プロCFOへの道
Professional CFO Column

Profile

大学卒業後、一部上場企業での管理部門(人事・財務経理・経営企画)での業務経験後、PEファンドの投資先への派遣人材として製造業・小売・サービス業でのCFO等を歴任。 PEファンドのバリューアップ担当、会計系コンサルでのPEファンド投資先への改革支援など、PEファンド内外の両方の立場での業務経験を有する。

PEファンド投資先CFOへの道

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  • 【第1回】PEファンドは候補者の何を見てリクルートするのか

    これから数回に分けてPEファンドの投資先CFOの実態をご紹介していきます。 私自身が20年以上実際に経験してきたことをご紹介していきますのでよろしくお願いいたします。

    ― 1. PEファンドとは
    そもそもPEファンドとはどんなことを生業にしているのかから、確認していきたいと思います。私自身、金融機関やコンサルティングファームに勤務している知人はさておき、そのほかの業界の知人には説明に苦労しました。

    ・何をやっているのか
    PEファンドは機関投資家から必要な時に資金を供出してもらい、非公開株に投資し当該企業の企業価値を高めて(バリューアップ)、売却(エグジット)することで利益を上げます。そしてその上がった収益を、投資してもらった機関投資家に還元することを業務としています。一般的には10年の期間の前半5年を投資期間、残りの5年を回収期間とすることが多いように思います。 また、投資の際には機関投資家から預かった資金だけではなく、投資先企業の収益を返済原資とするLBO(Leverage Buy Out)ローンを使って投資効率を上げるのが一般的です。

    ・ここからわかること
    このような生業ですので、①全く縁のなかった会社に入り込んで、②その企業の成長促進や不採算事業の整理を行うことで利益を上げ、③比較的短い期間でIPOや事業会社への売却を行うことが求められます。こういう背景から、投資先企業に送り込む人材(CEOやCFO、CSO、CHROなどCXO人材と呼ばれます)に求められるスキルや知見はある程度、想定することができます。


    ― 2. 採用の窓口
    ではPEファンドではどうやって投資先への派遣人材を探しているのでしょう。現在は1990年代後半のようにファンドが珍しかった時代と異なり、転職もM&Aも一般的になり、特別なルートはないと思っていただいてよいと思います。

    ・エージェント経由での採用
    PEファンドのサイズにもよりますが、ニュースでも取り上げられるような欧米系のファンドでは日々、投資先のバリューアップを行うための人材を探しているといっても過言ではありません。ファンド規模が大きい場合、毎年いくつもの投資を行っているため、常に人が不足している感覚を持っています。そのため、大手リクルートエージェントにはPEファンドをカバーしている担当と週に一度、ミーティングを行っている例もあります。 エージェント側も候補となりうる人物を常に探しており、私にも10年来、定期的に情報交換させていただいている方がいます。

    ・PEファンド独自のネットワークでの採用
    ファンドの中にも投資先企業のバリューアップを主に行う社員がおり、非常勤取締役・監査役などの役職で取締役会・経営会議の時だけ監視を行うパートナークラスとは別に、ジュニア・ミドル層で日々、投資先の会議に参加しながら事業の意思決定にかかわっている方が一定数います。バリューアップチームの面々はコンサルティングファームや事業会社の経営企画・財務経理等の業務経験を持ち、前職での同僚や取引先のネットワークがあります。特にコンサルティングファームでは案件ごとにチームアップして支援先に入り込みますので、ファーム内のネットワークだけでなく、支援先の社員の方々と一定期間、濃密なコミュニケーションをとる場合もあり、このネットワークでも人をリクルートします。

    ― 3. 候補者の何を見ているのか
    では、PEファンドの採用担当は候補者の何を見ているのでしょうか。投資先ごとに状況が異なるため、個別の事象ではそれぞれの比重がことなると思いますが、私は選ばれるときは次のような項目を重視されてきたと感じますし、少なくとも自身が選ぶときはこの観点から候補者を見てきました。

    ・時間感覚
    前述の通り、PEファンドは早ければ3年、長くても5年をめどに投資先のバリューアップを行い、エグジットをして利益を確定させなければなりません。そのためこの時間軸で成果を上げるという時間感覚を共有できるかどうか、が重視されます。着手してすぐ効果が出るようなわかりやすい施策が転がっていれば、そもそも対象の事業会社がやって成果を出しているものです。事業の意思決定は10回中、9回は成果が出ないとも言われ、そんな難しい仕事を短時間で、かつ成果をだすということにチャレンジできる人間かどうかを面接官は見ています。

    ・人間性
    そもそも頭脳明晰、ロジカルなPEファンドの社員と事業会社の(特に現場で作業をしているような)社員とは、普通は出会うことがない人たちです。ファンドから送り込まれるCXOは異世界の住人たちそれぞれの言葉を理解し、時には翻訳して伝えながら、成果を上げるための変革を起こしていく必要があります。 投資先の社風にもよりますが、従来やってきたことを「変化」させていく必要があるため、CXOであるというポジションから下に指示を出しても、だいたい変化は起きません。現場側に「どのように変化すればよいかわからない」のはましな方で、そもそも「外から来た人間に自分たち以上にうまくできるはずがない」、「自分たちの業界はほかの業界と違う」と思われることのほうが多いです。 このような状況で、ファンドの時間軸に合わせた変化を起こすには、スキル・知見の前に投資先の社員に受け入れられる人間性 が求められます。 派遣される企業によって様々ですが、私が最初の派遣先に一緒に派遣されたCEOに言われたアドバイスは「現場に降りていき、話を良く聞くことは大事。ただ、同類として与しやすいと思われてはいけない」というものでした。 私はこの言葉を、次のように解釈しています。「他者の経験・考えは真摯に聞き、敬うという、人として当たり前のことをする。ポジションで命令することで人を動かそうとするのではなく、相手が受け入れやすいロジック・話しぶりで納得してもらって自分事として動いてもらう。そのためには人によって態度や発言を変えてはならないし、謙虚な姿勢でいることが大事」であると。

    ・スキル・知見
    以上のような人間力の後にスキル・知見が評価されるわけですが、CFOに求められるスキル・知見とはどのようなものでしょうか。一般的なCFOに求められるスキル・知見と大きくことなることはありませんが、PEファンドの投資先CFOに特に求められるものとしては次のようなものがあげられます。

    ① シミュレーションモデル(財務三表モデル)
    PEファンドでは投資時にCFまでを含めたモデルを作り、銀行にも計画(バンクケース)を提示しながら、ローンを引き出し投資します。PLだけではなくCFについて対象会社の傾向をつかみ、中期の見立てを議論できれば、安心して任せられると感じるでしょう。
    ② LBOローンに関する知見
    低金利時代が長く続き、金融機関は利幅の大きい積極的にLBOローンに取り組んでいます。LBOローンには様々なコベナンツ(財務制限条項)がつけられています。財務諸表で計算される利益・キャッシュを元に計算される利益指標・キャッシュ水準や、設備投資制限などです。コベナンツのコンセプトを理解しており、チェックできる体制や報告フォームを銀行と交渉しながら確定することができるCFOは重宝がられます。この点は意外と重要で、あまり情報を開示したくないファンドとできるだけ情報を知りたい金融機関は、情報開示の面では利益が相反します 。よってファンドの意向を理解しながら金融機関側ご理解いただけるロジックで情報開示を制限しつつ、金融機関とも良好な関係を維持することが必要となります。
    ③ ファンド特有の報告内容への対応力
    ファンドは投資家である機関投資家へ定期的に報告を行っています。またグローバルファンドであれば、グローバルもしくはエリアHQからの指示で突発的な報告を行う場面が出てきます。これら定型・非定型の報告の必要性を理解し、被報告者が納得するスピード感、報告数値の取りまとめ力を想起できる経験は面接官に好印象でしょう。
    ④ 監査対応と交渉力
    投資期間中は機関投資家の要求もあり、会計監査の受診は必須となります。会計監査は基準が決められているとはいえ、機械的に決まるものはまれであり、会社のポジションをいかに監査人に納得してもらい、監査意見をだしてもらう能力は、どの企業のCFOにも共通するスキルセットです。 ただ、会計原則の枠組みの中で、PEファンドが重視するCashベースの利益(EBITDA:償却前営業利益)に貢献する実務処理を監査法人と交渉することはPEファンドの投資先CFOに特有のスキルと言えます。

    なお、選考最終フェーズでリファレンスチェックが行われる場合があります。はっきりと不足点をお話しいただける場合は少ない前提で、私自身が選考時に確認していた点は、応募者がどのように「見られていたのか」が中心だったかと思います。 具体的にはご本人が説明されていた経歴・実績を、他の方々はどのように評価されていたのか、仕事を変わられた際の経緯・ふるまいはどうだったかなどです。人間性に問題がなくとも、チーム内の関係性により全体のパフォーマンスに影響が出ることは往々にして起こりうることだからです。


    次回はCFOとして採用、派遣された後の立ち上がり期の業務についてご紹介したいと思います。

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  • 【第2回】入社後投資先への入り込み方、100日プラン、LBOローン対応について

    ― 1. 事前準備
    めでたくPEファンドメンバーの面接(投資チーム、バリューアップチームからそれぞれ担当者がおられ、複数回実施されることが多い)をへて、投資先マネジメント(元々からおられる方、一緒に派遣される方など、状況によって異なります)のOKが出た後、投資先に入り込むことになります。
    この面接と入社前の待機期間に事前準備作業は始まります。

    (ア) ファンドメンバーとの面接時

    大きく分けて、3つのことを確認していきます。①ファンドが投資した際にみているアップサイドポテンシャルがある領域、②CFOには何が求められ、自身が期待される付加価値を提供できるか、③ファンドチーム内の役割分担と、自身の相性の確認の3つです。

    ① ポテンシャル
    投資を決定するにあたり、ファンドチームはデューデリジェンス(DD)を行い、投資委員会への説明・承認を経ています。DDには法務・会計は当然ですが、投資後の企業価値向上につなげるため、会社の強み・弱み・機会・脅威の分析(いわゆるSWOT分析)を行い、投資後の価値向上方法の仮説をもって投資を行います。この仮説はいわゆる100日プランのたたき台となるものです。
    ② CFOに求めることと自身の付加価値
    上記仮説がある中で、なぜ今回CFOを派遣する必要があるのか。ファンドはどんな役割をCFOに求めているか、それを実行する能力・エネルギーが自身にあるのかを確認することは、相互の期待値ギャップを埋めるためにも、自身のトラックレコードを確かなものにするためにも大変重要なことです。
    一口にCFOといっても企業の規模・成り立ち・業種によって求められるものが異なることはご想像いただけると思いますが、株主であるファンドが求めているものは何かを面談中に確認し、期待に応えられないと思うのであれば身を引くこともプロ経営者としての責務と思います。
    私自身の卑近な例では、米系ファンドの投資先のCFO面接の際に、「事業部側の成長投資をさらに加速するような役割」を期待され、自身のキャリア(どちらかというと守備的な役割が多かった)を正直にお伝えして、ご縁がなかったことがあります。
    ③ 相性
    ファンドチーム内の役割分担(投資側なのか、バリューアップ側なのか)の把握と自身との関わり合い・相性を想像しておくことは投資後の動きに大きく影響します。投資銀行出身で財務モデルやLBOローンのことは詳しいが、事業運営の経験がない方や、コンサルティングファーム出身で外から企業・事業分析をした経験は豊富だが、ファンドに来て事業の意思決定を初めてする方など、いろんな人がいます。CFOのミッションは「ファンドのやりたいことを実行する」のではなく、「企業の価値をあげる」ことですので、目的達成のためのどのように議論・協力していくためにも、相性の理解は重要なこ とと感じます。責任者クラスと担当者クラス、双方との相性が良いのが望ましいですが、責任者クラスとの相性が良く信頼を勝ち得ることができれば、その後の仕事の進め方がかなり楽になります。

    (イ) マネジメントチームとの面接時
    投資先のマネジメントチームとは日常的に顔を突き合わせて、事業運営をしていくことになりますので、自らの立ち位置の確認のためにも、人となり・キャリアを理解しておくことは重要なことです。CFOに何を求めているのかは共通の質問として、チームメンバーの属性によって、確認すべき項目は変わってきます。
    投資と同時に自らと同様に派遣される方であれば、なぜ引き受けたのか、どのようなキャリアを経てきたのか、得意分野はなにか等、自身とのキャリア・スキルの組み合わせのシミュレーションは必須だと思います。
    一方、元々投資先におられた方は若干確認するポイントが異なります。PEファンドに対するイメージや、元オーナーとの関係、現在の課題感など、より実務よりの質問をして、垂直立上げにもっていきたいところです。 個人の方の考えは変えられるものではありませんので、議論をしても溝は埋まらないと考えたほうがよいでしょう。ここで重要なことはその方と自身のパワーバランス(上下なのか、横関係なのか、ファンドがその方をどのように評価されているか等)を確認し、その方の知見・能力をどの領域で活用するかをイメージすることだと思います。垂直立上げを行うためには、多少の意見の違いがあっても、使えるものはどんどん使っていくべきです。少なくとも相手の方のほうが会社や業界について経験が長いので、教えを乞う姿勢で真摯にお話を聞けば、協力を得られます。質問に答え感動されて喜ばない人はこの世にいないと私は思っています。

    (ウ) 待機期間中
    この期間は資料の読み込みを行うことになります。ファンドがDD時に受け取っている外部専門家によるレポート(法務、税務、財務、労務等)や、対象会社がファンド向けに作ったIM(Information Memorandum)のほかに、マネジメントインタビューやキーマンインタビューの記録です。
    特にIMは会社側がみているSWOT分析ですが、投資側のファンドがとらえているSWOTと違うこともあるため、間に立つことが多いCFOとしては事前に把握しておきたいところです。

    ― 2. 100日プラン
    ここでいう100日プランとは二つの側面があります。いわゆる100日プランとは、ファンドが投資後100日の間に行うPMI(Post Marger Integration)の実行スケジュールと言われています。
    もう一つの100日プランとはCFO自身が、会社の理解を深め、周囲の信頼を勝ち得るための準備であり、これは私自身が企業へ入っていく際に実施してきた経験から整理したもので、万人に適応できるかわかりませんが、経験則からお勧めするものです。
    PMIについては100日プランと検索すれば、標準的な物がそこかしこに転がっていますので、本稿では触れません。
    CFOの100日プランは大きく分けて会社内・外の「人」「金」「情報」の理解を深めることを目的にしています。

    (ア) 会社内の状況理解
    ① 財務・経理の状況の理解
    CFOの位置づけにもよりますが、絶対に担当する領域として財務・経理業務があります。確認する項目としては、経理が関係するシステム(会計、連結、固定資産管理)と基幹系システム(販売、生産、ロジスティックス)との関係は重要です。リアルタイムに連動かバッジ処理なのか、バッジの場合はどのように連携(人力か、インターフェースをかましたものか)しているかなどの確認は、この後のバリューチェーンの理解に役立つとともに、決算早期化や監査対応に役立ちます
    ② 周辺部署(経営企画・人事)の把握
    昨今FP&A(ファイナンシャルプランニング&アナリシス)というキーワードをよく目にするようになりました。このような言葉が出回る前から、経営企画と財務・経理の関係は切っても切れない物であることはご承知のところかと思います。
    両部署は計画・見込みの作成、各事業への発信等で一体となって活動していきます。CFOは両方を管掌することが多いと思われるので、両部署の関係性や、数値の作り方の「癖」の把握はその後の動かし方に大きく影響します。
    また、個別人件費は人事しか知りえない一方、どのようにPL計上されているか理解ができていない人事部 も存在します。私自身の経験例では会社負担の法定福利費が個人別に分解されて店舗別に計上されているのか、それとも全社合計で部門展開されずに本社共通部門で計上されているのか、人事部ではわかっていないという会社がありました。経理部門と人事部門がうまく連携できておらず、店舗部門の人件費率が低く見えていたことになります。人事の計数感覚がどの程度のレベル感か把握しておくことも重要なポイントです。
    ③ 会社全体のバリューチェーンの理解
    大まかなバリューチェーンはIMにて理解できていいると思いますが、各部署がどのようにかかわっており、数値はどのように作られているかの理解は会社の課題把握に有用です。
    売上情報はPOS等でトランザクションごとに把握され、基幹システムに連携されているのか、それとも集計部署があって経理に報告されているのか。購買はどのようなフローで発注が決定し、原価システムにどのように登録されているのかなど、現場に近いレベルでの実務作業の把握をしておくことで、監査法人やファンドと会話する際に説得力・安心感が増すことになります。

    (イ) 会社外の状況理解
    ① ファンド関係者の関与度合い
    投資後にファンド関係者がどの程度、会社に入り込んでくるかというのは重要なポイントです。月に一度の取締役会の会議にだけ参加するファンドもありますし、日常的に業務に入り込んで口出しするファンドもあります。
    思い付きで発言され、投資先の担当者レベルが「株主の意見」として実態にそぐわない変更をしてしまうことや、報告のための集計など付加価値を生まない業務を作り出してしまうことは、意外に多く散見されます
    ② 銀行との関係およびLBOローンの理解
    投資時にLBOローンを付け投資効率をあげるのが一般的です。LBOローンには財務制限条項、報告義務など借り手側が守らなければならない条項が事細かく決まっているのが通例です。
    これらローンは貸し手(レンダー)、借り手(ボロワー)双方に弁護士事務所がつき、契約・実行されていますが、ファンド側は成約してしまうと実務処理まではやってくれません。
    特に、報告内容については会計数値だけでなく、製品別の利益率やシェアなど、そもそも元データや定義から確認すべきものが含まれている場合があり、初回の報告の前には、どこまで細かく開示すべきかをファンドと調整したうえで期日通りの報告を行う必要があります。
    そのため、早期に金利条件、返済タイミング、連絡窓口、ある程度将来の返済計画表などと一緒に、報告項目の整理をしておくとよいでしょう
    ③ 監査法人、税務顧問、法務顧問、コンサルティングファームのかかわり方
    これら外部専門家はファンドごとに近しいファームがあり、それぞれにファンドが求めている役割、特徴があります。
    一方で投資先がもともと使っていた顧問もいる場合があり、切り替えるのかセカンドオピニオンとして使うのか、レベル感の見極めも含めてフォーメーションをファンドと詰めておく必要があります。
    特に投資ストラクチャで税務メリットを取っている場合は、ファンド側の税務顧問と元からいた税務顧問との間で潤滑なコミュニケーションがとられないことも多く、仲立ちをして実務処理を進めていくのはCFOの役割と言えます。

    (ウ) 上記を踏まえたファンドのプランの検証
    これら周辺状況を理解したうえで、ファンドがビジネスDD等から計画したいわゆる「100日プラン」が妥当なのかを評価して、進めるにあたっての不足リソースやキーマンの把握などを行ったうえで、実行を支援していく必要があります。
    ここで面白いのは、ファンドのプランですぐに実効があがるものなど、ほとんどないということです。 これはファンドやDDをした外部専門家のレベルが低い、ということではなく、事業の理解や構造改革がそれだけ難しいということだと思います。「100日プラン」の本当の意味は、3か月程度で仮説ベースの施策の有効性を見極めることというのが私の実感です。方向性から間違っているものもありますし、達成できると思っていた水準感が違うものもあります。だからこそ前回触れた通り、とにかくスピード感をもってPDCAを回し続け、ギャップが判明したものからマネジメントチームと議論をし、軌道修正(場合によっては施策そのものを取りやめる)していく時間感覚が必要となるのです。


    次回は財務数値の把握のためのプロジェクトについてご紹介したいと思います。

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  • 【第3回】財務数値の把握のためのプロジェクトについて

    ― 1. 背景
    ファンド投資チームは投資前のDD(デューデリジェンス)では結果数値の分析は行っているものの、実際の月次決算の作業方法(時間軸・粒度・基幹システムとの関係等)までは投資先に入ってみるまでは不明です。そのため、ファンドでは投資直後から外部の専門家(主に会計系コンサルティングファーム)を使って「財務数値の把握のためのプロジェクト」を走らせることがほとんどです。ファームと投資先の財務経理部門との役割分担は投資先の状況によって千差万別ですが、おおよそ①管理会計の解像度アップと②決算作業の効率化=早期化の二つのパターンがあるように思います。①の場合、ファームが現場にある数値を組み合わせて実績分解を行う「モデルの作成」まで行うことが多い印象です。一方、②については作業工数を減らすための計算シートの作成までをファームが行う場合もありますが、どちらかというとファームはファンドや投資先マネジメントへの「説明資料」を作るのが精いっぱいで、実際の効率化・実務処理の変更はCFOが現場を指導せざるを得ない、というのが私の経験則です。
    DDの際に使ったFA(Financial Advisor)の事務所を使う場合もありますし、ハンズオンを売りにしたブティック系ファームから選ぶこともあります。
    前回予告から内容を少し変更して、今回はこのようなプロジェクトでの注意点を少し深堀したいと思います。


    ― 2. 具体的な論点
    (ア) 外部専門家の見極め
    ① ファンドとの関係
    いくつも投資を行っているファンドには従来から親しくしているファームがあるものです。気心が知れているということもありますが、ファンドが機関投資家や投資委員会へ報告する際のポイントをわかっていて、いちいち説明が不要ということが大きいと思います。よってCFOは与えられた駒(ファーム)をどう使うかというスタンスでいたほうが良いでしょう。ファーム名は投資先企業が使える費用感・課題感によって差が出てきますが、エスネットワークスさんやリヴァンプさんのほか、監査法人系のFAS部門が最初に名前が挙がるところです。最近はこれらファームを卒業して個人で業務受託を行う方々も増えてきました
    ② 担当するマネージャーとジュニアスタッフ

    実際のプロジェクトではパートナーが統括しその下にマネージャークラスとジュニアスタッフがチームアップ体制図でとなることがほとんどです。
    本来、パートナークラスが成果物の「品質」を担保するべきポジションですが、実際にはマネージャークラスに任せきりになるのが通例です。
    よってマネージャークラスの実力を見極めどう使うか、が「将来的に使える成果物」を生み出せるかどうかのポイントとなります。
    各人の経験・職歴はCV(職務経歴書:ラテン語のcurriculum vitaeの略とされる)で確認するとして、会計的な知識や資料を作る能力よりも、経理実務にどの程度知見・経験があるか、ということが重要です。
    ③ どのように使っていくか
    このプロジェクトの費用はファンドの指示ではあるものの、投資先負担で行われることが一般的です。ということは形式的にはファームのクライアントは投資先であり、ファンドではありません。よって投資先が将来的に使いやすく意味のある(実務とはなれた、報告のためだけのレポートにならないよう)成果物とするため、CFOはプロジェクトの方向性をリードしていく必要があります。

    (イ) 財務会計と管理会計
    ① 意外と難しい両者の整理
    CFOを目指す方であれば両者の違いのご説明は不要と思いますが、意外と実務面で切り分けるのは難しいというのが私の経験則です。これはファンドの方だけでなく、投資先の実務者でも混乱されている方がいます。例として財務会計(及び財務会計システム)では売上の粒度は細かい必要はありません。小売業で日別・ブランド別に売上が立っていたとしても、財務会計では極端な話、月の合計で一本仕訳を起こせばよいのです。日別売上やブランド別、製品別の売上情報は管理会計に属する領域であり、財務会計の外側で明細が取れれば、財務会計では上記の通りまとめて計上で事足ります。実務的に難しいのは、売上先の管理や売掛金の消込を財務会計システムの中で行ってしまっている例が多いからです。そのため、財務と管理がごっちゃになってしまうのです。
    ② 両者の相反関係
    財務会計はできるだけ仕訳を少なくすれば決算は早くしまりますが、管理会計は細かくすればするほど解像度が高まり、具体的な施策につながるため両者は利益相反の関係にあると言えます。
    また財務会計は最終的に株主や金融機関など外部への報告数値となりますので正確性(対象期間、段階利益)が求められますが、管理会計は「経営の判断のために必要な情報」であるため、ある程度の割り切りのもとトレンド変化(例:前年比)や横比較(例:店舗間、ブランド間等)ができる数値の集計が必要となります。

    (ウ) 決算の早期化
    ① EXITを見据えた月次決算スケジュール
    投資規模にもよりますが、一定程度の規模の投資案件であればIPOもしくは上場企業への売却がファンドのEXITの基本戦略となります。
    これはグループ連結の月次決算を四半期ごとに45日で市場に開示する前提で、決算スケジュールを早期化する必要があるということを意味します。
    しかもこの日程に間に合うよう、連結や国際会計基準へのコンバージョン、注記情報、開示資料の作成に加えて監査法人からのお墨付き(監査意見書)の取得までを行う必要があります。
    ② 実務処理能力
    投資先企業の準備状況にもよりますが、非上場の会社では単体ベースの決算を締めるのがやっとで、それ以降の作業は全くしていない例が多いです。しかも支払いを間違わないことを優先するために、月次決算を翌々月まで締めないという例もあります。
    ファンドの担当者ではこの作業をどのように早めるのか、どこにリソースを追加すべきなのか、そのために処理をどのように変えるのかは皆目見当がつきません。これらの実態把握もプロジェクトのカバーする領域の一つです。
    ③ 将来の業務改善を見据えて
    最近では会計系ファームの担当者でも「具体的に」どのように変化させていけばよいのか、わからない人も増えました。特に大手と言われるファームでは会計士の資格を持っていても、具体的に仕訳を起こしたことがない若手もたくさんいます。CFOはいずれ早期化を主導していかなければならないわけですから、このプロジェクトでより実務に近い処理を把握し、改善の方向性をイメージしておくことはとても重要です。


    ― 3. ファンドの求める物と実務との調整
    (ア) ファンドが求める管理粒度
    プロジェクトを進めていく中で、ファンドがどのようなレベル感を期待しているのかを探って調整していくわけですが、基本的にファンドは改善プランの実効性を見えるようにしたいものです。自分たちがバリューアップできると示すことが、ソーシング(新たな投資先候補の探索)やファンドレイズ(機関投資家の資金集め)へのアピール材料になるからです。
    よってファンドは財務会計では必要のないブランド別・製品別などの詳細情報を見えるようにしたいニーズを持っています。ブランド別・製品別の「営業利益」やチャネル(店舗・EC・卸等)別・店舗別の「営業利益」を見たいというニーズは分からないでもないですが、細かくすればするほど「共通費の配賦」という問題がでてきて、時系列比較の意味がない数値を作ることになります。

    ① 悪影響の具体例
    AとBという商品・店舗がひとつずつある例で説明しましょう。店舗経費はそれぞれ発生した費用が把握できている(直課可能)。一方、本部人員は両店舗の仕事をやっているため、(工数管理をやればできなくはないものの)正確には分解できない。しかたがないので、AとBの売上の比率で案分(配賦)して営業利益を計算する。翌年は前年に比べてA商品は売り上げ横ばいだったが、B商品は売り上げが倍増した。前年と同じ考え方で営業利益を出すと、Bに多く配賦され、Aの売上実態が全く変わっていないのに、配賦が減った分営業利益ベースでは改善したように見え、BよりAの方が良い製品であるという間違った判断をしてしまうことになるのです。
    ② 概念の整理
    解像度を上げることは良いことですが、CFOはファンドの言うままにモデルをくみ上げる癖が強いファームを、うまくコントロールして、ファームが抜けた後も事業判断に使える数値を計算する成果物を作らせなければなりません。このあたりのバランスは難しいところですが、ポイントは現場が理解して、行動をかえることができることと考えています。最も詳細なデータはトランザクション(例:日々の製品別・店舗別売上)データがあり、これらは現場が日々確認して、手触り感があるものです。これらを積み上げることで大きなトレンドや変化点を実感してもらうことは事業判断に使えると言ってよいでしょう。一方で現場がみていないブランド別利益率などは慎重に検討が必要です。上記の例では、店舗別の経費は取れるが、共通費は工数分解ができないため、正確な経費が計算できないことをファンドに理解してもらい、粗利ベースの比較モデルとするか、直課できる部分のみの比較モデルとするか、はたまた、共通費の売上に対する比率を決めて売上から計算するモデルにするかなど、いくつかのパターンがありえます。ファンドに間違った判断をさせないために、かつ、実務担当者がデータ更新を継続していけるようなモデルにするのはCFOの腕の見せ所と言ってよいでしょう。
    私自身はファンドの求める粒度が意味があるものであれば、ファームがいる間にワークシートを作ってもらい、かつ、自分でも更新作業を行っています。逆に意味がないと感じた物は、その理由を伝えたうえで理解を得る努力をし、それでも要求された場合は、その目的を確認、シンプルなロジックを提案・合意をしたうえで数値を作ってきました。

    (イ) ファンドが求めるスピード感
    ① ゴールと実現スピードイメージ
    ファンドは常に最終ゴールから逆算で今の状況を見ています。上記にもお示しした通り、最終ゴールは四半期決算・45日開示となります。このゴールにどのように近づくかですが、実績が早く締まればその分改善策を打つ時間が多く取れることになります。
    ファンドはROI(投資収益率:Return On Investment)はもとより、IRR(内部収益率:Internal Rate of Return)でも同業他社比較されます。よって「なるべく早く実現する」ということを常に意識しています。
    決算早期化についても同様で、遅くとも6か月以内に(はやければ3か月以内)「月次決算が翌月半ばには報告される状態」を実現してほしいと思っておいた方が良いでしょう。
    これはどういうことかというと、数値の精度は一定程度の水準を保ちながら、2~5回程度のトライアルで月次決算作業の短縮化を実現しなければならない、ということです。最初の月から仮説をもってトライアルしていく重要性がご理解いただけるかと思います。
    ② 実務作業者への働きかけ
    とはいえ、CFOが全ての作業を一人で、しかも初月から実施できるわけではありませんし、そういう役割でもありません。経理財務は記帳だけでなく回収・支払等の資金移動についても、最後の砦となります。実務を壊さないように、かつ、もともと保守的な人が多い経理財務部門の人たちの業務を改善していくためには、変化に向かってチャレンジしてもらう必要があり、変化を的確に指示するとともに、受け入れてもらうためにも初回で触れた「人間性」(スキル・知見の前に投資先の社員に受け入れられること)」が必要となってくるのです。

    (ウ) 実務とのすり合わせの勘所
    実際にすり合わせするにあたって、どの程度の水準を目指すかは私自身も毎回悩みます。ご想像の通り、ファンド及び投資先の置かれている状況によって、正解はありません。以下に述べることはあくまで個人の意見ですので、参考にしていただき、ご自身の例に合わせて調整いただけば幸いです。

    ① ファンドへの説明
    まず、ファンドとは粒度や時間軸について、ゴールイメージを共有していること、目指そうとしていることを伝えます。その前提で、投資先の現状を伝えベストエフォートでゴールに近づくよう、実務を変革していくことを伝えています。
    くわえて、少しずつでよいので毎月進化していく様を見せるようにしました。
    たとえば初月は一部門・一事業のPLを例に、主要科目の計上実態(例:月ズレになっているとか、共通費で計上されているため直課されていない等)を説明。翌月は直課されている費用と配賦すべき金額のボリューム感を説明し、直課するために業務処理を変更しなければならないのか、変更した場合には工数が増えて、早期化の阻害要因になる等をインプット。その次の月は、数か月の傾向を見せて、売上の比率で試算すれば大きなずれは生じないことを検証した結果ことなどを説明というように、部分から全体に広げる場合もありますし、逆に全体の費用構成から説明して、取り組む科目を最初に絞った時もありました。
    ② 担当者への働きかけ
    担当者には「実務が一番重要で、レポートのために実務を壊したら元も子もない」ということを伝えるとともに、「目指すゴールは高く、少しずつでもレベルを上げていかなければならない」ということをはっきり宣言しています。
    その際、これを機に経理財務担当者が「直したくても事業側に受け入れてもらえなかったこと」「改善したくても手を付けられなかったこと」を一緒に改善していこう、というメッセージを発信したうえで、実際に自身が泥をかぶることをやって見せています。
    いつも通用するかどうかは分かりませんが、泥臭い例をご紹介して本稿を終わりにしたいと思います。
    「現場が経費精算や支払依頼を期日通り持ってこない、言っても変えられない」といった経理部員のあきらめの声がありました。これに対して「期日に間に合わなかった提出は『全てCFOが状況を確認したうえで、可否判断をするので、部屋に持ってくるよう』にということを全社に通知するように」と指示をしました。
    売上が数百億円を超える会社で、宣言通りすべてをチェックするのは正直大変でしたが(途中で記録をするのをあきらめるくらいのボリュームで、正確な件数は覚えていないのですが、初月は500件は超えていたと思います)、このことで経理の担当者の信頼を得られたことは今となっては良い思い出です。



    次回は中期事業計画の立案・モニタリングについてご紹介したいと思います。

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