① シミュレーションモデル(財務三表モデル) PEファンドでは投資時にCFまでを含めたモデルを作り、銀行にも計画(バンクケース)を提示しながら、ローンを引き出し投資します。PLだけではなくCFについて対象会社の傾向をつかみ、中期の見立てを議論できれば、安心して任せられると感じるでしょう。 ② LBOローンに関する知見 低金利時代が長く続き、金融機関は利幅の大きい積極的にLBOローンに取り組んでいます。LBOローンには様々なコベナンツ(財務制限条項)がつけられています。財務諸表で計算される利益・キャッシュを元に計算される利益指標・キャッシュ水準や、設備投資制限などです。コベナンツのコンセプトを理解しており、チェックできる体制や報告フォームを銀行と交渉しながら確定することができるCFOは重宝がられます。この点は意外と重要で、あまり情報を開示したくないファンドとできるだけ情報を知りたい金融機関は、情報開示の面では利益が相反します 。よってファンドの意向を理解しながら金融機関側ご理解いただけるロジックで情報開示を制限しつつ、金融機関とも良好な関係を維持することが必要となります。 ③ ファンド特有の報告内容への対応力 ファンドは投資家である機関投資家へ定期的に報告を行っています。またグローバルファンドであれば、グローバルもしくはエリアHQからの指示で突発的な報告を行う場面が出てきます。これら定型・非定型の報告の必要性を理解し、被報告者が納得するスピード感、報告数値の取りまとめ力を想起できる経験は面接官に好印象でしょう。 ④ 監査対応と交渉力 投資期間中は機関投資家の要求もあり、会計監査の受診は必須となります。会計監査は基準が決められているとはいえ、機械的に決まるものはまれであり、会社のポジションをいかに監査人に納得してもらい、監査意見をだしてもらう能力は、どの企業のCFOにも共通するスキルセットです。 ただ、会計原則の枠組みの中で、PEファンドが重視するCashベースの利益(EBITDA:償却前営業利益)に貢献する実務処理を監査法人と交渉することはPEファンドの投資先CFOに特有のスキルと言えます。
① ポテンシャル 投資を決定するにあたり、ファンドチームはデューデリジェンス(DD)を行い、投資委員会への説明・承認を経ています。DDには法務・会計は当然ですが、投資後の企業価値向上につなげるため、会社の強み・弱み・機会・脅威の分析(いわゆるSWOT分析)を行い、投資後の価値向上方法の仮説をもって投資を行います。この仮説はいわゆる100日プランのたたき台となるものです。 ② CFOに求めることと自身の付加価値 上記仮説がある中で、なぜ今回CFOを派遣する必要があるのか。ファンドはどんな役割をCFOに求めているか、それを実行する能力・エネルギーが自身にあるのかを確認することは、相互の期待値ギャップを埋めるためにも、自身のトラックレコードを確かなものにするためにも大変重要なことです。 一口にCFOといっても企業の規模・成り立ち・業種によって求められるものが異なることはご想像いただけると思いますが、株主であるファンドが求めているものは何かを面談中に確認し、期待に応えられないと思うのであれば身を引くこともプロ経営者としての責務と思います。 私自身の卑近な例では、米系ファンドの投資先のCFO面接の際に、「事業部側の成長投資をさらに加速するような役割」を期待され、自身のキャリア(どちらかというと守備的な役割が多かった)を正直にお伝えして、ご縁がなかったことがあります。 ③ 相性 ファンドチーム内の役割分担(投資側なのか、バリューアップ側なのか)の把握と自身との関わり合い・相性を想像しておくことは投資後の動きに大きく影響します。投資銀行出身で財務モデルやLBOローンのことは詳しいが、事業運営の経験がない方や、コンサルティングファーム出身で外から企業・事業分析をした経験は豊富だが、ファンドに来て事業の意思決定を初めてする方など、いろんな人がいます。CFOのミッションは「ファンドのやりたいことを実行する」のではなく、「企業の価値をあげる」ことですので、目的達成のためのどのように議論・協力していくためにも、相性の理解は重要なこ とと感じます。責任者クラスと担当者クラス、双方との相性が良いのが望ましいですが、責任者クラスとの相性が良く信頼を勝ち得ることができれば、その後の仕事の進め方がかなり楽になります。
(ア) 会社内の状況理解 ① 財務・経理の状況の理解 CFOの位置づけにもよりますが、絶対に担当する領域として財務・経理業務があります。確認する項目としては、経理が関係するシステム(会計、連結、固定資産管理)と基幹系システム(販売、生産、ロジスティックス)との関係は重要です。リアルタイムに連動かバッジ処理なのか、バッジの場合はどのように連携(人力か、インターフェースをかましたものか)しているかなどの確認は、この後のバリューチェーンの理解に役立つとともに、決算早期化や監査対応に役立ちます ② 周辺部署(経営企画・人事)の把握 昨今FP&A(ファイナンシャルプランニング&アナリシス)というキーワードをよく目にするようになりました。このような言葉が出回る前から、経営企画と財務・経理の関係は切っても切れない物であることはご承知のところかと思います。 両部署は計画・見込みの作成、各事業への発信等で一体となって活動していきます。CFOは両方を管掌することが多いと思われるので、両部署の関係性や、数値の作り方の「癖」の把握はその後の動かし方に大きく影響します。 また、個別人件費は人事しか知りえない一方、どのようにPL計上されているか理解ができていない人事部 も存在します。私自身の経験例では会社負担の法定福利費が個人別に分解されて店舗別に計上されているのか、それとも全社合計で部門展開されずに本社共通部門で計上されているのか、人事部ではわかっていないという会社がありました。経理部門と人事部門がうまく連携できておらず、店舗部門の人件費率が低く見えていたことになります。人事の計数感覚がどの程度のレベル感か把握しておくことも重要なポイントです。 ③ 会社全体のバリューチェーンの理解 大まかなバリューチェーンはIMにて理解できていいると思いますが、各部署がどのようにかかわっており、数値はどのように作られているかの理解は会社の課題把握に有用です。 売上情報はPOS等でトランザクションごとに把握され、基幹システムに連携されているのか、それとも集計部署があって経理に報告されているのか。購買はどのようなフローで発注が決定し、原価システムにどのように登録されているのかなど、現場に近いレベルでの実務作業の把握をしておくことで、監査法人やファンドと会話する際に説得力・安心感が増すことになります。
(イ) 会社外の状況理解 ① ファンド関係者の関与度合い 投資後にファンド関係者がどの程度、会社に入り込んでくるかというのは重要なポイントです。月に一度の取締役会の会議にだけ参加するファンドもありますし、日常的に業務に入り込んで口出しするファンドもあります。 思い付きで発言され、投資先の担当者レベルが「株主の意見」として実態にそぐわない変更をしてしまうことや、報告のための集計など付加価値を生まない業務を作り出してしまうことは、意外に多く散見されます ② 銀行との関係およびLBOローンの理解 投資時にLBOローンを付け投資効率をあげるのが一般的です。LBOローンには財務制限条項、報告義務など借り手側が守らなければならない条項が事細かく決まっているのが通例です。 これらローンは貸し手(レンダー)、借り手(ボロワー)双方に弁護士事務所がつき、契約・実行されていますが、ファンド側は成約してしまうと実務処理まではやってくれません。 特に、報告内容については会計数値だけでなく、製品別の利益率やシェアなど、そもそも元データや定義から確認すべきものが含まれている場合があり、初回の報告の前には、どこまで細かく開示すべきかをファンドと調整したうえで期日通りの報告を行う必要があります。 そのため、早期に金利条件、返済タイミング、連絡窓口、ある程度将来の返済計画表などと一緒に、報告項目の整理をしておくとよいでしょう ③ 監査法人、税務顧問、法務顧問、コンサルティングファームのかかわり方 これら外部専門家はファンドごとに近しいファームがあり、それぞれにファンドが求めている役割、特徴があります。 一方で投資先がもともと使っていた顧問もいる場合があり、切り替えるのかセカンドオピニオンとして使うのか、レベル感の見極めも含めてフォーメーションをファンドと詰めておく必要があります。 特に投資ストラクチャで税務メリットを取っている場合は、ファンド側の税務顧問と元からいた税務顧問との間で潤滑なコミュニケーションがとられないことも多く、仲立ちをして実務処理を進めていくのはCFOの役割と言えます。