびらかに伝えるようにしていました。
逆方向の話で言うと、プロパーの方に対してはファイナンス関連、契約や知識等のハードスキル面などについては、かいつまんでわかりやすく説明をするように心がけていました。
- 現職に着任された際、投資先社員の方たちと関係を築く際にどういった事を心がけてこられたのでしょうか。
教えてくださいというスタンスで取り組んでいました。特にホテル業は私も経験が無かったですし、初めてで不明点も多かったので、そこは素直に分からないので教えてくださいというスタンスでいきます。一方で、こちらから専門性やハードスキルの部分で提供できることはします。ある程度、この人はスキルセットが伴っていてなんか会社の事業を分かってくれそうというのは感じてもらわなきゃいけないと思う。ハードスキルとソフトスキルの使い分けな気がします。私の専門分野である一般的な会計・財務面で判断が出来る話もありますが、もう少しビジネスに突っ込んで行くと理解が出来ていない部分がやはりありました。そういった私が不明瞭な部分に関して投資先の社員の方々は感覚的に理解しているので、その感覚の部分をしっかり教えてもらって、それを実際の数字に落とし込むとこんな感じだよねみたいな、そういうコミュニケーションは最初のうちにしっかりやっておかないといけない。
最初は教えてくださいというスタンスで関係性を構築しつつも、早めにのタイミングでこの人ってビジネスに対する理解があるなというのも感じてもらわないといけないと思い、キャッチアップに対してはかなりスピード感をもって取り組んでいたと思います。
さらに次のステップにいくためには汗をかくことも大事かと思っています。特に私が入ってから予算の制度をガラッと変える機会が有りました。ファクトベースでしっかり経営推進していきましょうという体制に社長以下で方針として出している中で、予算も過去のファクトベースで作りましょうと言うのは簡単なんですが、実際やってみるとやはりやり方がわからない部分はある。ここはそういう方針を出した手前自分も頑張ろうということで、それこそ各部署と一日中、朝から晩までずっと会議室にいるのが1週間2週間続くみたいなことをひたすらやりました。そうすると、翌年度になると、一緒に手を動かしながら社員の方も学び、精度が向上していく。会社のメンバーの成長が見れるのは自身の仕事の成果が目に見えますし、やっていて凄くよかったなと感じますし、会社のメンバーも自身の成長を感じることができ、そこまで一緒に汗をかくことで信頼を勝ち取れた部分もあるかなと思います。一方で、あの人はすごく数字に細かいしうるさいから怖いなと思われることも多分あったと思います。
- 日本企業成長投資(NIC)様については注目されているファンドの一つかと思うのですが投資先でやり取りをされてどういった印象を持たれましたか。
会社マネジメントの意見を尊重しつつ、会社の経営改善、業績向上に資する取組であれば尊重、賛同、支援頂けるという印象を持ちました。ファンド投資期間における会社成長のみに縛られることなく、会社として長期の成長に向けた取り組みについてもご理解いただき、支援して頂いたと感じています。例えば、現職ではブランディングの部分になると思います。短期的には収益貢献があるかは定かではないですが、会社の長期的成長というところをサポート頂いたと感じます。
加えて、投資先マネジメント陣とのコミュニケーションについては重要視されていると感じており、個々の成長についても後押し頂き私個人としては凄く成長できる機会を頂いたと思っています。具体的には、入社後2週間に1回CEO、ファンドのパートナーと担当の方3名で私のフォローアップも兼ねて機会を作っていただいた。またCEOも年に1回ファンド側から私のフィードバックを取って頂き、良かった点、要改善点を頂けとても有難く感じました。
最初の出会いは通信ベンチャーに転職した時です。同社の副社長のネットワークに多くの大手金融、ファンドの方がおり、M&Aを含む各種資本政策検討の折、PEファンドとのコミュニケーションが始まりました。
その後、転職検討時にエージェントより紹介された会社が、以前接点のあった大手PEファンドの投資先だったのです。ファンド側の責任者(MD)とも既に面識があったので、とんとん拍子に同社採用となったことが、PEファンドとのかかわりを深くするきっかけとなりました。一方、同社は事業で不調の部分も有り、その際の株主とマネジメントとのコミュニケーションは非常に難しいものだと感じました。案件も大きく、非常にタイトな時間軸の中でのプレッシャーは想像以上でした。
PEファンド傘下企業の営みは、一般事業会社のそれとは大きく異なります。
会社はあくまで投資対象であり、PEファンドは一定期間後、自らの持分を何らかの方法で譲渡し利益を得ることを使命とされた主体です。彼らは投資実行以後、対象会社と様々な取り組みを実践し、対象会社の企業価値を高めることで、自身の利益を獲得するとともに、対象会社のゴーイングコンサーン要件を整え、雇用、取引先、債権者、納税を守ることに繋げています。
この意義深い大事業を進めるためには、資本家の論理だけでは成しえません。誰かが投資家と対象会社の間に立ち、オペレーションの現場を動かしていく必要があります。この役割の一端を担う能力を有するものがPEファンド傘下企業の営みに求められています。そんな一人にたまたま選ばれたということです。
(アドバンテッジパートナーズ投資先・2023年7月グロース市場上場)
㈱ナレルグループ
取締役コーポレート本部長
野尻悠太様
2006年4月 みずほ証券入社(インベストメントバンキングプロダクツグループ)
2009年11月 ㈱アクセルスペース入社(取締役COO)
2019年4月 ㈱JDSC入社(CFO)
2020年5月 ㈱ナレルグループ入社(取締役コーポレート本部長)
-スタートアップとファンド投資先の違いという部分についてもお話頂きましたが、特にどういう方がファンド投資先にフィットしやすいと感じますでしょうか
結構スタートアップって、ジョインするには個人的な感想として熱狂というか、そういったようなものがないと、とても飛び込めないっていうのはあるような気もしていて、それよりかはどちらかというと、自分のスキルとか能力がどういう場で活かせるのかとか、必要としてもらえるのかっていう、職人気質的なところがある方の方が向いてるかもしれないです。
もちろん対象会社のビジネスに対して興味を持つっていうのは必要ですが、スタートアップほどの熱狂的な共感は求められはしないので、自分の能力がどう生かせるかというところに興味があるとフィットしやすいかもしれないです。
-現職の主な業務内容について確認させてください。
コーポレート本部長として、経理・財務のみならず、人事総務、法務、IT等幅広い管理部門を管掌しています。
-現職で上場準備を行う中で、最も困難だったことは何だったのでしょうか
また、どのように乗り越えたのでしょうか
正直なところ非常に辛かったということはありませんでした。社内も上場準備に協力的でしたし、プロジェクトメンバーにも恵まれ、主幹事証券も会社に寄り添って対応いただけました。そのおかげで、一つ一つ課題を着実にこなすことができ、非常にスムーズに上場準備を行うことができ、当初のスケジュールから全く遅れることなく、上場することができました。
ただ各部門間との連携が必要なタイミングや、各部門に負担をかけなくてはいけない際は、しっかり根回しを意識していました。こちら側から一方的に落とすというのはご法度で、関連部署のキーパーソンと会話をして、理解を得つつ進めるという部分に気を遣っていました。
また、主幹事証券会社・監査法人ともコミュニケーションをする際は、バットニュースは先に伝えるようにし、また風通しもよく情報をオープンにして積極的に協力してもらえるように心がけていました。
-上場準備を進める中でファンド側からはサポートは有ったのでしょうか。また有ればどういったサポートだったのでしょうか
実務については会社側にかなり任せていただいていましたので、人材採用のサポートやファンド内に蓄積した過去のIPO案件等の経験を踏まえたエクイティストーリー構築、バリュエーション決定、ロードショー運営等のプロセスにおいて、アドバイス・サポートいただきました。
-上場を志向する場合、ファンド傘下でのCFOという選択肢はどういった魅力があると感じますでしょうか
PEファンドの投資対象となるということは一定規模かつ少なくとも安定的な売上・利益があるケースが多いと思います。それでもなお、収益拡大は重要な課題ですが、業績によって上場の見通しが全く立たないということはないので、ある程度、それ以外の上場準備に集中できるという魅力があると思います。そういった意味で上場を本気で目指されたい方にはファンド傘下の企業は有力な選択肢の一つとなるのではないかと思います。
-現職では、創業者さんも在籍されてきたと存じますが、創業者さんとファンドさんとの間を取り持つ部分にご苦労は無かったのでしょうか?
創業者である代表取締役からファンドとしてはどういうことを考えているのか等は聞かれることもありますし、こうしたら良いんじゃないですか、という事も伝えていました。ファンド側としてどういう出方が出来るのか予想しつつある程度の着地点は見据えて予期しながらもうまく調整していくという部分はやっていたかもしれないです。
-アドバンテッジパートナーズについては投資先側で勤務する中でどういった印象を持たれましたでしょうか
APの投資チームの方々は、合理的かつサポーティブでしたので、仕事は進めやすかったと思います。大株主としてのAPと会社の間で必ずしも利害が一致しないこともあったかと思いますが、会社側の意思も尊重いただき、上場に向けて非常に良い関係の中で進めることができたことに感謝しています。
-最後にPE投資先CFO目指されている方・関心を持たれている方にメッセージをお願いします
前に述べたとおり、PE投資先のCFOはスタートアップとはまた違った魅力があると思います。どういったキャリアを歩むかはそれぞれの価値判断かと思いますし、PE投資先はスタートアップに比べると知名度の低いキャリアパスであるのが現状かと思いますが、少しでも魅力を感じられたのであれば是非ともチャレンジしてみてはいかがでしょうか。
特にプロ経営者的なキャリアの最初の登竜門として、PE投資先は適しているのではないか、またそうあってほしいなと感じています。まがりなりにも私も上場企業の取締役CFOを務めているわけですが、日本に上場企業は数千社ありますが役員の方は内部昇格というケースがほとんどではないかと思います。外部の人材がチャンスを得られたのは非常に興味深い部分なのではないかと思ったりしています。
㈱キャスター
取締役CSO
川村尚弘様
2002年12月 University of Oklahoma経済学部卒業
2003年4月 株式会社トーマツコンサルティング入社(現デロイトトーマツコンサルティング合同会社)
2006年6月 株式会社NTTデータ経営研究所入社
2008年4月 フロンティア・マネジメント株式会社入社
2013年6月 株式会社ベルシステム24入社(ベインキャピタル投資先)
2015年6月 同社営業企画部部長就任
2016年3月 同社事業企画部部長就任
2016年11月 株式会社ICI石井スポーツ入社(アドバンテッジパートナーズ投資先) 同社執行役員就任
2019年9月 株式会社キャスター入社
2020年1月 同社執行役員就任
2020年11月 同社取締役就任(CSO/CFO兼務、2022年9月よりCSO)
アメリカの大学では1-2年生のときは英語での授業についていくために必死で勉強しましたが、3-4年生のときには慣れもあって、またあまり勉強しない学生に戻ってしまいました。ただ、この時に会計学を専攻していた(最終的に経済学で卒業していますが、会計学、MIS、経済学を専攻していました)ことから、ビッグ5(当時)会計ファームに入社したいという思いが強くなり、今のキャリアにつながったのかもしれません。コンサルタントになりたい方はマッキンゼーやボスコンを第一志望にする方が多いかもしれませんが、私はこの2社は受けておらずトーマツコンサルティング(現デロイト)が第一志望で、ほかの志望企業も会計系ファームが中心でした。
-ご自身の若手時代(20代)で特に印象的だった経験、意識されてきた点はどういった事だったのでしょうか。
トーマツコンサルティングに入社した初日に、パートナーからの入社祝辞があったんですが、その時の言葉は常に意識していますね。若干記憶の改ざんがあるかもしれないですが、
1.拙速は巧緻に勝る
2.まず全部作る
3.自分を個人事業主だと思うこと
と言われまして、今でもずっと守るようにしてます。
トーマツでは新卒の同期が15人ほどいたのですが、基礎知識や能力などで私はビハインドしていて入社後の研修はきつかったですね。その後クライアント配属になったあとも最初の1年は、自分の出来が悪すぎたから思い出したくないのか、仕事の記憶がほとんどありません。2年目の途中からは苦手なことはなるべく手を出さず、得意なプロジェクト全体のストーリー作り、分析、ロジックづくりなどにフォーカスするようになって少しコンサルらしくなった気がします。
-PEファンド投資先とスタートアップベンチャーでのマネジメント経験が有られますがマネジメントを務める際どういった違い、魅力があると感じますか
PEファンドは事業仮説がしっかりしているため遠くにあるゴールを目指すマラソンのような競技、スタートアップベンチャーは日々変わる環境に適応するので短距離走、またはリレー(バトンを渡すのも受け取るのも自分の場合がありますが)のような競技のイメージですね。PEファンドは、事業仮説もイグジットもわかりやすいので達成感を得やすいのと、ファンドのメンバーと壁打ちできるなど、環境面が整っている良さがあります。成果が出しやすい環境が整えられている一方で、時間軸が定められていたり、高いレベルでの論理的・定量的な裏付けを求められたりするので、ポストコンサルの方にとっては普通かもしれませんが、そうでない方にとってはストレスになりうるかもしれません。
スタートアップベンチャーは、何をおいても成長性の高さと、それによる課題の変化への対応力が問われるところが特徴です。これらをしっかり対応していくことによって、自分の考え方や原理原則を会社に浸透させることができるのが魅力かもしれません。創業メンバーにはかないませんが、少なからず自分のDNAのようなものを会社に残していっている実感はありますね。
-ファンド投資先企業を経験されて、現職スタートアップベンチャーを選ばれたご理由と、現職の主な業務内容について確認させてください。
ファンド投資先はちょっと慣れてきたかなという雰囲気も有ったのと、当時周りも結構スタートアップにいく人も多くなってきたので興味を持ちました。またある種スタートアップに行くというよりもキャスターに行きたいという気持ちが強かったかもしれないです。私は石井スポーツ時代にずっとキャスターのサービスを使っておりサービスとしてすごく付加価値が高いと思っていました。シンプルなんですが、生産性を高めるためにしっかりしたサービスだと感じており、ポテンシャルを感じていました。そこで周囲のポストコンサルの友人に、私がスタートアップに行くことについてどう思うか聞いてみたところ全然合っていると思う、という言葉をもらったのが後押しとなって決めました。
入社直後は経営企画室長として、KPI管理の土台づくりと、経営課題の発見と解決をしていました。その後CSO/CFOとして管理本部を管掌するようになって、予算策定・管理、資金調達、人事制度の改正などを行い、上場準備の責任者も務めました。私は上場準備に専門性があるわけではなかったため、方針を定めたり、スムーズに進むようなきっかけを作ったりしただけで、あとはメンバーが責任をもって進めてくれました。2022年からはCSO専任となり海外事業、新規事業、M&Aを担っています。
-現職で上場準備を行う中で、最も困難だったことは何だったのでしょうかまた、どのように乗り越えたのでしょうか。
前述の通り、私が上場準備で果たした役割はさほど大きくはなく、他のメンバー、特に私の後任として管理本部を担ってくれた執行役員陣によって成し遂げられたものだと前置きしたうえでお答えします。
ひとつは、フルリモートワーク企業での上場ということで前例のない論点がいくつも出てしまったことです。例えば、出退勤管理は通常の会社であればタイムカードとドアの開錠履歴を突合することでダブルチェックできますが、リモートワーカーに開錠履歴は当然ありませんから同じプロセスは作れません。結果として、Slackなどを使って解決したのですが、このような論点が継続的に発生しました。
ふたつめは、形式と本質の切り分けです。上場の要件として求められるものは、どれも本質的な目的があると認識しています。しかし、それを業務に落とし込むときには、形式的なルールに置き換えなければいけません。例えば、モノを買うときに購買稟議を通す本質的な理由は、しかるべき責任者が、支払先、目的、支払額を承認することで統制を利かせることにあります。ただ、それをルールに落とし込むと「このワークフローシステムを使って、〇〇部が事前にチェックし、最終的に責任者が承認する」という形式に変わります。すると、「ワークフローシステムが止まってしまったらどうする?」「急ぎの場合に〇〇部の担当がいなかったらどうする?」といった話がでたりします。答えは、「メールなどを使って責任者が承認する」で十分本質的な目的は達成できます。
逆に、責任者が休みなどでいないからと言って、責任者のIDをつかってワークフローに入り別の人が承認してしまったら大問題です。形式的には確かにあってるようにみえますが。このように、本質を理解して、形式にはまらないように議論をコントロールし、そのリズムを作り出すまでは形式に若干振り回されてしまう傾向がありました。
最後は、やはりステークホルダーとの合意形成です。ここは個別具体論点になりすぎてしまうため詳細なお話はしませんが、コンサルやファンド投資先の経験だけでは補完しきれない部分でした。
-2013年~2019年までベインキャピタル、アドバンテッジパートナーズ投資先で勤務されていますがファンドについてはどういった違いがあると感じましたでしょうか。
統計的な違いで分かるほどの数ではないので、私が関与した案件や他の投資先メンバーの話などを総合して回答します(狭い世界なので、元同僚だけでも6人ほどがベイン、アドバンテッジの投資先で勤務しています)。
投資先の企業規模の違いから、PEファンドを通じて採用される経営・マネジメント層の人数が大きく異なりました。念のためお伝えするとPEファンドは、投資したあとで投資先の企業に経営者やマネジメントを新規に採用します。これはよく勘違いされますが、PEファンドに在籍して投資先に出向するのではなく、ほとんどのケースでは投資先に直接雇用されます。そのため、採用プロセスとしてはまずPEファンドで複数回の面談、次に投資先の社長や幹部の方と面談、入社という流れになります。
ベルシステム24では10名以上このようなプロセスで入社されたマネジメント層がいらっしゃったと思います。一方で、石井スポーツでは私を含めて2名(管理サイド1名、事業サイド1名)だけでした。
前者では、施策の実施に際して、ガバナンス面でもプロジェクト推進の慣れの面でも、盤石かつスピーディーに進められる利点があります。もちろんプロパーの方々が変革の主役ではあるものの、このような体制は投資時の初期仮説を徹底して進めるのに適したやり方だったと感じます。
後者では、マネジメント層の大半がプロパー社員となりますので、その方々との合意形成や、施策を推進もその方々が中心になって進めていただく必要がありました。投資時の事業初期仮説も、投資期間中で補正をかけながらすすめましたし、私自身のウィルを反映させる機会が多かったです。またファンド側もかなり業務の細かいところまで入り込んで、現場の人と一緒になって実行していったイメージです。
前者では、ストラクチャーがしっかりしており仮説をしっかり決めてそれに向かって大きいプロジェクトを3~4年走らせるという印象で、後者の方がスタートアップとまでいかないにしても、より流動的だった印象を持ちます。随時確認しながら仮説を変えていくというところでしょうか。
-ファンド投資先で培われた能力はどういったものだったのでしょうか。またもし現職で発揮出来ている点があれば確認させてください
一歩目を作る能力ですね。コンサルのときは、すでにプロジェクトがクライアントからオーダーされているので、プロジェクトを「やる」ということ自体は決まっていて、スマートに組み立てさえできれば、一歩目の苦労はそこまで大きくないんです。むしろプロジェクトをクロージングすることのほうが難しかったりします。一方で、ファンド投資先ではかなりの量のプロジェクトを走らせないといけないが、そもそも「やる」ということに必ずしも社内合意が取れていなかったりします。一歩目を踏み出す前に時間がどんどん過ぎてってしまうんです。私が好んで使う方法は、まずデータを握ってしまう事。例えばキャスターでは基幹システムのアクセス権をくださいと伝え、拾える数字はすべて拾って、なんだったら1か月ぐらいで誰よりも解像度が高い状態にまでもっていく。最初にシステム担当者と仲良くなり、それによってシステム担当者の人がどういうデータを持っているかがわかるようになり、次にそれを使ってプレゼンする感じです。
次に、いったん1人でやってしまってある程度の成果を出してしまうやり方です。例えば石井スポーツでは、CRMの導入に向けた最初の一歩は、1店舗のごくごく一部の顧客を使ってエクセルをベースとした仮想CRMの施策をサンプルで走らせたことでした。顧客の整理、DMのデザイン、ギフト券の準備発送、結果の分析などをすべて行って成果が出ることを検証し、次に5店舗、半年後に全店、そしてそれを仕組み化するためにCRMの導入といったところまで進めました。現職でも同様ですね。まずは経営を見える化するために計数を整理するところから始めたのですが、その土台となるDWHを作って全社計数を出せるようにするところまでは外部協力者と社内のIT担当に手伝ってもらったものの、入社後3-4か月で設計、ツール選定、導入、運営開始までほぼ1人プロジェクトとして完結させました。こういう早さはスタートアップベンチャーでは重宝されますし、小さい成果ではあるものの社内での信頼を得るために私にとっては重要なプロジェクトだったと認識しています。
-川村様の今後の展望についてはどういった事を想定されておりますでしょうか。
あまりキャリアに長期的な展望は持っていません。いまは現職のキャスターで海外事業、新規事業、M&Aの責任を担っていますので、これらが組織的に回るような体制を築き上げることに注力したいと考えています。
-最後にCXO目指されている方・関心を持たれている方にメッセージをお願いします
すみません、インタビューの意図に沿えてないかもしれませんが、CXOという役職自体にあまり意味はないです。象徴的に使っているのだと思いますが、最近は「CXOになりたい、役職がほしい」という方が増えていて違和感を覚えています。ある領域において、誰よりも成果を出すことができれば社内ではCXOの役職がなくてもリーダー・責任者として見られますし、そのような状態になればCXOという役職名を欲しいとも思わなくなります。
では、どうしたら経営レベルで成果が出せるか?という質問に答えるとすると「自分なりの原理原則を持って、それを徹底できるか」ということかと思います。すごく抽象的に聞こえるかもしれませんが、わりと地道・地味な話で、例えば私の場合は、「制度設計をするときは長期的に耐えうる形になっているかどうかを判断基準にする」、「体制づくりはレポートラインをいかにシンプルにするかを重視する」、「業績が良くなったり悪くなったりしたときは、構造的な理由なのか、一過性の理由なのかを切り分けて対応する(つまり一喜一憂しない)」「100点を目指して進まないくらいなら、60点でも前に進んだほうがマシ」などです。これらを持つことによって、瞬間的な判断が可能になりますし、ブレがなくなります。2-3年前に意思決定したことで、すでに記憶にないような話でも、同じ条件を与えられると全く同じプロセスをたどって同じ結論に至ります。
このような原理原則は、一つ一つの事象に真剣に向き合って必ず自分なりのスタンスを持つことでしか醸成できないので、小さい課題や仕事でも適当に判断しないこと、選択肢を出したり報告するだけでなく常にリスクを取って結論を出すスタンスで仕事をすること、など日々の積み重ねかと思います。そのような小さな積み重ねや、自分なりのスタンスがない状態で「とりあえずCXOのポジションが欲しいんです」というのは少し違う気がしています。