③ 仕入・生産方式:完成品仕入か、自社生産か
④ OPEX・CAPEX:費用項目(例:レンタル費用)か、資産項目(例:建物付属設備)か
⑤ 為替影響:想定している為替レートはいくらか、利益感応度はどのくらいか
― 2. 単年度計画(売上計画/経費予算計画/投資及び資金計画)の立案
(ア) 計画の粒度
中期計画の初年度として大きな水準感(売上・利益)は既に立案済ですので、計画立案はその水準を達成するための詳細計画を立てることが主作業となります。そのため、実績が出たのちに、何が予定通りいかなかったのか、改善のためにどのような手を打つのかを検討できる粒度で立案することが必要です。
(イ) CFOの役割
企業活動は成長することで、利益をあげつつ、ステークホルダーにメリットを還元することができます。成熟度により成長スピードは変わるものの、基本的には前年よりも成長することがスタートとなります。
そのために毎年新たなチャレンジを計画・実行していくわけですが、予定通りいくことはほとんどない、と腹をくくっておいた方がよいと考えています。
これは「計画が未達でもよい」という意味ではありません。チャレンジがうまくいかない場合でも、各事業・組織に「最後まで計画達成に向けた活動を」してもらうのがCFOのミッションであり、そのためにも各事業・組織責任者との間で計画の分解項目を共有し、期中に挽回策の相談相手になれる必要があります。
具体的には、計画と実績を定量的に比較した上で現場が気づいていない場合は予実差異を示して気づかせる、現場から打開策案を引き出す、現場に打開策が無い場合は素人発想と断ったうえでいくつかの方向性を示す事になります。
(ウ) 立案の順序
どのような事業であっても、利益を運んでくるのは製品・サービスを買ってくれるお客様です。販売価格の決定は経営の根幹である、という言葉もあります。私の経験してきた卑近な例ですが、すべての企業で単年度計画は次のようなステップで作られてきました。
① 売上(販売)計画
② 原価計画
③ 経費計画および投資計画
④ PLの作成
⑤ BS/CFの作成
実際には、PLに組み上げると利益が足りない→売上目標を持ち上げる、もしくは経費を削減する等、行きつ戻りつしながらの議論・確定となるのですが、大まかな流れはほぼこの通りと言ってよいでしょう。
(エ) 立案主体
立案の主体は会社の組織設計によって変わってきます。
① 事業本部制
会社組織がブランドや製品の固まり等、売上・経費・利益までを事業責任者のもとでミッションを持っている垂直組織の場合、上記(ウ)の①から④までを事業本部に立案してもらうになります。
この場合、販売と生産の整合・調整を事業本部長(もしくはそのスタッフ)に行っていただくことになり、その調整でCFO以下、企画スタッフが頭を悩ますことは少ないです。一方、計画上のバッファや、リスクが事業内部で丸められてしまうため、どこまでの余裕度・リスクがあるかをあぶり出す必要があり、ここでは事業部スタッフと企画スタッフの信頼関係が重要となります。
② 機能組織制
組織が営業本部、生産本部、商品開発本部等の機能別の水平組織の場合は、上記(ウ)の①を営業、②を生産、③を管理部門も含む全部署が立案・提出することになります。
この場合は事業本部制のメリット・デメリットが入れ替わることになりますが、事業本部制よりも慎重なすり合わせが必要となります。ご想像のとおり、機能別組織は機能間で利益が相反することが多く、組織間の調整がお互いの「解釈」で調整され、積み上げると不整合になっている例がほとんどです。この場合、不整合するものだと割り切って調整する必要 があります。
調整する際のポイントとしては、まず相手(例:営業本部)の言っている事を傾聴し、共感する。一方反対再度のポジションの人たち(例:生産本部)の主張について、営業本部の人たちと確認する。相互に立場が有り、主張が有ることを確認したうえで、全体最適のためにどうすれば良いかを問いかける。この段階で歩み寄りが無い場合は「自分の責任である程度の割り切りで数値をまとめ上げさせて欲しい」と伝え、理解頂くという流れになります。
③ 注意いただきたいこと
いずれの組織体制にもメリット・デメリットがあります。社内調整でご注意いただきたい点は、その作業が付加価値の高い仕事かどうかをCFOは見極めていただきたいと思います。具体例をあげましょう。営業本部は「製品」ではなく、「顧客単位」で計画を立案、生産本部は「製品単位(原価低減計画立案のため、できるだけ細かい品番別に)」で計画数値が必要。ここでまじめな人がやりがちなのが、顧客×製品のマトリックスで数値を固めに行くことです。教科書的には正しいアプローチで、やり切っている会社もあると思います。ただ、計画段階できれいにすり合わせをすることが、本当に付加価値の高い仕事かよく考える必要があります。新規の顧客開拓を営業本部が織り込んでいる場合、どこまでいっても想定値にしかなりません。社内の調整に労力を割くのか、それともその新規顧客を開拓するための戦略を練らせる方が良いのか、CFOは自社の置かれている状況と全体を俯瞰・必要に応じて現場作業を変革する気持ちを忘れないで頂きたいと思います。
(オ) 全体整合
立案主体がどうであれ、CFOは全体をまとめる責任者ですので、積み上げていく過程で下記の点について、理解をしつつ整合させていく必要があります。
① 不透明部分の把握・調整
1. 計画値に実行性のない数値が含まれていないか。含まれている場合の打ち手を考えているかどうか
2. 部署間での不整合はないか。不整合があった場合、どちらの数値を採用すべきか
② 予算精度の向上
1. 費用面・投資面で具体的な投資対効果を設定しているか、具体的な目標数値は何か(売上や、削減工数等)
2. スケジュールが遅れる可能性がある場合の前工程は何か、どのタイミングで遅延が分かるか
3. 施策の責任者はだれか
ご想像のとおり、計画は実績の延長ではあるものの、立案時点ではわかる範囲で未来を予測して作り上げるものです。一定の不透明部分や精度の甘い部分があることは許容する必要があります。
一方で、ファンド投資先のCFOは一定程度の実績の精度を求められます。予実差異が発生したとしても、なぜそうなったのかを説明できる程度には、計画立案時に理解を深めておくべきかとおもいます。
(カ) 正式化
中期計画の時の繰り返しとなりますが、単年度計画の正式化は会社の取締役会での決議が必要となります。決議の前の事前準備・根回しはほとんど同じと考えていただいて結構です。
一つ違いがあるとすると、単年度経営計画は月次で予実差異を追っかける数値となりますので、決議時点で下記のような項目については資料化し、説明したうえで承認を得ておいた方が良いでしょう。
① 前提となる条件
例:既存店舗数と新規出店店舗数、想定の為替水準等
② 新たなチャレンジとなる項目
例:新規顧客数や、その売上金額、実現可能性等
③ 前年から増加する科目とその狙い
例:広告宣伝費なら、何を目的に(認知度向上や拡販等)増加し、どの程度前にストップ
させられるか等
― 3. 予実管理
決議の後は、毎月月次の実績と予算を科目別・部署別に比較していくことになります。ここも大きく分けて2つの領域・粒度があると考えます。
(ア) 売上及び原価
売上はやはり粒度を細かく分析が必要です。店舗別・ブランド別・製品別など業種によって異なると思いますが、日々の売上が積み重なって月次売上があるのはどの会社でも同じです。売上の傾向の変化を受けて、いかに早く打ち手を打てるか、そのスピード感の違いが企業の強弱を生んでいるように思います。
また原価についても同様です。原価はすぐに効果が出る物でないからこそ、早く手を打つ必要があります。商品構成の変化か(原価率の良いものと悪いものの構成が変わったのか)、個別商品の値引き率に変化があったのか、それとも生産現場の歩留まりが変わったのか、分析自体は販売現場・生産現場に行ってもらうとしても、CFOは変化の構成要素は理解しておき、適切な分析を現場に依頼する必要があります。
(イ) 経費
経費分析は主に科目別に大きな金額から差異を把握したうえで、どの部署が予算を超過しているのか、その理由は何かというようにドリルダウン方式で差異を分析していくことになります。
その際、予算が低すぎたのか、それとも時期が前倒しになったのか、そもそも予算外の突発的な費用なのか、その場合、削減できるほかの費用はあるかが主要な問いかけになるでしょう。
大きく費用が超過した場合は細かく分析していくべきですが、売上に対する比率に大きな乖離がない場合は、私の経験ではいったんは各部署の自主性に任せ、翌月以降挽回させる方向で管理する方がうまくいったように思います。
逆に、売り上げが落ちているにもかかわらず、予算の枠内として費用が使われている場合は、要注意です。使ってしまった費用を取り戻すには売上を上げるしかありません。特に、売上に連動する傾向の強い変動費の売上比率が悪化した場合は、構造変化が起きているということですので、急ぎ分析が必要となります。
私の経験上、単年度計画がある程度、合理的に作成されていれば、月次の予実差異が発生しても分析は比較的容易です。ただ、計画そのものがストレッチしたものだと、挽回策の立案・実行が難しくなります。ファンドの投資先では概ね計画のストレッチが求められることが多いため (特に投資初年度もしくは次期計画立案時、成長鈍化した場合や外部環境が厳しくなった場合等)、気苦労は多いのですが、ある程度腹をくくれれば(自分以上に成果が上げられる人がいるなら、すぐにでもバトンを渡すという心づもり)、一喜一憂しなくても済みますし、その状況を楽しむ余裕も生まれるというものです。この境地にたどり着くにはある程度の修羅場はくぐる必要があるのですが(笑)
次回は内部統制整備を含む上場準備、M&AによるExit準備についてご紹介したいと思います。
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